巨大な廃墟リゾート

1年ぶりくらいに、韓国に足を運んだ。

コロナの規制がとかれてから、2度目の韓国だ。現在、「韓国人気」が高く、空港は非常に混雑していた。とくに若い女性の姿が目立った。アイドルが目当てだったり、美容系を目的に来たのだと思われる。

僕はスラム街、廃墟、秘宝館的施設を目的地にしていたので、空港を出て以降、若い日本人女性を見ることは1度もなかった。

今回の最大の目的は、廃墟系のカメラマンに情報を聞いた「巨大スキーリゾート施設の廃墟」に行くこと、だった。

その「リゾ廃」のかつての名前は「アルプス・スキーリゾート」。韓国の東側、ソウルより北の位置にソクチョという街があるのだが、そこから山に向かってかなり進んだ場所にある。北朝鮮にとても近い。

山の中に現れる「廃墟群」、不法投棄のゴミも

ソクチョは観光地だ。ここで有名なのは渡し船(ケッペ)。船ではあるが、人力で対岸にはられたロープを引っ張って進む。なかなか強引な船で面白かった。

2000年の韓国の大ヒットドラマ『秋の童話』にも登場したらしいのだが、いかんせんまあまあ古いドラマなので、日本人観光客の姿はなかった。

韓国・ソクチョの渡し船「ケッペ」(PHOTO: くろがえる/PIXTA)

そこから西の山へ登っていった所に、「アルプス・スキーリゾート」はある。

とくになにもない田舎道を進んで行くと、急に巨大な建物群が現れた。1つのビルが廃墟になったという規模ではなく、街全体が廃墟になったという感じだ。

ズラリと高層のビルが建っているのが見える。山の中に急にオフィス街が広がっているようで違和感がある。

特にバリケードなどもなく、街を歩くことができた。ここまで大きな廃墟群はなかなかないので、歩くだけでドキドキする。

山の中にあらわれた廃墟群

アルプス・スキーリゾートが廃墟になったのは2006年。すでに20年近く経っているが、状態はとても良かった。落書きがされたり、火をつけられたりもせず、綺麗な状態で残っていた。

ただ、不法投棄されたゴミが目立った。捨てられ方から見ても、個人が捨てたのではなく、業者がトラックで捨てたようだ。ガシャッと大量のゴミが積まれた場所が何箇所かある。

実は、日本にも同じようにゴミが投棄されている場所がある。以前は青木ヶ原樹海もドラム缶、古タイヤ、大量のVHSビデオなどゴミが大量に捨てられていた。

世界遺産に選ばれたこともあり綺麗になったが、ほとんど誰も訪れないスキーリゾートの廃墟に捨てられたゴミは片付ける人はいないだろう。中には便器が積まれた場所もあり、陰惨な気持ちになる。

さまざまなものがゴミとして投棄されている

建物の前に植えられていた観葉植物は野放図に伸びている。道路の真ん中からも、新たに樹が生えている。このまま大木になれば、今以上に「カタストロフィ」的な雰囲気になるだろう。

スキー人口の減少にともない…

しばらく進んでいくと、ビルの上に備え付けられた大きな時計が見えた。スキーリゾートとして人気があった頃には、多くの家族やカップルたちがこの時計を目印に待ち合わせをしていたのかもな……と思うと、少しさみしい気持ちになる。

遠くからでもわかる、大きな時計

実はこの廃リゾは、20世紀初頭、日本が、韓国併合による植民地支配をしていた時代から使われていた、韓国で最も古いスキー場だった。

景気の向上とともに、巨大リゾート施設になっていった。ただ、徐々に韓国のスキー人口は減っていった。このスキー人口の減少が、閉鎖の理由だとされている。

この施設は2006年に閉鎖されたが、それからも韓国のスキー人口は減少し続けた。2011年には680万人、現在は400万人を切っているという。ちなみに韓国のだいたい倍の人口である日本のスキー人口も400万人を切っており、業界にとってはより深刻な状況だと言える。

