創業・設立から100年以上の業歴を有する「老舗企業倒産」が急増している。2024年上半期の老舗企業倒産は74件に上る。このうち、建設業は8件だった。
日本の老舗企業は4万3631社を数え(2023年時点)、毎年約2000社が「100年企業」の仲間入りを果たすなど、日本は世界でも群を抜いた老舗大国だ。
幾多の戦災や経済危機を乗り越え、進取の気性を持ちながら100年以上も事業を続ける老舗の強みに学ぶことは多い。しかし、急変する経済情勢に飲み込まれるケースが続出しており、アフターコロナで老舗の底力が試されている。
資材高で創業200年の歴史に幕
江戸時代の文政年間創業の木造建築工事業者、小西工務店(京都府宇治市)が今年5月、京都地裁より破産手続き開始決定を受けた。
同社は1823年(文政6年)の創業。文政年間とは江戸時代後期、江戸幕府第11代将軍の徳川家斉が政治を行っていた時代と重なる1818年から1830年までの期間を指す。
1980年に法人改組された木造建築工事業者だった。京都府宇治市を中心とした山城地域で、一般住宅の新築工事やリフォーム工事のほか寺社仏閣の建築工事も手がけ、年売上高は約1億2000万円で推移していた。
しかし同業者との競合激化から業績は伸び悩み、近年の年売上高は約5000万円に減少。資材価格や人件費の高騰もあり赤字を散発し、採算性が悪化していた。
近時は住宅価格の高騰に伴い消費者の需要が減退し、今後の受注回復の見通しも立たず事業継続を断念した。
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新潟市内の左官工事業者、青木塗装工業(新潟市東区)もまた業歴100年を超える老舗業者だった。
同社の創業は1919年(大正8年)にさかのぼり、新潟県内の同業者では中堅上位にランクされ、自社職人の大半が一級左官技能士の資格を有している点が特徴だった。
大手ゼネコンや地場建設会社から受注を得て、学校やビル、マンション、病院、商業施設などの新築、増築、改修に伴い壁面や塀、タイル床などの左官工事を手がけ、96年4月期には年売上高約5億6700万円を計上していた。
しかし、近年は官民ともに大口の建築案件が減少していたうえ、折からの人手不足も加わり受注を抑制せざるを得ない案件も散発するなど、2023年4月期の年売上高は約9500万円に落ち込んでいた。
下請け中心で収益性に乏しく、外注費負担も膨らむなか、3期連続の赤字を計上し、大幅な債務超過状態が続いた。
この間、新型コロナ感染拡大で多くの工事計画が延期された時期には、実質無利子・無担保のゼロゼロ融資を利用して凌いだ。
このため、年商レベルに達していた借入金の返済負担が重くのしかかり、厳しい資金繰りが続いていた。加えて、後継者不在で先行きの見通しが立たなくなり、今年2月に新潟地裁より破産手続き開始決定を受けた。
利上げが零細企業の逆風に
創業・設立から100年以上の業歴を有する「老舗企業倒産」は、2024年上半期(1~6月)は74件発生し、前年同期(38件)からほぼ倍増した。年上半期としては比較可能な2000年以降で過去最多を更新するなど、記録的な件数で推移している。
主な倒産原因は、仕入価格の上昇により収益が悪化した「物価高倒産」(14件)、後継者不在のため事業継続の見込みが立たなくなった「後継者難倒産」(11件)などだ。多くの中小企業を近時破綻に追い込む各種リスクを要因とする倒産が複数確認されている。
業種別の内訳をみると、製造業が22件で最も多かった。清酒製造(2件)や生菓子製造(2件)といった日本の伝統産業のほか、水産加工、味噌、野菜漬物などもあった。
小売業が21件で続き、スーパーマーケット、呉服・服地小売、百貨店など、製造業と同様に昔ながらの業種が名を連ね、両業種で全体の約6割を占めた。
また、サービス業のうち旅館業は2件あったが、いずれも新会社に譲渡されており、事業としては継続している。建設業は今回紹介した小西工務店や青木塗装工業を含め8件を数えた。
倒産件数が大幅に増加しているなか、「安泰」と思われていた老舗企業の倒産が足元で相次いでいる。
長年の業歴は対外的な信用を測るうえで大きな裏付けとなる一方で、長年にわたる粉飾決算に手を染めていた老舗企業も後を絶たず、こうしたコンプライアンス違反のリスクが潜んでいることも見逃してはならない。
歴史的な円安、力強さを欠く個人消費など、2024年下半期も中小企業を取り巻く経営環境は厳しく、2024年の企業倒産は1万件突破も視野に増加基調が続く見通しである。半数近くを小規模企業が占めている老舗企業は、今後さらに厳しい局面を迎えそうだ。
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今後は、金利引き上げによる家計および企業部門への影響に注視が必要だ。
日本銀行は7月30~31日に開催した金融政策決定会合で、政策金利の0.25%への引き上げを決定した。
住宅ローン金利の上昇を通じて消費マインドを下押しするとともに、過剰債務とコスト増に苦しむ「ゾンビ企業」の事業意欲を低下させかねない。
追加利上げの影響が徐々に広がるにつれて、業績好調な大企業に比べ、円安や値上げの恩恵が届かない中小企業の倒産がさらに増加するおそれもある。
企業向け貸出金利は足元ですでに上昇に転じており、金利負担に耐えられない小規模企業の倒産が、2024年下半期にかけてさらに増える可能性が高い。
(帝国データバンク情報統括部・内藤修)
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