「株式会社青山財産ネットワークス」本社最寄りの青山一丁目駅(PHOTO: Ryuji/PIXTA)

企業の決算から、不動産業界の現状について考える本連載。今回取り上げるのは「株式会社青山財産ネットワークス」です。

名前を聞いたことがあっても、実はどんな会社かよく知らないという人も多いかもしれません。

個人資産家や企業オーナー向けの総合財産コンサルティング企業で、顧客である個人資産家の資産平均は10億円と、富裕層向けに事業を展開しています。

財産コンサルティングの一環で不動産取引も行っており、主力はADVANTAGE CLUB(アドバンテージクラブ)という、不動産小口化商品です。

今回はそんな企業の現状から、いまの不動産市況を改めて確認してみましょう。

低リスクで不動産関連の事業を展開

まずは事業内容を見ていきます。

個人投資家や企業オーナー向けの「財産コンサルティング」と、その一環として行う「不動産取引」が事業の柱になっています。

不動産取引は、顧客の資産運用ニーズに対応する目的で、不動産の仕入れ、不動産関連商品の開発、販売を行っています。主力は不動産小口化商品のADVANTAGE CLUBです。

東京都内中心部の資産価値の高い不動産を任意組合(複数の出資者が共同の事業を営むことを合意して成立する組合)で共同購入し、不動産賃貸で収益を受け取るモデルとなっており、顧客はその出資分によって分配を受け取る形です。

引用:青山財産ネットワークス「2024年12月期第1四半期 決算説明資料

賃貸として貸し出すほか、マーケットの動向によっては物件の売却も行っています。2010年度以降に31件の売却を行い、売却物件の年間平均利回りは6.12%となっています。

ちなみに青山財産ネットワークスの財務状況を見ていくと、資産の大半が現預金となっています。

ADVANTAGE CLUBは募集を事前に完了させることで、仕入れと同時に商品の組成を行っているため、不動産在庫を持たないのです。これにより低リスクで不動産関連の事業を展開しているということですね。

不動産関連ではその他にも、STO(セキュリティートークンオファリング)という、ブロックチェーン技術を活用して不動産をデジタル化・証券化し商品として提供するサービスも2023年度から開始しています。

2024年度以降も3案件100億円以上の組成を目指すとしていますので、今後の動向に注目の事業です。

売上構成の8割が「不動産取引」

青山財産ネットワークスの売上区分を詳しく見ていくと、以下の通りです。


1.財産コンサルティング

(1)財産承継:個人資産家の相続対策や保有不動産の有効活用、広大地活用、不動産の購入売却に関するコンサルティングなど、個人資産家向けの事業

(2)事業承継:企業オーナーに対して後継者決定支援、組織再編、財務改善・成長戦略支援、転廃業支援、M&A後の財産承継支援、事業承継ファンドから得られる収益など、企業オーナー向けの事業

(3)商品組成等:ADVANTAGE CLUBなどの任意組合から得られる運営管理報酬、オペレーティングリース商品の提供など、独自商品の開発による収益

2.不動産取引

(1)ADVANTAGE CLUB

(2)STO

(3)その他不動産取引


2023年度時点で売上構成は以下の通りです。

青山財産ネットワークスの決算資料をもとに作成

売上は不動産取引が8割を占める主力で、その中でも不動産小口化商品を提供しているADVANTAGE CLUBが中心となっています。

売上面では不動産関連事業を主力とした企業なんですね。

とはいえその一方、粗利の金額を見てみると以下の通りです。


1.財産コンサルティング:35.1億円

2.不動産取引:28.5億円


利益面では、財産コンサルティング事業の方が大きな規模を持っています。

売上としては不動産取引の割合が高いですが、財産コンサルティング事業は利益率が高く、両事業とも重要性が高いということです。

積み上がりが期待できる事業モデル

事業内容がある程度分かったところで、業績の推移を見ていきましょう。

引用:青山財産ネットワークス「2024年12月期第1四半期 決算説明資料

上場後の2006年以降を見ていくと、リーマンショック以前は不動産の転売による事業規模が大きかったですが、リーマンショックによる不動産不況の中で不動産の転売は大きく規模を縮小し、それに伴い会社の業績も低迷しています。

その後は不動産の転売から撤退し、財産コンサルティングに力を入れており、不動産関連はその財産コンサルティングの一環であるアドバンテージクラブが中心となりました。

そして2010年代中盤以降は、財産コンサルティング事業の成長とアドバンテージクラブ事業の拡大により、堅調な状況です。

2023年度は売上と各段階利益がともに過去最高となっており、近年は好調が続いていることが分かります。

近年のセグメント別の業績推移では、財産コンサルティング事業はコロナ禍で一度業績を落としたものの回復が続き、2023年度はコロナ以前を上回る状況となりました。

そして、大きな拡大を見せているのが不動産取引事業です。2019年度と2023年度の変化を見てみると以下の通りです。


売上高:135億円→290億円

売上総利益:7.7億円→28.5億円


両事業ともに堅調ですが、特に不動産関連事業が好調で近年の成長を支えていたことが分かります。

それぞれの業績推移をもう少し詳しく見てみましょう。

・不動産事業

主力のアドバンテージクラブの状況を見ていくと、近年の新規組成額は大きく拡大していますが、それでも2023年12月期では多くの案件が販売開始後わずか数日間で完売に至ったとしています。

