国土交通省が6月に発表した2023年度の「長期優良住宅の認定状況」によれば、新設住宅着工戸数に対する長期優良住宅の総戸数の割合は14.5%で、前年(13.7%)と比べて0.8ポイント増加した。
長期優良住宅とは、長期にわたり良好な状態で使用するための措置が講じられた住宅のこと。建築および維持保全の計画を作成し、所管行政庁(自治体)に申請することで、認定を受けることができるものだ。
直近では認定の割合こそ伸ばしたものの、戸数は伸び悩んでいるほか、共同住宅の認定はあまり進んでいないといった課題もある。
一方、認定を受けた住宅は、劣化対策や耐震性、省エネルギー性などに優れている。不動産として魅力が高いことを表す1つの指標とも言えよう。
長期優良住宅に認定されることで、どのようなメリットがあるのだろうか? 国が推進する施策の現状を見ていこう。
そもそも「長期優良住宅」とは?
「長期優良住宅」とは、長期にわたって良好な状態で使用できるよう設計された住宅を指し、「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づいて認定されている。
認定を受けるためには、建築主または分譲事業者が詳細な建築および維持保全計画を作成し、着工前に自治体に申請して審査を通過する必要がある。維持保全計画とは、建てた後のメンテナンスをどう行うかを示す書類のことだ。
この認定制度は、段階的に導入されてきた。新築住宅では2009年6月から、既存住宅の増築・改築では2016年4月から、そして建築行為を伴わない既存住宅では2022年10月から認定が始まった。
対象となるには、戸建ての場合は床面積の合計が75平米以上、共同住宅では40平米以上であることが条件だ。さらに、維持保全に関する計画が以下に挙げる5つの基準に適合する必要がある。
(1)住宅の構造および設備について長期にわたり良好な状態で使用するための措置が講じられていること
(2)住宅の面積が良好な居住水準を確保するために必要な規模を有すること
(3)地域の居住環境の維持・向上に配慮されたものであること
(4)維持保全計画が適切なものであること
(5)自然災害による被害の発生の防止、軽減に配慮がされたものであること
上記はやや抽象的な基準となっているが、これに適合した上で、さらに細かい項目についての認定基準を満たす必要がある。
例えば新築の場合、「省エネルギー性」については断熱性能等の省エネルギー性能が確保されていること、「バリアフリー性」については将来のバリアフリー改修に対応できるようスペースが確保されていること、などが挙げられている。
建物完成後も計画に沿った維持保全が必要
この認定制度は、認定条件に維持保全計画の作成が含まれているように、単に認定を受けて終わりではない。
住宅の完成後には、認定計画実施者(認定を受けた者)が、申請時に作成した維持保全計画に従って計画的に点検などを実施しなくてはならない。必要に応じて調査・修繕・改修を行うこと、さらにその内容の記録を作成し保存することも必要とされる。
この維持保全計画は、期間を30年以上とし、点検時期の間隔は10年以内とされる。地震・台風時には臨時点検を実施し、点検の結果を踏まえ必要に応じて調査、修繕または改良を実施し、住宅の劣化状況に応じて計画内容を見直すことが求められている。
これらの計画に対して自治体は、認定を受けた住宅の建築・維持保全が適切になされていないと認めるとき、認定計画実施者に対して是正指導や改善命令をする場合もある。改善命令に違反した場合は、認定を取り消す可能性もあるという。
さらに、認定計画実施者が自治体からの報告の求めに応じない場合や虚偽の報告をした場合には、30万円以下の罰金が科されることがあるとしている。このように、長期優良住宅の認定制度はかなり厳しいものとなっていると言えよう。
税や金利の優遇措置も
ただ、厳しい条件の分、長期優良住宅の認定を受けた住宅は、補助金、住宅ローンの金利引き下げ、税の特例や地震保険料の割引などといった優遇措置を受けられる可能性がある。
住宅ローンを例に挙げると、住宅金融支援機構のフラット35S(金利Aプラン)および維持保全型での借入れでは、条件によって借入金利を当初5年間、年0.75%の引き下げなどを受けることができる。
また、税金に関する特例措置として、2024年12月31日までに入居した場合は、所得税の控除対象借入限度額が4500万円に引き上げられる(いわゆる住宅ローン減税)。さらに子育て世帯または若者夫婦世帯の場合は5000万円となる。
このほかにも、登録免許税の税率引き下げや、固定資産税の減税措置の適用期間延長、地震保険料の割引など、複数の特例措置が設けられている。
ちなみに、同じく住宅ローン減税を受けられる制度に「省エネ基準適合住宅」があるが、これは断熱等級や一次エネルギー消費量等級において、長期優良住宅より求められる等級が低い。もちろん、その分優遇措置の程度は長期優良住宅よりも限定的なものとなっている。
新築戸建ての3割が認定住宅に
2023年度の長期優良住宅の認定状況は、新築住宅全体では11万6075戸となり、新設住宅着工数に占める割合は14.5%となった。
内訳としては、新築の戸建てが11万1262戸(同31.3%)、共同住宅が4813戸(同1.1%)だった。
新築住宅に対する認定戸数は年間10万戸強で推移しており、新設住宅着工数に占める割合はわずかに拡大しているものの、大きな変化は見られない状況が続いている。
新築戸建ての認定戸数は12万戸を上回れない状況が続いているものの、新設着工住宅戸数に占める割合はジリジリと増加傾向にある。
数字を見れば、新築される戸建て住宅の約3戸に1戸は長期優良住宅の認定を取得しているということになる。
一方共同住宅では、2012年度に4690戸まで増加した認定戸数が、2018年度には587戸まで減少したこともあった。
近年では再び増加傾向にあるが、戸建てほど大きく数を伸ばせない状況が続いている。新設着工住宅戸数に占める割合でも、2023年度に1.1%まで増加したが、いずれも普及が進んでいるとは言いがたい。
このように、長期優良住宅の認定制度は、少しずつ伸びてきてはいるものの、拡大しているとはなかなか言えない状況にある。
その背景には、認定を取得するための細かな条件や、認定取得後も維持保全が求められている点などがある。
それだけに認定を受けた住宅は、多くの不動産の中でも条件が整っている物件ということもできる。特に新築物件を視野に入れている人は、投資物件に限らず、認定制度の活用を検討してみても良いのかもしれない。
(鷲尾香一)
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