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5億円の土地めぐり買主が手付金放棄、契約解除でも売主は仲介手数料を払うべきか?

不動産会社に払う「仲介手数料」…全額払わなくてもよい例外ケースとは

2024.8.12

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PHOTO:ELUTAS / PIXTA

突然ですが、読者の皆さんにクイズです。不動産の売買で「新築の取引」にはないのに「中古の取引」にはあるものは何でしょうか?

 

― そう、答えは仲介手数料です。

なぜ、中古取引だけ仲介手数料が発生するかというと、新築の取引が「売買契約」だけなのに対し、中古の取引では「売買契約」に先立って「媒介契約」も締結することがあるからです。

媒介契約は、宅建業者が宅地建物の売買や交換の媒介(仲介)の依頼を受けたとき、その依頼者との間で締結する契約ですね。仲介手数料はこの契約にひもづいているのです。

ところで、不動産会社が取引相手を見つけた場合でも、仲介手数料を全額支払わなくてよいケースがあるのをご存じでしょうか?

この記事では、売主もしくは買主の都合で売買契約が解除された場合や、仲介会社を事後的に排除した「直接取引」が行われた場合の仲介手数料の扱いについて、3つの事例を紹介します。

仲介手数料は「成功報酬主義」

はじめに、仲介手数料が発生するための「絶対条件」を確認しておきます。

前提として、中古取引でも売り主と買い主が仲介会社をいっさい介さずに「個人間売買」した場合、仲介手数料は発生しません。

売主が仲介会社と結ぶ媒介契約の種類には、「一般」「専任」「専属専任」の3つがありますが、いずれの場合も仲介会社は、契約の成立に向けて努力する積極義務を負います。

また、媒介価格(査定価格)が地価や物価の変動、その他、市場環境の変化に伴い不適当となったときは、依頼者(通常は売り主)に対して変更の根拠を明示して助言しなければなりません。

その後、買いたいという購入希望者が見つかったら契約条件の調整(価格交渉など)を行い、成約に向けて話を詰めていきます。

PHOTO:Bongkarn Thanyakij / PIXTA

そして、当事者双方の了解が得られ、売買契約が有効かつ確定的に成立したら、その時点で初めて仲介手数料(請求権)が発生します。

物件調査、価格査定、広告の出稿、買い主の探索、現地案内など、たとえ同じことを何回繰り返しても、最終的に成約に至らなければ手数料はいっさい請求できない決まりです。

これを「成功報酬主義」と言います。不動産業はクレーム産業と揶揄(やゆ)される現況にあって、一般消費者の保護を念頭に置いた取り決めがなされているのです。

集客のための費用などと称し、依頼者に広告費を実費請求することも認められていません。

不動産売買は取引額が高額であるにもかかわらず、手続きが複雑で分かりにくい特性(負の側面)があります。

得てして、仲介の依頼者は弱者の立場を免れません。それだけに依頼者が不利益を被らないよう、取引の透明性と公平性の確保が図られています。

仲介手数料を全額支払わなくてもいい3つのケース

こうした考え方のもと、各現場では仲介手数料の授受が行われているわけですが、実は取引実務では契約の相手を見つけた後であっても、仲介会社が報酬を受け取れないケースがあります。

投資家は既定の仲介手数料を必ずしも支払わなくていいのです。以下、3つのケースを紹介します。


Case1. ローン契約の不成立(ローン否認)に伴う売買契約の解除


投資・実需を問わず、不動産取引は価格が高額となるため、その取得に当たっては多くの人がローンを利用します。

特に不動産投資ではレバレッジ効果を狙い、物件価格の過半を融資でまかなうことも珍しくありません。むしろ全額、自己資金で工面するほうが稀(まれ)でしょう。

効率よく大きなリターンを得るべく、いかに金融機関から有利な融資条件を引き出せるかが、不動産投資の成否を左右するといっても過言ではありません。資金調達は重要なウエイトを占めます。

従って、家賃収入を返済原資とする不動産ローンの資金計画に当たっては、収益力に裏付けられた実現性のある返済プランが欠かせません。

「かぼちゃの馬車」騒動以降、金融機関の融資態度は硬化しました。時は流れ、先月31日、日本銀行が追加利上げを行いました。足もとの金利の先高観が、さらなる融資審査の引き締めを加速させることが予想できます。

