不動産オーナーの皆さまこんにちは! 相続と不動産の専門弁護士の佐々木一夫です。
収益物件のオーナーにとって、ほかの入居者に迷惑をかけたり、トラブルを起こしてしまったりする「問題入居者」の存在は、頭の痛い問題です。
問題入居者がいることを知りながら放置していると、入居者間でトラブルが起こるだけでなく、他の入居者が退去する事態に陥りかねません。
マナーの悪い入居者に退去して欲しいと思うのは、オーナーの本音でしょう。では、問題入居者に出て行ってもらいたい場合、オーナーはどのような手順で手続きをすれば良いのでしょうか。
この記事を読んでいただければ、問題入居者がいることの深刻さや対応方法、退去にかかるコストまでわかります。本日は問題入居者への対応方法の全てを、不動産問題を多数扱う弁護士が解説します。
問題入居者が与える影響は甚大
問題入居者は、オーナーにとって最も頭を悩ます問題の1つと言えるでしょう。例えば、問題入居者が深夜に友人といつまでも騒いでいたり、他の入居者に対して粗暴な言動をとったりしている場合を考えてみましょう。
それでも、入居者間のトラブルにとどまるならば、まだましです。ひどい場合は、マンションの入居者が次々と退去するような事態に発展してしまうのです。退去者の続出は大きな損失ですが、次の入居者が見つかりづらくなるのも大変です。
宅建業法35条では宅建業者の重要事項説明義務を定め、また47条では重要な事項について虚偽を告げたり、故意に告げたりしないことが禁止されています。つまり、不動産業者が重要な情報について嘘をついたり、わざと隠したりする行為は法律で規制されているわけです。
具体的に「何が重要な事項」かの判断は難しいものです。ただ、他の入居者が退去してしまうほどの問題行動がすでに起こっているのであれば、その事実を伝えないことが告知義務違反に該当する可能性は十分にあります。
このような状況が続くと、現入居者の退去だけでなく、次の入居者も得にくくなり、結果として物件の価値が大きく損なわれてしまうのです。
問題入居者の退去には、2つの障壁がある
問題入居者を入居させてしまうと、オーナーは非常に大きな不利益を被ることになります。しかし、そういった入居者を強制的に退去させるのは簡単ではありません。なぜなら、2つの大きな障壁があるからです。
まずは、迷惑行為があったことの立証です。騒音であれば、音量、騒音の継続時間、騒音の特性(音の質)などを録音しなければなりません。何日にもわたって膨大な時間の記録をとるわけですから、かなりの労力を要します。
また、例えばですが「他の家の鍵穴にボンドを詰める」といった迷惑行為があった場合でも、問題入居者がやっていないと否定すれば、その人がやったという立証はなかなか難しいです。
もう1つの障壁は、借地借家法です。入居者は借地借家法の適用を受け、同法によって守られています。そのため、騒音や迷惑行為があっただけで退去してもらうのは難しいのが実情です。
入居者が行った問題行為が、オーナーと入居者の信頼関係を破壊するほどにひどくなければ、賃貸借契約を解除することはできないとされているためです。少しのトラブルでは信頼関係の破壊とはみなされないのです。
信頼関係の破壊が認められる基準をはっきりとお伝えするのは難しいのですが、問題入居者の言動が相当に悪質だと判断される程度である必要があります。さらに、オーナーや管理会社側から問題行動の改善を求める申し入れを複数回行っていることも重要な条件です。
以下に、賃貸借契約の解除が認められた事例とそうではなかった事例を示します。
○解除を認めた事例
(1)賃借人の子が、友人らと毎夜のごとく賃貸物件に寝泊まりし、所かまわず放尿する、器物の損壊、駐車場での二輪車の騒音走行などを行った事例(大阪地判昭和58.1.20)。
(2)隣室の入居者に対して理由なく苦情を述べるだけでなく、ドアを蹴って穴を開けるなどした事例。(東京地判平成17.9.26)
(3)再三の注意にもかかわらず2年以上にわたり居室内にゴミを相当な高さまで積み上げ、社会常識を超える不衛生な状態を継続させた事例(東京地判平成10.6.26)。
○解除が認められなかった事例
(1)賃借人の子が他の住居のドアにマニキュアを塗ったり、通路で大便をし、また納豆ご飯等を他の住居の玄関前に放置するなどの行為を繰り返した(東京地判平成27.2.24)。
(2)シェアハウスの賃借人が、共用部のリビングを占拠して、他の入居者に対して高圧的な態度を示したり、深夜に大声や奇声を発した事例(東京地判平成27.11.10)。
(3)深夜に同居人と頻繁に大声で口論等をして、近隣住人の受忍限度を超える騒音を発生させた(東京地判平成22.8.6)。
上記のように、同じような事案に見えても、解除が認められたものと認められなかったものがあります。
判断の分かれたポイントは、最終的には迷惑行為が周囲に与える影響の大きさになるでしょう。また、改善を申し入れたのに改善されないなど、各事例の個別の事情も考慮されます。