こうした大きな規模の廃墟は、解体して更地にするだけでも何億円もかかる。

僻地にある廃墟群を解体する理由はない。だから今後何十年も、下手したら百年以上先も廃墟群として残っているかもしれない。

「廃墟ファン」としては300年後の荒廃したリゾ廃も見てみたいが、もちろん先にこちらが死ぬので叶わない夢だ。

オリンピック跡地の今

ソクチョに泊まったのだが、ホテルの近くにも廃リゾがあった。アルプスリゾートよりもさらに新しかった。

ホテルの前の道路が廃道になっていたから、廃墟だと分かるがホテル自体はまだ現役と見間違えるくらい綺麗だった。

ただし、ショッピングモールだけは、いい感じに古びていた。

廃墟化したモール

1つ疑問がわくのは、これらの廃墟は、2018年に韓国で開催された冬季オリンピックの舞台であるピョンチャンからさほど離れていないということだ。

こうした施設は、オリンピックのために開発したのだろうか。だが、そうなると、将来的な展望が暗いのは目に見えていたのではないか。オリンピックを開催したからと言って、ウィンタースポーツが再び流行するとは思えない。

ちなみに、そんなオリンピック会場にも足を運んでみた。

ウィンタースポーツのシーズンではない4月末だったのだが、それにしても荒んだ雰囲気だった。駐車場に自動車を停めて降りると、異臭が鼻をついた。おそらく近くで肥料などを作っているのだろうが、それにしてもキツい臭いだった。

メイン会場などいくつかの施設はすでに解体されていたし、残った施設もいくつかは入口が閉じられていた。野外にあるトイレすらも閉鎖されていた。おばさんの10人ほどの団体客とすれ違ったが、それ以外には誰も見ることはなかった。

会場のど真ん中には、オリンピックの時に日本で話題になった通称「モルゲッソヨ像」がややさみしげに建っていた。

銀色の全裸の屈強な男3体が頭にヌルっとしたヘルメットを被っているというおかしな像で、わざわざ男性器もしっかり作られている。

「モルゲッソヨ像」

正式名称は「バレットマン(弾丸男)」なのだが、会場にいった日本人が「この像はなんですか?」と係員に聞いたところ、「モルゲッソヨ(知らないです)」と答えられた、という逸話からそう呼ばれている。

唯一の客であるおばさんたちは「下品ねえ」などと笑いながら、モルゲッソヨ像を指さしていた。

会場内にはカジノも作られていたが、そもそも韓国のカジノは基本的に外国人専用で、韓国人がプレイすることができない。外国から来た客が、わざわざこんな僻地にあるカジノまで来るとは思えない。

将来的に、ここもリゾ廃になっていく姿が目に見えるようだった。誰もいない廃墟群の中に、モルゲッソヨ像だけが佇むのだろうか?

もちろん、こうした問題は韓国だけの問題ではない。

日本でも、オリンピックや万博など、さまざまなイベントが定期的に開催されている。2021年には東京オリンピックが開催されたし、2025年には大阪万博が予定されている。過去に使った施設を使ったら良い気がするが、2つとも、新たに作り直した(している)。

札幌はオリンピックの誘致を目指して活動していたが、少し前に「停止」を表明していた。ただ、実際のところはまだ開催の夢を捨てていないように思える。開催が決まったら、また新たな施設を建てるのかもしれない。

「ゼネコンにお金を落とすことで景気が回る」という効果を狙っているのかもしれないし、実際に効果はあるのかもしれない。それにしても「もったいないなあ」という気持ちになる。

口を開けば、SDGsだのサステナブルだのと繰り返しているくせに、こういう所は無駄遣いしまくるんだなあと思う。

韓国の廃墟群を見て、日本もいつか廃墟だらけになるのかもしれないと思った。

(村田らむ)