6月12日、東京都内を中心にRCマンションの建設を行っていた「暁(あかつき)建設」が、東京地方裁判所より破産手続き開始決定を受けた。
投資用RCマンションの建設を多く手がけ、業界内では名の知れた存在だった同社。2023年の始めごろから資金繰り悪化のうわさが立ち始め、2023年7月期は53億1700万円の売上高に対し、利益は1025万円にとどまっていたとの報道も。
そして今年3月末に事業停止を発表、破産申し立ての準備に入ったとされていた。事業停止後の4月8日には、本店を埼玉県戸田市から東京都葛飾区に移転している。
報道によれば、負債総額は52億7104万円で、債権者は360名。楽待新聞では以前、建設途中の物件を抱える投資家にも取材を行っていた(過去の記事)。正式開始が決定したいま、当事者のオーナーは何を思うのか。
約6500万円の請求を予定
東京23区の城北エリアに、4階建て10戸ほどのRCマンションを新築中だった投資家の山川さん(仮名)。現在は別の建設会社に依頼をし、9月の稼働に向けて工事が進んでいる。
暁建設の破産開始決定については、6月12日に代理人弁護士から通知を受けて知ったといい、「ようやく破産管財人も決定し、事後処理が一歩前進したと感じています。ただ、負債額については気になる点もあります」と話す。
報道では、360名に対して負債総額は52億7104万円とされている。債権者の中には給与が未払いの従業員などが含まれている可能性はあるが、1人当たりの債権額は約1460万円だ。
「複数の施工業者などから、数億円の未払い金があると聞いています。また私自身で言えば、弁護士と相談のうえ、約6500万円の請求を予定しています。他のオーナーも数千万円の請求額になるケースが少なくないと思われます。それらを考慮すると、もう少し高額になるのではと感じます」(山川さん)
仮に負債総額が過少に評価されていた場合、「債権額の調整が困難になり、余計に時間がかかってしまうのではないか」と山川さんは懸念している。
なお、施工途中でストップしてしまった現場については工事が順調に進んでいるそうで、「いくつかの不備は出ていますが、『全体的には丁寧に施工されている』とのことで、順調に工事が進んでいます」と話した。
総工費はかなりオーバーする見込みだというが、銀行から追加融資を受けられたこともあり、「稼働すればどうにか収支は回っていきそうだ」と見ている。
メインの建設会社は変更になったが、暁建設の破綻前から現場に入ってくれていた下請けの施工業者には、極力そのまま引き継いでもらっているという。
下請けの施工業者には、当時、暁建設に提示していた見積もりと同額(一部施工済みの部分を除く)で依頼をしているというが、その金額を見て山川さんは驚いたという。
「下請けの施工業者さんから出された見積もりを見ると、当時、暁建設との契約書に記載されていた金額を大幅に超えていました。つまり、当時の暁建設が足が出た分を補填していた、ということになります。建築費高騰を見積もりに反映するタイミングを逸して自転車操業を繰り返した末に、回りきらなくなったのではないかなと感じます」(山川さん)
オーナーに戻ってくる金額は「わずか」
債権者の中には、山川さんのような個人投資家も一定数含まれていることだろう。
果たして彼らには、どれほどのお金が戻ってくるのか。不動産に関する法律問題に詳しい関口郷思弁護士は「戻ってきたとしてもわずかな金額になるだろう」と話す。
「破産に関する債権は、弁済の優先順位が決まっています。まず破産管財人への報酬など破産手続そのものに関する費用の弁済が行われ、次いで税金や社会保険料などの公租公課、従業員への未払給与などの優先的な債権、その後に下請け業者やオーナーなど一般債権者への弁済が行われる、という順序になっています」(関口弁護士)
オーナーらに対する弁済は、優先順位の高い債権に対する弁済がなされた後に、残った資産を債権者で按分する形で行われる(これを「配当」という)。
「例えば、数千万円の債権額に対して戻ってきたのは数十万円というように、配当される割合はかなり低くなるケースが非常に多いです。統計的に見ても、大半のケースでは数パーセントに止まっています」(関口弁護士)
オーナーらの元に十分な金額が戻ってくる可能性は高くなさそうだ。
会社が破産となり、負債の返済の目処が立たない場合、その経営者も同時に自己破産となるケースが多い。会社の連帯保証人になっているからだ。
ただ、裁判所で一定の手続きを終えれば、経営者は再び会社を設立し、建設業を営むことが可能になる。
「破産経験者でも、新しく会社を設立することは可能です。そして『免責許可決定』という、以降その負債を返済する義務がなくなる決定が裁判所により行われれば、同時に復権もして建設業許可も取得できるようになります」(関口弁護士)
おそらく現在は、会社と経営者の財産が破産管財人の管理下に移され、破産管財人による資産・負債の調査が進められている段階だろう。破産手続が終了したのち、経営者らがどのように動くのかも注目したいところだ。
中小建設企業の倒産が増えている
暁建設のその後の状況について、帝国データバンク情報統括部の内藤修氏は次のように話す。
「暁建設は事業停止後の4月下旬に事業譲渡を行いました。事業譲渡による譲渡代金が債権者への弁済原資になるほか、仕掛工事も引き継ぎ先が引き受けるのではないでしょうか」(内藤氏)
建材価格や人件費が高騰する中、業種を問わず足元で倒産が増えている。建設業でも5月の倒産件数が190件となり、前年同月比で約4割増加した。
暁建設ほどの大型倒産は発生していないが、中小規模の建設業者を中心に倒産が増加傾向にある。
内藤氏は「地場の建設会社の倒産が増えると、地元経済や取引先への影響が懸念される」と今後の動向を注視する。
◇
暁建設に建設を依頼し、工事の途中だったオーナーは数十人にのぼるみられる。それぞれの債権額は異なるが、請求どおりの額を取り戻せる可能性は低そうだ。
新築物件への投資において、建設会社の倒産はダメージが大きい。工事を依頼する建設会社の倒産リスクを考慮したり、支払い方法や契約内容の詳細を確認したり、投資家自身も慎重な判断のもとで取引を行うよう心がける必要がある。
(楽待新聞編集部)
プロフィール画像を登録