先ほど見たように東京都中心部を中心に事業を展開しており、そういった都心部の不動産市況は活況でした。

さらに、一部では市況などによって不動産の売却も行っていますが、基本的に長期的な運用を行っていますから、徐々に既存の商品含め事業規模が拡大していくモデルとなっています。

一定の業績の積み上がりが期待できる事業でもあるということですね。

そういった中で、不動産関連事業は堅調な推移となっていたことが分かります。

・財産コンサルティング事業

財産コンサルティング事業も堅調な業績の推移となっていました。顧客数と客単価の推移を見ていくと、客単価は伸び悩んでいますが、顧客数の増加が続いています。

引用:青山財産ネットワークス「2024年12月期第1四半期 決算説明資料

これには個人向け、オーナー向けビジネスともに、長期的な接点を重視しているということも影響しています。

例えば個人向けであれば、土地活用を接点として顧客を獲得し、それ以降は資産の組み換えや相続対策で長期的な接点を作ろうとしています。

さらに長期的には世代をまたぎ、相続後の子供世代や孫世代まで、財産の運用管理などで接点を持ち続けていくビジネスモデルの構築を進めています。

このため、財産コンサルティング事業も積み上がりが期待できる事業になっているということです。

また、2023年度は財産承継の売上が大きく伸び、事業承継も堅調な伸びを見せています。個人資産の承継も大きな成長を見せていますし、事業承継でも、同族承継が堅調に推移しています。高齢化が進む中で事業承継や財産承継といったニーズは拡大しているのです。

長期的な接点を重視しており、顧客の積み上がりが期待できることに加えて、高齢化が進む中で需要拡大もあり堅調な推移となっていることが分かります。

今後も高齢化は進む一方ですから、こういった承継関連の事業は今後も好調に推移していくことが期待されます。

不動産価格の高騰で懸念も

財産コンサルティング事業と不動産取引事業は共に、一定の積み上がりが期待できる事業となっていますし、高齢化による承継ニーズの拡大、活況な不動産市況など今後も堅調な業績が期待できると考えられます。

とはいえ、一定の懸念点はあります。

不動産取引事業を見ると、2023年度では新しく始めたSTOによって売上は横ばいを維持していますが、アドバンテージクラブの売上は減少しています。

引用:青山財産ネットワークス「2024年12月期第1四半期 決算説明資料

先ほど見たように、アドバンテージクラブは販売後数日で完売に至る状況ですが、それでも新規組成額は減少しています。

近年の都心部の不動産価格は非常に高騰しています。

青山財産ネットワークスの中心顧客である富裕層は、大きく資産を増やしたいというニーズは少なく、利回りよりも、資産を減らさない安定性を重視しています。

不動産価格が非常に大きく高騰する中、仕入れ値も高騰し、安定性を重視した案件を組成することが難しくなっていると考えられます。

さらに、富裕層顧客との長期的な繋がりを重要視している青山財産ネットワークスにとっては、売りきりで一時的な利益を上げればいいというわけではなく、しっかり顧客に利益を出してもらい長期的な接点に繋げる必要があります。

そういった中で、今後の不動産関連の事業が大きな拡大を見せられるかというと、一定の難しさがあると考えられます。

今後も堅調な業績が期待

続いて、直近の業績も見ていきましょう。今回見ていくのは2024年12月期の1Qの業績です。


売上高:93億円(+27.1%)

営業利益:8.3億円(+78.2%)

経常利益:8.3億円(+78.9%)

純利益:6.1億円(+108.7%)


増収で大幅増益と、堅調な状況が続いていることが分かります。

セグメント別の粗利の推移を見ていくと、好調だったのは財産コンサルティング事業です。

一方で、不動産取引事業は増収となりながらも減益となっています。先ほど見たように、不動産価格が高騰する中で不動産取引事業の成長には一定の難しさがある状況だと考えられます。

とはいえ売上は前期比で増加していますし、利益率も前期には劣るもののそれ以前と比べると高くなっています。

東京中心部の不動産市場は活況が続いていますから、そういった中で堅調な状況は持続しており、今後も一定の堅調な業績が期待されます。

財産コンサルティング事業の方では、財産承継と事業承継の好調が続いています。

財産承継は顧客数の増加により好調となっており、事業承継は大型案件のクロージングによってM&Aが好調となっています。

高齢化が進む中でやはりニーズが高い状況が続いており、財産コンサルティングは堅調な推移を見せています。利益率が高い事業ですから、今後の業績としても堅調なものが期待されます。

ということで、直近では不動産関連の事業では一定の伸び悩みは見られるものの、東京都中心部の不動産市場の活況が続く中で一定の堅調な業績は期待できますし、高齢化が進む中で承継ニーズの拡大が見込まれます。今後も堅調な業績が続くことが期待できそうです。

(妄想する決算)