PHOTO:maruco / PIXTA

その結果、担保評価は厳格さを増し、ローンの申込者が金融機関の審査基準を満たせない場合、融資は否認されます。そうすると、売買契約がローン不成立を解除条件として締結されている場合、実際に融資の不成立が確定すると、当該契約は白紙解除されます。

こうした取り決めを「ローン条項」「融資特約」と言いますが、このローン条項が明記された売買契約が解除されると、仲介会社はすでに受領している報酬を遅滞なく全額返還しなければなりません。買い主は仲介手数料の支払いを免れるのです。

読者の中には「契約が解除されたのだから、仲介手数料が返還されるのは当然」と思う人がいるかもしれませんが、考えてみてください。

仲介会社には何の不手際も落ち度もありません。一旦、取引は成立しているのです。にもかかわらず、わざわざ全額返還しなければならないのは、消費者保護の徹底にほかなりません。

手数料の返金は決して「当たり前」ではないのです。よって、「ローン条項」「融資特約」が売買契約書に記載されていない場合は、この限りではない点も覚えておいてください。


Case2. 買い主の自己都合により手付解除された場合


続いては、売り主に非がないにもかかわらず、買い主の自己都合により手付解除された場合に売り主が負担する仲介手数料の取り扱いです。

復習を兼ねて「手付解除」について補足しておくと、手付解除とは契約当事者の一方が手付金を放棄あるいは倍返しすることで、理由を問わず、違約金の発生もなく契約を解除できる仕組みです。

この手付金には「証約手付」「解約手付」「違約手付」の3つの性格があるのですが(下表参照)、契約実務では「解約手付」と解されています。

※筆者作成

当事者が自己都合で契約を白紙解除したいときに負担する(=放棄する)金銭が手付金というわけです。法性格上、手付金は頭金の一部ではありませんので、誤解しないようにしましょう。

では、自己都合により売買契約が手付解除された場合、売り主は仲介手数料を支払わなければならないのでしょうか?

以下、福岡高裁の判例を紹介します。

(事案の概要)
・売買代金5億2455万円の土地取引をめぐり、売り主と不動産仲介会社との間で専任媒介契約を締結した。

・その後、当該業者の仲介により買い主が見つかり、その買い主は手付金2000万円を支払い、売り主との間で売買契約を結んだ。

・ところが、契約締結から1カ月余り、買い主が手付金を放棄して本件売買契約を解除したいと申し出た。そして、実際に当該契約は手付解除された。

(原告:仲介会社の主張)
仲介会社(受任者)の仲介により売買契約が締結されている以上、売り主は仲介会社に対し、仲介業務の委任者として報酬の支払い義務(1658万円余り)を負っている。

従って、仲介会社の責めに帰することのできない事由によって、売買契約が不履行になったからといって、報酬請求権が消滅することはない。売り主が実質的な利益を得たか否かは、報酬請求権の発生に影響を及ぼさない。

(被告:売り主の主張)
買い主は売買契約の締結後、残代金を支払うことができなくなり、売り主に対して売買代金額から6000万円を減額するよう要求してきた。

さらに仲介会社も売買代金を減額したらどうかと提案した。しかし、売り主は減額要求に応じる義務はないとして「減額要求には応じられない」と回答。

このように、仲介会社は買い主の要求に応じるよう売り主を説得しており、このことは仲介会社自身、売買契約が最終的な締結に至っていないと認識していたことを示唆する。

加えて、本件媒介契約には売買契約が手付金の放棄によって解除された場合の報酬に関する定めが全くなされていない。前もって、手付解除に備えて特約条項を入れておくべきであった。

仲介会社は不動産売買に精通しているのだから、報酬に関する特約不存在の不利益は仲介会社に帰責させるべきである。

裁判所の見解・判決(福岡高裁 2003年12月25日判決)
本件においては、仲介会社の仲介によって売買契約が成立しており、その後、買い主が手付金を放棄して同契約を解除しているが、売り主はそれによって経済的利益(買い主が放棄した手付金2000万円)を得ている。

このことなどを勘案すると、いったん有効に成立した売買契約が手付解除されたからといって、仲介会社が売り主に対して本件媒介契約に基づき報酬請求できないと解するのは相当でない。

