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不動産オーナーの皆さまこんにちは! 相続と不動産の専門弁護士、佐々木一夫です。

今回のテーマは「共有不動産」。共有名義の不動産は、賃貸するにも共有者全員の同意が必要になるなど、自由な利用ができません。このことから、共有持分の価値は完全な所有権に比べて大きく下がってしまいます。

しかし、共有持分を上手に処理すれば本来の価値を取り戻すことができます。私もこれまで、弁護士として共有不動産問題を多数扱ってきました。

今回の記事では、共有持分の問題点、共有持分の現金化の手法、それぞれの手法の長所と短所をまとめました。共有持分買取業者に売却する場合の注意点、共有持分をどのように処理すれば利益の最大化ができるのかについて解説します。

共有不動産の問題点

そもそも「共有不動産」とは、2人以上の複数人が所有者となっている不動産を指します。

この「共用持分」を有する共有者には、共用物の使用、変更、管理、保存といった権利(共有持分権)が与えられると同時に、これらの権利に対する制限も受けます。共有者1人で共有不動産にかかる全ての決定を下すことはできません。

共有不動産をどのように利用するか決定する際は、重要な行為(処分行為)は共有者全員の合意が、中間的な行為(軽微変更、管理行為)は持分の過半数の同意が必要です。軽微な行為(保存行為)の場合は、各共有者が単独ですることができます。

このことが、共有不動産の問題を極めて難しくしています。

重要な行為の例としては、借地借家法の適用がある賃貸借契約や、共有する建物の大規模な改修や修繕、建替え、不動産「全体」の売却などです。

不動産を誰かに賃貸する、または売却するというのは、不動産から収益を得るための方法としては最もオーソドックスな行為なのにも関わらず、共有者のうち誰か1人でも反対すればできないのは大変な問題です。

反対とまではいかなくても、共有者の一部と連絡が取れないケースも多くあり、この場合も賃貸や売却ができなくなってしまいます。

なお、民法改正により共有者が行方不明等の場合には裁判所に申立てをして、重要な行為をすることができるようになりましたが、非常に手間がかかるので日常的に使える方法ではありません。

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このように、共有不動産は不動産の本来的な効用を発揮できない側面があります。

十分に活用できないなら共有持分権だけ持っていても仕方ない、処分をして現金化したい、と思う方もいるでしょう。その場合、方法は大きく分けて2つあります。

1つ目は不動産「全部」ではなく、不動産の「共有持分権」のみを売却する方法。2つ目は、不動産「全部」を強制的に売却して、持分に応じて売却代金を分割してもらう方法です。

ちなみに、不動産を現実に分割(例えば土地を二筆に分ける、など)して自分が取得した不動産を売却する方法もありますが、現実には例外的なケースなので今回は説明を割愛します。

共有持分権のみを売却する方法

共有不動産は、「全体」を売却する場合には共有者全員の合意が必要です。しかし、「共有持分権のみ」を売却する場合には他の共有者の同意は必要ありません。

その場合、買い手の選択肢は主に2つあります。1つは共有持分買取業者、もう1つは他の共有者です。

■共有持分買取業者に売却する

最近では、不動産の共有持分のみを購入することを主力の業務にしている不動産会社が存在します。

こういった共有持分買取業者に売却することは直ちに否定はされません。早く、確実に共有持分権を売却して現金化することができるからです。

しかし、共有持分買取業者に売却する場合には、その金額は私の経験上、完全な所有権として売却する場合の1割から、高くても6割が限度になります。

一般的に共有持分権買取業者は、買い取った後に他の共有者に交渉を行い、高い値段で共有持分権を売却するなどして利益を得ます。

どうしても早く処分したいのであれば共有持分権買取業者への売却も良いですが、少し時間がかかっても良いのであれば、他の方法をお勧めします。

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■他の共有者に売却する

他の共有者に売却する場合には、交渉に時間がかかるかもしれませんが、完全な所有権として売却する場合に近い金額での売却が望めます。

他の共有者が共有持分権を買い取れば、完全な所有権にすることができますから、お互いに共有持分権の価値を高めることができるのです。少し時間がかかるのがこの方法の短所ですが、高値で売却することが望めるのが長所です。

ただし、これは共有持分権を他の共有者に売却することで完全な所有権になる場合だけで、共有者が何人もいて、自分の共有持分権を他の共有者に売却しても誰も完全な所有権を取得することにならない場合には当てはまりません。

共有者が多数いる場合には、売却に至るまでの手順が複雑に分岐しますので、弁護士に相談するのが良いでしょう。

不動産「全部」を強制的に売却する方法

一方で、共有者全員の合意がなくても、不動産全体を強制的に競売にかけて第三者に売却する方法があります。「共有物分割訴訟」という方法です。

民法258条では、共有関係を解消するために、当事者間で話し合いがつかない場合には共有物分割訴訟によって、不動産全体を競売にかけることができると定めているのです。

競売と聞くと、市場価格よりも相当安くなるのではないかと心配な方もいると思います。確かに、昔は競売物件は市場価格の7~9割程度で落札されることが多かったと思います。

今では競売に対する理解が進んだことや、競売後に不動産に居座る人の排除方法が強力になったことにより、私の経験上、都市部であれば市場価格とあまり変わらない価格で落札されることが相当多いです。

しかも、仲介業者がいないため仲介手数料がかかりません。

訴訟をするため時間はかかりますが、高値での売却が望めることが長所と言えるでしょう。ただし、共有物を競売にかけるにはいくつかの要件があるので、その点は弁護士に相談したほうが良いでしょう。

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賃料相当損害金を請求可能なケースも

繰り返しになりますが、共有不動産は1つの不動産を複数名で共有しているため、基本的にその利用方法を単独で決定することができません。

しかし、現実には共有者の一部の人が事実上不動産を単独で利用していることがあります。例えば、父親が所有していた物件を息子3人で相続したものの、実際は長男だけがその物件に住んでいるというような場合です。

これでは、事実上占有している長男だけが共有不動産から利益を得ていて、他の共有者は十分にその恩恵にあずかれていません。

こういった場合、当該共有者に対して、自分の持分を超える利用をしているとして賃料相当損害金を請求することもできます。長年単独で共有不動産を利用している共有者には、過去にさかのぼって、賃料相当損害金を請求することも考えられます。

また、共有している不動産が収益物件であり、共有者の1人が賃料を単独で得ている場合には、この賃料のうち請求者の共有持分に相当する額を請求することもできます。

共有不動産を現金化する場合には、これらの請求をし忘れないようにしましょう。

このように、共有不動産の共有持分権の利益を最大化して現金化する場合には、複数の手法があります。

現金化を急いでいる場合は共有持分買取業者に売却、より高く売るのであれば他の共有者への売却や競売にかけるのがおすすめです。

少し複雑な手順を踏むことになりますが、共有者が多い場合や、収益物件の場合、共有者が買取をすでに拒否している場合などでも、交渉や手続きのやり方次第で、完全な所有権の場合の価値と同じ、または近い価格で現金化できることが多いです。

しかし現状として、共有持分権が適切に処理されていない例はたくさんあります。私もこれまで、弁護士として毎年何十件という共有持分の処理を担当してきました。

この記事を読んだ皆さんには、少しでも、共有持分権の適正な価値での現金化の手法を知っていただき、適切な方法で最大限の利益を出してほしいと思います。

(弁護士・佐々木一夫)