沼津市のスルガ銀行本店

スルガ銀行(静岡県沼津市)は8月6日、「スルガ銀行不正融資被害者同盟」の代表者らに対して一部デモ活動などの差し止めと損害賠償を求め、東京地裁に提訴したと発表した。

スルガ銀行をめぐっては、女性用シェアハウス「かぼちゃの馬車」に対する融資過程で、書類の改ざんや偽造などといった不正融資が行われていたことが明らかとなっている。

一方、一部のオーナーは「通常のアパートやマンションでも不正融資があった」と主張し、スルガ銀行に対して融資返済停止の通知などを行ってきた。同行側はこれに対し、早期解決案を提示するなどして対応してきた。

だが、一括解決を求めるオーナー側と、個別解決を提案するスルガ銀行側で折り合いがつかず、現在も交渉は続く。こうした中で、被害者同盟側による「一線を越え、社員の心身を脅かす執拗な個人攻撃」があったとして、こうした行為に「歯止めをかける」目的で、訴訟に踏み切った形だ。

「一線を越えた活動があった」

スルガ銀行のホームページには、訴訟の提起に至った経緯として、以下のように記載されている。

当社は、裁判所の調停を通じて被害者同盟との話し合いに応じているにも関わらず、本訴の被告らは、正当な抗議活動とは言い難い、当社社員の心身を脅かす執拗な個人攻撃を行っています。

当社は「社員の心身の安全を守る義務」を大切に考えており、当社社員を誹謗中傷するような行為を止めるよう、これまでも繰り返し申入れをしてきましたが、改善がみられません。このような状況を踏まえ、「一線を越え、社員の心身を脅かす執拗な個人攻撃」に歯止めをかけ、社員の心身の安全を守るために、やむなく本訴を提起することにいたしました。(スルガ銀行「訴訟の提起に関するお知らせ」より)

「一線を越えたと考える活動」として具体的には、「スルガ銀行旧名古屋支店への不法侵入」「特定の社員に対する虚偽の事実に基づく執拗な個人攻撃(誹謗中傷)」「スルガ銀行代表者自宅周辺での長時間かつ複数回のデモ行為および自宅マンションへ侵入してポストへビラを投函する行為」の3つの行為を挙げている。

そのうえで、誹謗中傷を受けている社員が勤務する支店の周辺や代表者自宅周辺でのデモ活動の差し止めと、スルガ銀行と誹謗中傷を受けた社員に対する損害賠償を求め訴訟を起こした。

スルガ銀行の広報担当者は楽待新聞の取材に対し、「これまでも先方の弁護団を通じて、(こうした行為を)やめるように申し入れていたが、改善が見られなかった。当社社員に対する執拗な個人攻撃が次第に過激になっているという現状に鑑み、今回、訴訟に至りました」と説明した。

スルガ銀行の株主総会後、横断幕を掲げるオーナーら(2021年6月撮影)

被害者同盟側は「一切ない」と否定

一方、被害者同盟の設立に携わった冨谷皐介氏は楽待新聞の取材に対し、「私たちの活動を不当に抑え込むためのスラップ訴訟と私は見ております。被害者の声を封じる行為であり、非常に遺憾です」と述べる。

また、スルガ銀行側が具体的に示した「一線を越えた活動」について、不法侵入に関しては「そのような事実は一切ありません」とする。

特定社員への個人攻撃(誹謗中傷)は「誰に対する誹謗中傷を指すのか訴状が届いていないため不明ですが、苦しんでいるのは被害者です」、代表者自宅周辺でのデモ行為などに関しては「抗議活動は無音で行いましたが、他の点については確認中です」と話した。

そのうえで、「根拠のない主張であり、私たちを威嚇する意図があると考えています。スルガ銀行の対応は本質的に間違っています」と憤りを見せた。

訴えが認められる可能性は

今回のスルガ銀行側の訴えが認められる可能性はどの程度あるのか。不動産に詳しい関口郷思弁護士は「デモ活動等を行うこと自体は、憲法における表現の自由の下に認められた権利です。ただ、デモの中で根拠のない事実や誹謗中傷にあたる内容を叫ぶなどした場合、デモの差し止めや損害賠償請求が認められる可能性はあります」と解説する。

また今後の行方については「あくまで一般論ですが、デモ活動などをやめる代わりに損害賠償請求については取り下げる、というケースはあります。今回の落とし所としても、そのあたりは1つの選択肢になりうるのではないでしょうか」と話す。

スルガ銀行が7月に公表した「シェアハウス以外の投資用不動産向け融資についての対応状況」の資料によれば、現在、オーナー側とスルガ銀行の間で組織的交渉が行われている物件数は828件。物件の債務者の中には、スルガ銀行に対する元利支払いを長期間止めているケースもあるという。

スルガ銀行は、融資問題に関しては「個々の案件の状況に応じ、一日も早い問題解決を図ってまいりたい」としており、今回の提訴を行ったうえでもこの方針に変更はないという。

一方、「悪質なケースについては毅然とした対応を取らざるを得ない」と記している。

今後のオーナー側の対応にも注目が集まる。

(楽待新聞編集部)