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人気設備ランキングで、毎回上位にランクインする「宅配ボックス」。

インターネットショッピングの普及や、「物流の2024年問題」などを背景に、より需要が高まっている。

所有する物件に宅配ボックスを置いたほうが良いか? 入居者や配送業者のことを考えれば、答えは当然「YES」だろう。

しかし、大家にとって、費用や手間に見合うメリットがあるのかは考える必要がある。設置にあたってはどんな点に考慮すべきなのか。

宅配ボックスを設置した大家や賃貸仲介会社に話を聞き、実情を探った。

「機械式」と「電気式」の違いは?

近年は多くの物件で見かけるようになった宅配ボックス。国土交通省の「住宅市場動向調査(2022年度)」によると、三大都市圏(首都圏・中京圏・近畿圏)にある中古集合住宅543棟のうち、約半数の物件に宅配ボックスが設置されているという。

大家として設置を検討する場合は、どのような宅配ボックスを検討すれば良いのだろうか? 大手宅配ボックスメーカー「株式会社ナスタ」の営業戦略本部販促チーム主任・齋藤美咲氏に話を聞いた。

まず、宅配ボックスは「機械式」と「電気式」に大別される。

機械式はプッシュボタン錠やダイヤル錠でロックする、アナログなタイプ。配達員が荷物を入れ、暗証番号を設定して施錠、その暗証番号を不在票に記して投函する。受取人は不在票を見て解錠し、荷物を受け取ることができる。

機械式宅配ボックスのプッシュボタン錠前(画像提供:株式会社ナスタ)

比較的安価で、工事費や維持費も抑えられる点がメリット。ナスタの宅配ボックスの中でも販売数が多いという。

一方、荷物の長期滞留や不在票の紛失により、管理者が現地まで出向いてマスターキーで解錠しなければならない点はデメリットと言える。

電気式は、タッチパネルや専用アプリ、カードキーなどを用いて解錠する。電気配線工事が必要で、新築時に導入されるケースが多い。

メリットは、セキュリティ面で優れている点と、長期滞留の確認やインターホンとの着荷連動ができ、管理がしやすい点だ。メーカーや機種によっては遠隔管理やスマートフォンでの解錠などの機能を搭載したモデルもある。

しかしその分、導入費用(製品価格、設置工事費用)は機械式よりも高額になりがちで、電気代もかかる。

電気式宅配ボックス(画像提供:株式会社ナスタ)

機械式・電気式を問わず「捺印機能」が付いているものもある。宅配ボックスに配達したことを保証するために、配送会社向けの印鑑が備え付けられている。

捺印機能(画像提供:株式会社ナスタ)

設置方法は、壁に埋め込む方法、床面へ固定する方法、背面を固定する方法、専用の支柱に取り付ける方法などがある。後から設置する場合、集合住宅のオーナーには「据え置きタイプ」が選ばれやすいという。

ただし、もし設置場所が砂利などの場合は土間コンクリート工事が必要になるため、その分工事費用がかかる。床面の状態や接地面積だけでなく、宅配ボックスの扉を開けてもゆとりがあるかどうかを見極める必要がある。

設置個数については「荷物の数も増えている中で、できれば戸数の5割くらいあると快適に利用してもらえる」とのこと。しかし、コストや設置スペースの問題で、実際は戸数の3割前後となるケースが多いのだという。

再配達件数の増加が社会問題として認識されている現在。いわゆる「置き配」として、荷物を玄関前などに置いて配達完了とする方法も普及しつつあるが、今後も宅配ボックスの需要は変わらず維持されると齋藤氏は予想している。

新築物件への設置は「当たり前」

実際に設置したオーナーは、宅配ボックスについてどのように考えているのだろうか。

昨年、新築アパートを2棟購入した「びしょう」さんは、「新築物件に宅配ボックスを設置するのは当たり前」と話す。

「実際、購入物件を探す際に20社近く売買仲介会社を訪れましたが、担当者全員が新築物件への宅配ボックスを『当たり前』だと話していました」(びしょうさん)