しかしながら一方で、このような場合に仲介会社が約定の報酬額(約1658万円)をそのまま請求できると解するのも無理がある。

一般に仲介会社の受け取るべき報酬額については、取引額、仲介の難易度、期間、労力などを斟酌して定めるべきである。

加えて、本件のように手付金を放棄して解除した場合においては、手付放棄による解除がなかったとした場合に仲介会社が受領し得たはずの約定報酬額、また、解除によって依頼者が現実に取得した利益の額をも総合的に考慮して定めるべきである。

以上により、本件で仲介会社が売り主に請求できる報酬額は1000万円(別途、消費税)をもって相当と認める。

このように、売買契約が手付解除された場合においても、売り主は既定の仲介手数料を全額支払わずに済んでいます。

福岡高裁は「仲介会社が売り主に対して報酬請求できないと解するのは相当でない」と前置きしつつも、最終的には「当然に約定の報酬額を請求できるわけではない」と判示しています。


Case3. 仲介会社を排除して当事者同士で直接取引した場合


では最後に、売り主と買い主が不動産を直接取引した場合はどうなるかについて解説します。

ここでいう「直接取引」とは、仲介会社を当初からまったく介在させない「個人間取引」とは意味合いが異なり、媒介契約は締結するものの、その仲介会社が見つけた取引相手(買い主)と売り主が、仲介会社を排除(目を盗んで)して当事者間で行う相対取引を指します。

たとえば、投資家(売り主)が所有不動産を売却しようと仲介会社と媒介契約を締結し、当該業者の仲介により購入検討者が見つかったとします。しかし、最終的には成約に至らず、結果、売り主所有の不動産は売れなかったとしましょう。

にもかかわらず、その後、ほとぼりが冷めた頃を見計らい、売り主が仲介会社の紹介によって知った相手方(買い主)に声をかけ、当該業者を排除して売買契約するのが「直接取引」です。

報酬の支払いを免れようと、売り主・買い主間で直接、取引するわけです。この場合、読者の皆さんは仲介手数料の扱いがどうなると思いますか?

これまで直接取引をめぐっては、報酬請求権の有無を争ったトラブルが尽きませんでした。

そこで、標準媒介契約約款では下記の規定を置き、一定のルールを示しています。

標準媒介契約約款 (直接取引)
媒介契約の有効期間内または有効期間の満了後2年以内に、依頼者が仲介会社の紹介によって知った相手方と当該業者を排除して目的物件の売買または交換の契約を締結したとき、仲介会社は依頼者に対して、契約の成立に寄与した割合に応じた相当額の報酬を請求することができる。

仲介会社が成約に向けて努力したにもかかわらず、依頼者がその成果を利用して直接取引した場合、その業者は契約の成立に寄与した割合(貢献度)に応じた相当額の報酬を請求できるとしています。

仲介会社が提供したサービスが取引の成立に寄与しているにもかかわらず、まったく報酬が支払われないとすれば、仲介会社の経済的な利益が不当に侵害されることになります。

その一方、売り主や買い主が直接取引を行い、仲介会社が取引の成立に限定的な貢献しかしていない場合でも全額の仲介手数料を請求するのは不適切との意見もあります。

インターネットやテクノロジーの進展により、不動産取引の形式や内容に変化が生じています。

今や賃貸住宅の取引は、内見から重要事項説明・契約の締結まで、すべてオンラインで完結する時代です。不動産取引は時代とともに変化しており、仲介会社の役割や存在価値も同時に変化しています。

こうした社会的な認識が変容する中で、報酬額においても前例主義からの決別が意識されているのでしょう。

改めて、成功報酬主義とは何なのか? 本稿が仲介手数料の「あるべき姿」について考えるきっかけになれば、筆者として光栄です。

(平賀功一)

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このコラムの執筆者

平賀功一

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住宅コンサルタント、e住まい探しドットコム 代表。 住宅販売会社にてマンション販売のプロジェクトを任され、モデルルームの設営から広告代理店との広告やチラシの打合せ、販売スケジュールの管理、契約業務全般を歴任。 その後、住宅コンサルタントとして独立し、e住まい探しドットコムを設立。不動産業界に内在する情報の非対称性(情報の偏在)を解決すべく、セカンドオピニオンとして公平・中立、正直をモットーに情報発信を続ける。
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