国土交通省が管理組合や区分所有者のマンション管理の実態を把握するため、5年に1度行っている「マンション総合調査」(2023年度)の結果がまとまった。
築年数が経ったマンションでは特に、高齢化の影響もあり、所有者が不明・連絡不通の戸数が増加している。また、4割近いマンションが、修繕積立金の積立額が計画に達していないといった問題点も浮き彫りになった。
日本のマンションはいま、どのような課題を抱えているのか。調査結果を元に分析していこう。
2023年度「マンション総合調査」
マンション管理に関し、これまでに講じられてきた施策の効果検証、必要となる施策の提示を行うための基礎的な資料を得ることを目的として、マンションの管理状況、マンション居住者の管理に対する意識等を調査している。
調査時期:2023年10月~2024年3月
調査対象:管理組合(4270団体)、区分所有者(8540人)
有効回答数:管理組合(1589団体)、区分所有者(3102人)
世帯主の高齢化が進む
まずは、マンション居住者の状況から見ていこう。世帯主の年齢に関するデータを参照すると、高齢化が明確に表れていることがわかる。
2003年度と2023年度の調査結果を比較すると、30歳代は13.2%から5.9%に減少している一方で、60歳代は21.5%から27.8%に、70歳以上も10.2%から25.9%に増加している(グラフ1)。
この高齢化はマンションの完成年次に関係している。完成年次ごとの世帯主の年齢(割合)を見ると、1984年以前の完成では、70歳以上が55.9%と最も多く、30歳代は1.8%に過ぎなかった。
1985~1994年の完成では60歳代が39.1%、1995~2004年の完成では60歳代が37.0%、2005~2014年の完成では50歳代が32.3%、2015年以降の完成では40歳代が30.0%で最も多い結果となった。
2023年度の調査結果では、3102人の区分所有者のうち、当時新築でマンションを取得した人が59.4%、中古マンションを購入した人が38.0%となっており、新築で取得した人が多い半数以上を占めた。
古いマンションほど所有者不明の空室が
次に、賃貸に出している部屋がある分譲マンションに関する統計も見ていこう。近年、賃貸住戸のあるマンションの割合が再び増加していることが特徴として挙げられる。
賃貸に出している部屋がある分譲マンションの割合は、1993年度に83.9%と非常に高い数字をつけていたが、その後は減少が続いた。しかし、2019年度以降に再び増加に転じており、2023年度には77.8%となっている(グラフ2)。
また、空室戸数(3カ月以上)のデータからは、マンション市場が堅調なことが確認できる。
1993年度には52.9%のマンションに空室があったが、2023年度には34.0%にまで減少している。
空室戸数が20%を超えるマンションの割合に大きな変化はないが、20%以下マンションの割合は1993年度の52.3%から2023年度の33.2%に大きく低下している(グラフ3)。
また、昨今は空き家の増加が大きな社会問題となっているが、マンションの空室のうち、所有者が不明・未連絡(連絡が取れない)戸数の割合は、2023年度では3.3%となっている。この割合は、マンションの完成年次が古くなるほど増加する傾向にある。
1984年以前の完成では、57.2%のマンションで所有者不明・連絡不通の空室があるとのことだが、2015年以降に完成したマンションでは16.8%となっている(グラフ4)。
この傾向は区分所有者の高齢化とリンクしており、所有者不明・連絡不通の空室が発生する原因とも考えられる。
修繕積立金の徴収に苦戦?
加えて、マンションの管理を巡っては、特に長期修繕の計画と積立金のあり方が大きな問題となっている。
まずは長期修繕計画の作成を行っている管理組合の割合について。前回調査の2018年度には90.9%の管理組合が作成していたが、2023年度には88.4%に減少する結果となった。
また、長期修繕計画を作成していない管理組合の割合は、1987年度の28.6%から減少傾向にあったが、2023年度は0.3ポイント微増した。
その長期修繕計画に基づいて修繕積立金を設定している管理組合の割合は、2003年度(19.7%)からの20年で約6割にまで増加(グラフ5)。
ただ残り約4割の管理組合では、修繕積立金の徴収額を管理費の一定割合としたり、近隣のマンションの金額を参考に決めたりしている。後に修繕積立金が不足する事態を避けるためにも、長期修繕計画に基づく徴収を行っていくべきだろう。
マンション総合調査では、修繕積立金の金額についても調査を実施している。2023年度の結果は月額1万3054円(1戸あたり)が平均となった。1999年度(7378円)と比較すると、1.8倍ほどに増加している(グラフ6)。
これをマンションの完成年次別に見てみると、2015年以降のマンションでは月額1万1405円となった一方で、1995~2004年完成のマンションでは月額1万4317円と、約3000円の差があった。
修繕積立金の積立方法として、当初の積立額を抑え段階的に値上げする「段階増額積立方式」が多くのマンションで採用されていることが改めて確認できる結果となった。
では修繕積立金は、十分な金額が集まっているのだろうか。
2023年度結果では、計画上の修繕積立金の積立額と実際の修繕積立金の積立額について、実際の積立額が計画に比べて「余剰がある」マンションが39.9%ある一方、「不足している」マンションは36.6%あった。
不足額は、計画に対して「5%以下の不足」が18.3%と最も多く、次いで「20%超の不足」が11.7%あった(グラフ7)。
修繕積立金の不足の要因の1つとなっているのが、管理費または修繕積立金の滞納(3カ月以上)だ。
滞納が発生しているマンションの割合は、前回調査時(2018年度)に24.6%というこれまでに比較して低い数値をつけた。だが、2023年度には29.7%と再び増加。2003年度以降、滞納が発生しているマンションは3割前後で推移している(グラフ8)。
特に、マンションの完成年次が古いほど滞納が発生しているマンションの割合が大きくなっており、1984年以前に完成したマンションでは43.5%、2015年以降完成のマンションでは15.6%の発生となっている。
宅配ボックス設置のマンションが約6割
最後に、マンション設備の状況について。近年、需要の高まっているものとして、電気自動車充電設備、宅配ボックスや置き配制度について取り上げる。
電気自動車充電設備は、設置されているマンションが5.7%、設置されていないマンションが90.7%となっている。まだまだ普及が進んでいる状況とは言い難い。
宅配ボックスが設置されているマンションは、「竣工当初から設置されている」(49.2%)と「後から設置した」(8.2%)を合わせて57.4%だった。その一方、「設置の検討はしていない」が25.3%、「設置を検討したが設置できなかった」が5.9%、「設置を検討している」が4.5%だった。
宅配ボックスの設置は、共有スペースの利用について住民の同意を得る必要があり、未設置のマンションではなかなか設置が進まないのが実態のようだ。
置き配の実施については、そのルールを特に決めていないマンションが86.0%と大勢を占める。管理規約または使用細則に置き配を規定し、置き配を全面禁止としているマンションは2.5%だった。置き配は避難路の確保上、消防法違反になるケースもあり、十分な検討が必要だ。
◇
世帯主の高齢化、空室の状況、修繕積立金の不足など、マンションが直面するさまざまな課題が明らかになった。これらの項目は、マンションへの投資を行う際に判断材料の1つとなりうるだろう。
5年に1度の「マンション総合調査」でどのような結果が表れたのか、不動産投資家も目を通してみると良いのかもしれない。
(鷲尾香一)
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