ところが、2棟のうち1棟のアパートには宅配ボックスが付帯していなかった。物件売買担当の不動産会社に相談したところ、ポストなどと一緒に施工してもらえることになった。

「戸数の4分の1が目安と聞いていたので、機械式のものを2個設置することにしました」(びしょうさん)

■大阪府の新築木造アパート
購入金額:1億300万円
間取り:1LDK×9戸
利回り:8%

設置した宅配ボックス:機械式×2個
設置費用:14万8000円(施工代込み)

機械式を2個、背面固定で設置(びしょうさん提供、画像は一部加工しています)

宅配ボックスの設置が入居付けに大きく有利になるかどうかは不透明で、びしょうさんも「効果は正直わからない」と明かす。ただ、設置されていないことが不利になる可能性は高い。

宅配ボックスにはトラブルもつきものであることにも注意したい。びしょうさんも自身が緊急対応した経験があるという。

「入居者から宅配ボックスがあかないと連絡がありまして…。入居者が暗証番号の書かれた紙を失くしてしまったとのことでした」(びしょうさん)

この時はびしょうさん自身がマスターキーで対応し事なきを得た。以降、トラブルの報告は受けていない。

捺印機能も付いている(びしょうさん提供、画像は一部加工しています)

今後購入する物件でも、中古・新築を問わず積極的に宅配ボックスを設置していきたいと話すびしょうさん。「入居者が1番最初に目にする部分に宅配ボックスがあれば、プラスの印象を与えるのではないかと思っています」という。

DIYで設置費用を削減

東京23区を中心に不動産投資を行う「テリー隊長」さんも、単身者向け物件に宅配ボックスを積極的に設置している。

テリー隊長さんは、据え置き型の宅配ボックスをインターネットで購入し、設置工事を自身で行うことで費用を削減。家賃を上げることはできなくても、入居者に長く住んでもらうことで回収が可能だと考えている。

■23区内の鉄骨マンションA
購入金額:9000万円
築年数:築22年(設置当時)
間取り:1K×12戸
利回り:10%

設置した宅配ボックス:機械式×5個
本体費用:18万円

■23区内の鉄骨マンションB
購入金額:1億3000万円
築年数:築30年(設置当時)
間取り:3LDK×6戸
利回り:11%

設置した宅配ボックス:機械式×3個
本体費用:12万円

鉄骨マンションBに取り付けた宅配ボックス(テリー隊長さん提供)

「据え置き型の場合、設置する床面に下穴を空けてアンカーボルトを差し込んで土台を固定、その上にボックス本体を固定するタイプが多いです。工具があればDIYでも設置可能ですので、自分で取り付けています」(テリー隊長さん)

新築物件に限らず中古物件にも設置を進めるテリー隊長さんだが、他の投資家にも設置を勧めるかについては「その人の考え方次第」としている。

宅配ボックスがあることで、入居者募集の際に一定の広告効果は認められる。一方で同じ20万円の経費をかけるのであれば、物件の改修に充てたほうが費用対効果は高い場合もあるだろう。

テリー隊長さんは「なるべく設置したほうが良い」としながらも、費用を抑えるなどの工夫が必要だと語った。

リターンは期待できない? 設置断念した大家も

設置を断念した投資家もいる。神奈川県を中心に築古物件を所有する「ジュニア」さんは、2022年に空室対策の一環で宅配ボックス設置を検討したものの、費用などの理由から諦める選択をしたという。

設置を検討したのは木造アパート。1Rが6戸、築年数は15年を超えたところだった。軒下には設置スペースを確保できなかったため、敷地を囲う塀のそばに設置しようと考えていた。

機械式の宅配ボックスを2個設置しようと、インターネットから2社に見積もりを依頼すると下記のような結果に。


・地場のA社:31万円
・ポータルサイト経由のB社:23万8000円
(ともに本体費用が18万円前後、残りが施工代という内訳)


「正直、20万円を下回ると思っていました。設置場所が外で、アンカーボルトを差し込めるタイルやコンクリートではなかったため、土間コンクリート工事が必要となり、施工代も高くなったのかもしれません」(ジュニアさん)

ジュニアさんが結論を出す前に、物件の空室が埋まった。置き配の普及も相まって「宅配ボックスを設置しなくても入居が決まるのであれば」とここで設置を諦める決断をしたという。

この物件の家賃は5万円台。宅配ボックスの設置費用を家賃に転嫁することは難しいこともあり、20万〜30万円かかるのでは採算が合わないとジュニアさんは考えている。

「リターンを得られる」前提では難しい部分があるのかもしれない。コスト、設置場所、入居者の属性を総合的に判断して決断する必要があるだろう。

賃貸仲介会社に聞く、宅配ボックスの需要

実際、入居者は宅配ボックスの有無を重視しているのだろうか?

