大家さんが所有物件を案内、投資判断のポイントや空室対策のノウハウなどを解説する「物件見学ツアー」。今回の案内人は、不動産投資歴18年、14棟271室の物件を所有する「松田ひであき」さんだ。

見学したのは、札幌にある3棟の新築物件(うち1棟は建築中)。どの物件も「デザイン性」にこだわり、競合との差別化を図っているそうだ。

「利回りはほかの物件よりも2%くらい高い」というが、デザイン性を高めるためにどのようなことを行っているのか。物件を案内してもらいながら、入居者の心を掴むための工夫と物件をデザインする際に心がけていることを教えてもらった。

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【出演者プロフィール】

松田ひであきさん
不動産投資歴18年。現在は専業大家として札幌を中心に合計14棟271室の物件を所有している。返済比率は20%台、平均調達金利は0.5%と盤石な経営基盤を築いている。

■出演コンテンツ
・平均調達金利0.5%を実現、地方物件売却による「自己資本比率の改善」と「銀行融資への影響」

札幌市内で新築物件に注力する理由

─新築物件を中心に賃貸経営に取り組む理由を教えてください 

最近、中古物件の価格が上昇し、新築と中古の利回りの差がほとんどなくなってきました。また、火災保険や修繕コスト、維持費なども軒並み上昇しているため、総合的に見て新築物件の方がメリットが大きいと判断しました。

─お住まいの関西エリアではなく、札幌市で新築物件を所有している理由はなんですか

会社員時代に担当した仕事が札幌市に関連しており、土地勘があるためです。また、関西と比較すると札幌の利回りは1~2%高いことも魅力的です。

ただ、この1年で0.5%から1%ほど下がっており、最近の新築物件では利回りが6%〜7%程度に落ち着いています。

─札幌市内の物件を購入するにあたって、融資はどうしましたか

関西の金融機関から低金利で資金を調達し、それを札幌市での物件購入に充てることで収益性を高めています。

金融機関は札幌市外の物件への融資に慎重ですが、札幌市内の物件であれば比較的融資をする傾向があると感じます。

外観にこだわり、内覧者の印象アップ

早速、松田さんに所有物件を案内してもらおう。最初に訪れたのは、2023年に完成した新築RCだ。

■1物件目

構造:RC造

築年:1年
総工費:約6億円(土地1億5000万円、建物4億5000万円)

間取り:全40戸(1LDK 25戸、2LDK 15戸)
年間賃料収入:約5000万円

表面利回り:8.4%

─この物件のデザインで力を入れた点はどこでしょうか

建物の外観ですね。ご覧の通り、様々な色や柄のタイルをパッチワークのように組み合わせました。建築会社の提案を取り入れました。

この外観によって建物全体に個性が出て、内覧に来た方へ与える印象は格段に良くなったと感じます。

駐車場に来ると、外観が良く見えるんですよ。部屋選びをする方は、物件の第一印象をとても重視します。建物へ好印象を抱くことが入居の決め手になることが多いので、外観にこだわって良かったと思いますね。

─内装はいかがでしょうか

室内の色彩やデザインは、有名カフェチェーンの飲み物のイメージを参考にし、温かみのある雰囲気を演出しています。建築会社さんから提案を受け、とてもよかったのでそのままお願いしました。

たとえば、ここはビターテイストの部屋、ここはホワイトモカっぽい部屋…といった感じです。クロスの色などに変化をつけ、5種類くらいのデザインを作っていただきました。

ビターテイストの部屋

また、使い勝手を考慮して、大型のカウンターキッチンを採用しました。そのほか、入居者の都合に合わせて使える可動棚も設置しました。わずかなスペースにもニッチ収納を設け、空間を有効活用しています。

ドア横の隙間にも棚を設置

─他にも工夫した点はありますか

雪対策として、冬季のロードヒーティングを導入し、雪庇ガードを設置しました。

また、将来的にEVの利用増を見越し、駐車場には分電盤から空配管を通しています。いざEVを利用したいという際でも、すぐに入居者の要望に応えることができます。

EV時代に備えた空配管

防犯面では、敷地内に8台の防犯カメラを設置しました。カメラの映像はスマホでリアルタイムで閲覧できます。管理会社とも情報を共有し、ゴミの不法投棄や駐車場トラブルの解決に役立ったことがありますよ。

エントランスの天井高はおよそ3メートル、居室は2.6メートルあります。開放感のある空間を作りました。建物の建築だけでなく、意匠建築を手がける建築会社さんと出会えたことで、実現しました。

デザイン重視の賃貸経営をするきっかけ

─松田さんが物件のデザインにこだわるようになった理由を教えてください

6年前に初めて建てた木造新築物件がきっかけです。デザインにこだわったところ、入居者が集まりやすく、経営が順調に進みました。家賃も新築時から2割ほど上がっています。

このときにデザインの大切さを実感し、将来的にはRC造でもデザイン重視の物件を作りたいと考えるようになりました。見に行きましょう。

■2物件目

構造:木造

築年:6年

総工費:約1億円

間取り:全12戸(2LDK)

