取材に応じる中島教授

8月8日に発生した日向灘を震源とする地震。宮崎県日南市で最大震度6弱を観測した。この地震をめぐっては、専門家で構成する評価検討会が開かれ、南海トラフ沿いで巨大地震が発生する可能性が「平常時と比べて相対的に高まっている」として、「巨大地震注意」の臨時情報が出されている。

SNSでは巨大地震に関するさまざまな書き込みもなされているが、我々はどのように対処すべきなのだろうか。地震学を研究する東京工業大の中島淳一教授に聞いた。

巨大地震の可能性「平時より数倍高い」

―昨日発生した日向灘を震源とする地震について、現時点でわかっていることを教えてください

マグニチュードが 7.1の地震で、九州の下に沈み込む「フィリピン海プレート」と陸のプレートの境界で発生した逆断層地震となります。

いわゆる「海溝型」で、ある程度の規模になると、昨日も注意報がありましたように、津波も発生するようなものです。

―震源となった日向灘では、もともと地震が多発していたのでしょうか?

はい。もともと地震がたくさん発生しており、今回はマグニチュード7クラスですが、たとえば 1996年には10月、12月に今回をやや下回る6.9と 6.7という地震が、ほぼ同じような場所で発生しています。

なお、この日向灘は、想定されている南海トラフの巨大地震の震源域に含まれています。これは東は静岡の駿河湾から西は宮崎県の沖合の日向灘までの非常に広い範囲となっています。今回発生した地震はその南西の端で起こりました。

―今回の地震に関連し、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が発表されています。これはどのようなものでしょうか

想定されている南海トラフの震源域内部でマグニチュード7相当の地震が発生すると、他の地震を誘発する可能性があります。

その点について、気象庁が専門家を集めて詳細に検討した上で、今後どういった行動をとればいいかについて、発表しています。

―発表によれば、巨大地震が起こる可能性が「平常時に比べ相対的に高まっている」とされています。これはどのように受け止めればよいのでしょうか

マグニチュード7クラスの地震が起こった場合、その近くで同程度の規模、もしくはさらに大きな地震が起こる確率が、平時に比べて数倍高まることが、世界的な地震のデータから分かっています。

今回の地震が南海トラフの想定震源域の中で発生したということで、その周辺に「歪み(ひずみ)」がたまっていたものを解消するため、今後大きな地震が発生する可能性が若干高まったということです。

今回はいわゆる海溝型地震。同じく、「南海トラフ巨大地震」も沈み込むフィリピン海プレートと陸のプレートの境界で発生するものです。地震の発生のメカニズムは、今回の地震と南海トラフの地震が同じです。

世界的な事例で見ますと、あるタイプの地震が特定の場所で発生した場合、その周辺で同じタイプの地震が発生する事例が報告されています。そういった意味で、今回の地震が南海トラフ巨大地震に対して、何らかの影響を与えるのではと考えられます。

―確実に起きる、というわけではないということですね

そうですね。難しいところであるんですけれども、南海トラフの巨大地震というのは、もともと「30年で起きる確率は70%」と言われています。

もともといつ起こってもおかしくない、起こる可能性が高い地震であったことは、まず覚えておいていただきたいと思います。

その上で、今回のような地震が想定震源域の端ではありますが発生したということで、これまでより、起こる確率が少し高まったということです。

これをもって、必ず1週間以内に起こる、1カ月以内に起こるということではありません。ただ、日頃からその地震の備えを考える1つのきっかけにはなるんじゃないかと思います。

―巨大地震が起きた場合、どの程度の規模の地震が想定されるのでしょうか

過去の事例でいえば、南海トラフの巨大地震はおおむね100年から150年、もしくは200年間隔で起こってきました。

一番近い地震は昭和の南海地震と言われておりまして、1944年と1946年に相次いで発生しています。その時の地震の規模がマグニチュード8程度です。今回よりは数十倍大きな地震が発生することが想定されます。

「富士山の噴火」と南海トラフの関係性

―今回の地震やその後の気象庁の発表を受けて、SNSを中心にさまざまな不安の声なども見受けられます。今後について、我々はどのように受け止めるべきでしょうか

今回の地震を受けて1週間程度注意が必要だという気象庁からの発表がありました。

皆さん、受け取り方はさまざまで、「本当にすぐ起こるんじゃないか」と少しパニックになっている方もいますし、「いやいや起こらないよ」という方もいるでしょう。

ただ、南海トラフに限らず、日本列島というのは日頃から地震が頻発している地域ですので、日頃からの備えは十分にとっていただきたいと思います。

ただ、それに加えて、今回南海トラフの想定震源域の中で起こっていますから、特に西南日本の太平洋沿岸の方は、平時に比べて、やや防災の意識を強く持って生活していただければと思います。

―なぜ、「1週間程度」注意が必要なのでしょうか?

大きな地震が起こると、その後さらに大きな地震もしくは同程度の地震が誘発される場合がありますが、その際に確率は時間とともに低下していくことがわかっています。そういった経験則から、もしくは社会的な許容性から、一応1週間という区切りで注意してくださいというアナウンスになっています。

ただ、「1週間経って地震が起こらないからもう安全」とか「1週間以内に必ず起こる」といったものでもありません。1週間という数字はありますが、あまりそれにこだわらず、長期的に見て地震の備えをしていただきたいです。

―SNS上では、「富士山の噴火につながるのでは」という書き込みも見られました

過去、地震の後に富士山が噴火した事例は確かにありますので、注意が必要だとは思います。実際、過去の事例では江戸時代の南海トラフの巨大地震の後、49日後に富士山が噴火した事例もあり、そうしたことで南海トラフ地震と富士山の関連性が言われています。

ただ、今回の地震は宮崎県の沖合で起こった地震ですから、この地震が直接的に富士山の噴火を誘発する原因になることはないと思います。

過去繰り返し起こってきた南海トラフの地震であっても、富士山の噴火を誘発していない事例もたくさんありますので、地震と噴火が必ずしも対応するものではありません。

―今後に向けてどのような備えが必要でしょうか

やはり1週間程度は水や食料を自宅に備えておくことが必要です。ですが、一方で「パニック買い」のような形で、スーパーに行ってあるもの全部買ってしまうなど、そこまでする必要はありません。

自宅でできる範囲で、少しずつ備えをしていくことがこの 1週間の心構えだと思います。

また、南海トラフ巨大地震で被害が想定される地域に物件をお持ちの方もいるかと思います。物件自体に対する備えは難しい部分がありますが、当然耐震補強や、たとえばエレベーターの中に非常用の食料や簡易トイレを備えておくなど、できる部分もあるかと思います。少しずつ準備をしていただくといいと思います。

○取材協力○
中島淳一氏…東北大学地震・噴火予知研究観測センター助教、准教授を経て、現在、東京工業大学理学院地球惑星科学系教授。地震学を専門とする。(東京工業大・地震学研究室HP

(楽待新聞編集部)