政府は今年6月、「土地基本方針」を閣議決定した。土地基本方針は、2020年の土地基本法改正において制度化されたもの。関係省庁が一体性を持って、時代に合った土地政策を講じられるよう、基本的な方向性がとりまとめられている。方針の変更は2021年5月以来だ。
土地基本法は、「土地についての公共の福祉優先」、「適正な利用及び管理等」、「円滑な取引等」、「土地所有者等による適切な負担」の4つの基本理念を持っている。
土地活用における国の方針を把握しておくことは、不動産を保有する人、あるいはこれから保有しようと考えている人にとっても役立つかもしれない。今回どのように変わったのか、具体的な内容を見ていこう。
土地基本方針が示す現状と課題は
土地基本方針では、現状と課題について下記の3つを取り上げた。
(1)人口減少・少子高齢化、世帯数の減少
(2)東京圏等への集中・偏在、アフターコロナ時代の多様な生活様式への転換、DX・GX等の進行
(3)気候変動の影響等による災害の激甚化・頻発化
総人口に占める高齢人口の割合は今後も上昇する見込みで、特に地方部においてこの傾向は顕著だ。「2050年には無居住化するエリアが国土の約2割を占めるとの推計もある」と記載されており、人口減が土地活用に与える影響の大きさを示した。
また、「増加を続けていた世帯数も近く減少に転じる」と分析し、こうした構造的な変化に伴って、土地の総需要の低下を前提とすべきだと指摘している。
続けて、東京一極集中の問題も指摘。未だに東京都は転入超過であり、「人口が地域的に偏在化する傾向にある」とした。
一方で、デジタル・トランスフォーメーション(DX)により働く場所を選ばなくなっていることを受け、「若い世代による移住相談件数の増加など地方移住への関心の高まりが顕在化している」と前向きな変化にも触れている。
これらの動きは、東京一極集中の改善と防災対策にも繋がるとの見方もできるだろう。
宅地化から方針転換、「サステナブル」目指す
上記のような傾向を踏まえ、新たな土地基本方針では、その転換が明らかにされた。
これまでは「宅地化等を前提とした土地政策」を行っていたが、そこから軸足を移し、限られた国土の土地利用転換やその適正な管理等を進める「サステナブルな土地の利用・管理」の実現を目標に掲げた。
宅地化にこだわらない方針転換によって、地域の実情に応じた土地の利用転換、円滑な不動産流通・取引の確保などを図る。
土地に関する施策のうち、下記4つが主な新規・拡充事項として挙げられている。
(1)土地の利用・管理に関する計画策定、適正な利用・管理の確保を図るための措置
(2)土地取引に関する措置
(3)土地に関する調査、情報提供等
(4)土地に関する施策の総合的な推進を図るために必要な事項
これらには、不動産取引・投資に関連する項目が多く含まれている。次章以降で、関連性の強いものを中心に見ていこう。
低未利用土地の利用活性化
まずは、低未利用土地、所有者不明土地等への対応に関する措置について。低未利用土地とは、空き地や空き店舗などで十分に活用しきれていない土地だ。
この取引・利活用の促進として、「低未利用の土地等を譲渡した場合の個人の譲渡所得に係る税制特例措置により、新たな利用意向を示す者への譲渡を促す」考えに触れた。
つまり、税金を優遇することで、活用しきれていない土地の売買を活性化し、より効果的な土地利用の促進を狙うわけだ。
さらに、低未利用土地への投資を活性化するため、「不動産特定共同事業の活用促進、同事業に係る税制特例措置、セキュリティトークン(デジタル証券)やクラウドファンディングにより、土地・不動産の取引・利用を促進する」としており、投資方法の拡大が図られる可能性がある。
税制優遇・取引オンライン化で市場活性化へ
不動産市場については、環境整備による活性化・流動性の確保を目的に、さまざまな施策が検討されている。
その1つが、取引環境の整備による不動産流通の活性化だ。そのための策として、土地の取得に関する登録免許税や不動産取得税の特例措置が挙げられる。事業用資産の買い替え時における譲渡益についての税制特例措置にも触れられた。
これらの措置により、土地に対する需要を喚起し、より有効に土地を活用する担い手への移転を促進する狙いだ。
さらに、既存住宅の流通を促進するため、インスペクション(建物状況調査等)の活用促進や、消費者に対し既存住宅の基礎的な情報を提供する「安心R住宅」制度等を通じ、売主・買主が安心して取引ができる市場環境の整備を行うという。
また、「公的不動産(PRE)ポータルサイト」において民間活用等に積極的な地方公共団体等が公表しているPRE情報を一元的に集約し公開することで、地方公共団体と事業者等のマッチングの促進を図る。
自治体が所有しているものの、使われていない不動産の情報を1つのウェブサイトにまとめて公開し、企業が見つけやすいようにする。
現在の不動産取引では、契約の交付など事務的な負担が大きい。これらについても、ITを活用した重要事項説明(IT重説)や、契約書面等の電子交付が可能となったことを踏まえ、非対面での取引の円滑化を促進する。
不動産取引のオンライン化を進め、買主や売主といった消費者と不動産業者の両方が便利さを実感できるような運用を目指す。
投資環境の整備による不動産投資市場の活性化では、投資対象不動産の多様化等を通じた不動産証券化の普及促進に取り組んでいく。
さらに、DXの進展も踏まえた投資家保護の在り方に関する検討を含め、セキュリティトークンや不動産クラウドファンディングの活用拡大に向けた取組を進める方針だ。
正確な地図の整備を実施
今回変更された基本方針では、土地に関する情報の活用を非常に重視している。
都市部の地図混乱地域における法務局地図作成事業については、現行の地図整備計画が2024年度で終了することを受け、2024年度中に次期計画の策定を進め、2025年度以降の事業実施地区を決定する方針だ。つまり、正確な地図の整備を継続的に進めるということだ。
さらに、相続登記や住所等変更登記の申請義務化等に合わせて、他の公的機関との間でシステムを使った情報連携を図ることにより登記官が住所情報・死亡情報等を更新する方策を導入するなど、不動産登記情報の最新化を進めていく。
また、不動産登記簿等の土地に関する各種台帳情報連携を促進する。これを容易にするためのデータ形式の見直しやシステム間の調整を行い、不動産登記情報と固定資産課税台帳の連携において不動産番号を活用する等、土地に関する情報連携の高度化の推進に向けた検討を行う。
データを活用し市場動向を把握
加えて、不動産取引価格情報の提供、不動産価格指数などの不動産市場の動向を的確に把握する統計の整備とデータの提供を実施する。
不動産取引価格情報に加え、2024年4月から運用が開始された災害リスク情報、都市計画情報、学区情報等、不動産に関する多様なオープンデータを同じ地図上に表示できるWebGIS「不動産情報ライブラリ」の活用を促し、消費者の不動産購入等に係る検討を支援することで、消費者保護や不動産取引の活性化を図っていく。
取引における消費者保護を図るため、土砂災害警戒区域内や津波災害警戒区域内であるかどうかおよび水害ハザードマップにおける取引対象物件の所在地に関して、宅地建物取引業者による取引時の重要事項説明の着実な実施を推進する。
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以上、「土地基本方針」から不動産取引・投資に関連する主要な施策を取り上げた。不動産投資において、投資家が精度の高い情報を入手しやすくなるメリットは大きい。
また、取引時の書面交付のデジタル化など事務手続きの効率化や、取引にかかる税制優遇措置の実施は、投資家にとっても恩恵となるだろう。これらの施策により、不動産市場の活性化と投資環境の改善が期待される。
(鷲尾香一)
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