不動産仲介・管理を手掛けるKHD株式会社の代表取締役の若林雅樹さんによると、物件の希望条件を聞いた際に1番初めから宅配ボックスを挙げてくる人は案外少なく1〜2割ほど。

その一方で「あったら嬉しい」程度の条件として挙げる人は4割ほどいるという。

「ただ、その優先順位はあまり高くない方がほとんどです。バス・トイレ別、物件構造、独立洗面台の有無、部屋の広さ、駅からの距離などのほうが圧倒的に優先されます」(若林さん)

一方、置き配に対応できないオートロック付きの物件や、郊外の単身者向け物件は宅配ボックスの需要が高いという。都心の物件には徒歩圏内に配送会社が設けた宅配便ロッカーがあることも多く、宅配ボックスが無くても不便しないケースもあるが、郊外の物件ではそうもいかないからだ。

宅配便ロッカー(PHOTO: haku / PIXTA)

とはいえ、費用やスペースの問題で設置が難しいことも。その場合は、大家が「置き配スペース」を指定するよう若林さんは助言する。

「入居者から『置き配の場所はどこに指定したら良いか』との問い合わせも増えてきました。オートロック外の、車庫や自転車のかご、あるいは特定のスペースなど、どこに配達して良いのか、大家さんがあらかじめ指定してくださると管理会社側としても助かります」(若林さん)

新築マンションへの設置義務化も

受取人が不在時にも荷物を配達できる宅配ボックス。物流業界の働き方改革を推進する一端を担うとして、国も設置を推奨してきた。

2017年11月には、共用廊下における宅配ボックス設置部分について、容積率規制の対象外とする通知を国土交通省が発出。さらに、条件を満たす物件への宅配ボックス設置には補助金を出すなど、宅配ボックス設置を進める施策をいくつも実施している。

東京都江東区や埼玉県川口市は、全国でも先駆けて、条例で一部の新築マンションに宅配ボックスの設置を義務化した。

今年1月に条例施行となった江東区では、義務化の適用を受けたマンションはすでに30棟を超えているという。同じく4月に施行となった川口市でも適用を受けたマンションは9棟とのこと。両市ともに宅配ボックスの需要はさらに高まるとしており、再配達件数の減少に向けて、引き続き運用を続けていくという。

現場の配達員は何を思う?

今年4月からは、トラックドライバーの時間外労働に960時間の上限規制が適用されるようになった。

大手配送会社に20年以上勤めるAさんは、1日150個ほどの荷物を配送する中で、1~2割は再配達となるそう。宅配ボックスの普及は「非常にありがたい」とAさんは語る。

置き配の普及が進んでも、宅配ボックスの需要は「高いままだろう」と予想している。

「いま、会社で発送元に置き配の対応可否についてアンケートを取っていますが、高価かつ繊細な化粧品を扱うメーカーなどからは『置き配NG』と回答されているんです。宅配ボックスなら窃盗被害にも遭いにくいでしょうし、変わらず必要とされていくと思います」(Aさん)

入居者の満足度だけでなく、再配達件数の減少にも貢献する宅配ボックス。「あったほうが良い」と考えてはいても、設置場所や費用の観点から導入に踏み切れていない人も多いのではないだろうか。

ひとえに宅配ボックス設置と言っても、物件や投資方針によって複数の選択肢があることを知ってもらえただろう。設置の目的は何なのか、設置の効果やトラブルについて考慮できているか、今回紹介した体験談を参考に検討するようにしてほしい。

(楽待新聞編集部)