表面利回り:約12%
特記事項:別途購入した官舎の土地を一部分筆。土地代は0円

─この物件の特徴を教えてください

どのような物件を建てるかを考えていた際に出会ったのが、最初にご案内した新築RCの建築を担当した建築会社でした。

外壁のサイディングは、石目調のものと無機質な黒のものを両サイドに配置し、間に木目調のものを入れました。無機系のサイディングを木目調という有機系のサイディングでつなぐことでコントラストを出し、建物にアクセントと一体感を持たせています。

3種類のサイディング

また、外観の色味に合うドアを探して設置しました。ポストと宅配ボックスも同様です。これらは造作品ではなく、既製品を使っています。

内装では一流ホテルをイメージし、500番台や1000番台のクロスを使っています。家具や設備は、既製品を組み合わせてデザインを作っています。

室内のドアは通常より高さがあるものを使っているが、こちらも既製品

─あえて既製品を使う理由は何でしょうか

既製品にはメーカーさんの保証が付いていることがほとんどで、いざというときに対応していただけます。オーナーとして、所有物件のメンテナンスのしやすさを私は重視しています。クロスだけでなく、キッチンカウンターも既製品を導入しています。

オーナーの役割は「キャンバス」を用意すること

─松田さんがデザインにおいて大切にしていることを教えてください

デザインの目的は、入居者が住みやすい住まいを提供すること。オーナーの趣味や自己表現のために、物件を設計してはいけないと私は考えています。

たとえば、私の物件では主張の強い柄のクロスは使用しません。入居者が自分の好みに合わせて部屋を使えるよう、落ち着いた色調を基調としているのです。

住まいをデザインするのは、入居者です。オーナーはそのためのキャンバスを用意する。それが私の役割だと思っています。

ー物件のデザインにこだわれば物件のバリューアップにつながりますが、コストはかかります。松田さんはその点をどう考えていますか

私の場合、入居者の立場になって「あったらいいな」と思える仕上がりを目指しています。

もし数万円プラスするだけで入居者の快適さにつながり、長く住んでいただけるのであれば、やる価値があると私は考えています。もともとの家賃設定が低かったこともありますが、家賃は建築当初と比べて約2割上昇しました。

ーデザインにこだわった結果、賃貸経営にどのような効果がありましたか

運営を始めて6年が経ちましたが、退去前に次の入居者が決まるケースが多いです。空室期間がほとんどないため、周辺物件と比べて、この物件の実質利回りはおそらく2%は高いと見ています。

あと、デザイン性の高い物件に入居される方は、部屋を綺麗に使うことが多いと感じます。現に、この6年でクロスの張り替えを一度も行っていません。

ウォークインクローゼットは扉がないデザイン。「たとえばゴミを隠そうという思考の人は、そもそもこういう物件は選ばないですよね」と松田さん

そうした入居者のおかげで物件は長期間美しく保たれ、運営コストが抑えられ、結果として利回りの向上につながったと感じています。

札幌の気候に適した施策で、快適な住まいを提供する

3物件目は、現在建築中のRCマンション。これまでの2棟と同じ建築会社が手掛けている。建築会社の許可を得て、ヘルメットを着用して安全に配慮したうえで中を見せてもらった。

■3物件目

構造:RC造
総工費:約5億円(土地1億3000万円、建物3億7000万円)

間取り:全28戸(2LDK 50平米台)
駐車場:26台分(串刺し方式)

表面利回り:8%弱(想定)

ー物件の概要を教えてください

3方向が道路に面した角地なので、物件前のスペースを使って串刺し駐車場(通路がなく、道路から直接駐車スペースに入れる駐車場のこと)を作りました。台数は26台で、ほぼ全世帯が車を1台ずつ停められます。

串刺し駐車場のメリットは、ロードヒーティングの運用効率が良くなることです。通路を作るとその分の燃料が無駄にかかってしまいますが、串刺しの場合は敷地内のスペースを最大限に活用できます。

ーデザインにおいて、こだわった点を教えてください

物件のデザインには、色合いの違うタイルを貼り分けて外観の印象を際立たせたり、間接照明を導入したりしました。建築会社のデザイナーと密に連携して、決めています。

建築現場に掲示された図面。色合いの違いを見ることができる

また、札幌の冬の寒さは厳しいので、屋内に駐輪場を設けています。この物件は、壁式鉄筋コンクリート構造で建築しています。この構造は柱と梁を設けないため建物の内部空間を広く使えるメリットがあります。

この場所は駐輪場とストッカーになる予定

建築費の高騰の影響は? 松田さんの今後の目標

ー建築費の高騰の影響は見られますか

今のところ、建築費の値上げは見られません。いつも依頼をしている建築会社は建てた物件を販売するだけではなく、賃貸事業も手がけていることから経営基盤が安定していることも影響しているかもしれません。

ー松田さんが今後目指すことを教えてください

賃貸物件の経営で最も大切なことは、入居者に喜んでもらうことです。事業ですから利益を出す必要はあります。ただ、まずは入居者さんが長く、快適に住める物件を作ることが重要です。この本質を見失わず、これからも取り組んでいきたいです。

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(楽待新聞編集部)