誰が見てもこんな隣人のいる部屋には住みたくないと思うような迷惑行為で、改善の機会もあったのに改善されなかったとなれば、解除が認められる方向に傾くといっていいでしょう。
オーナーが取るべき4つのステップ
問題入居者へは、以下に示す各段階に応じて対応していただけると良いでしょう。
(1)入居審査をしっかりと行うこと
入居審査はとても大切です。
管理会社任せにせず、オーナー自身がきちんと入居者の人柄を判断することをおすすめします。特に、入居者の情報に少しでも不安に思う点があるのであれば、直接面談して確認したほうが良いでしょう。最近では、Zoomのようなツールを使ってオンラインで面談をすることもあります。
実際にその方と話してみた際に、あまりにも社会常識を欠くと感じられる言動や態度の方かどうかを見るだけでも、「問題入居者」に入居されてしまう確率はグッと減ると思います。
また、不安な場合には連帯保証人を立てておくと、万一の場合に連帯保証人から入居者に退去するように促してもらうなど、力になってもらえる可能性があります。
(2)入居後に問題が発覚した場合には、問題行動の記録を取ること
問題行動があっても、それを裏付ける記録がなければ立証が難しいことは先ほど申し上げた通りです。自分はしていないと否定されれば、話は進みません。
そこで私が推奨するのが、物件の廊下などの共用部分に監視カメラを取り付けておくことです。最近は、比較的安価な監視カメラも販売されているので、用意しておくと良いでしょう。
騒音関係では、騒音計で記録を取っておくことも重要です。スマートフォンで使える、騒音を測定できるアプリでも十分です。また、近隣住民などから聞き取った問題行動をしっかりと書き留めておくことも必要です。
(3)入居者及び連帯保証人に連絡し、問題行動の改善を求めること
明確な犯罪行為は別として、裁判例を分析すると、問題行動があっても直ちに信頼関係の破壊とまではならない可能性があります。ですので、問題行動を把握したら、入居者に対して問題行動をやめるように申し入れをすることが必要です。
書面で申し入れる場合には写しを保管し、口頭でする場合であればその録音を残した方が良いでしょう。なお、隣人に暴力を振るうなどの明確な犯罪行為の場合には、オーナーから声をかけるのは危険なこともあるので、警察に通報するのが無難です。
(4)入居者に退去を求める
(1)~(3)の段階を経てもなお問題行動が改まらない場合には、退去を求めることになります。連帯保証人を立てている場合には、連帯保証人にも連絡をとって事情を説明し、退去に応じるように説得してもらうとよいでしょう。説得しても退去に応じない場合には、訴訟を提起します。
なお、訴訟を提起してから裁判が始まるまでにも1カ月以上の時間がかかりますし、裁判が終わるまでにはさらに3カ月から1年程度の時間がかかることもあります。
ですから、早めに訴訟を提起しておいて、裁判と並行して任意の退去交渉をするのがベストです。裁判で勝訴判決を得ても入居者が出ていかない場合には、強制執行をして強制的に退去してもらいます。
問題入居者の退去にかかる費用
問題入居者の退去交渉を弁護士に依頼する場合、着手金と報酬金がかかるのが一般的です。ただ、賃料未払いの場合と異なり、入居者の抵抗や立証の困難も予想されるため、それなりの金額がかかるのが通常です。
事案の困難性により異なりますが、費用の目安は、着手金30万~50万円程度、報酬金30万~50万円程度になるのが通常と思われます。
また、他に実費がかかります。任意交渉の段階であれば1万~2万円程度で足りるでしょうが、訴訟を提起するとなれば印紙代、郵券代でさらに2万~3万円程度かかります。
また、強制執行をする場合には、執行費用で1Rでも20万円程度、戸建てとなると100万円程度の費用がかかります。執行費用は入居者から回収することが法律上可能(民事執行法42条)とはいえ、入居者に財産がない場合には回収不能で終わることも多いです。
最終的に強制執行をして解決するまでには、もっとも安くても90万円前後はかかることを覚悟しておいた方が良いでしょう。
このように、問題入居者が発生した場合にはオーナーが受ける被害は甚大です。まずは入居審査をきちんとして、信頼のできる入居者だけを入居させることが一番大切です。
それでも、入居者が問題行動を起こすことはあるでしょう。その際は、状況に応じた段階的な手順で対処することが重要です。
適切な対応を取ることで、早期の問題解決につながり、できるだけ早い退去を実現することが可能です。しかし、対応に自信がない場合には、弁護士に依頼して訴訟を見据えながら対応してもらうことも考えていただきたいと思います。
(弁護士・佐々木一夫)
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