徳島県のマスコットキャラクター「すだちくん」とインタビューに応じてくれた後藤田知事

北東部には大鳴門橋が架かり、四国八十八箇所を巡る「お遍路」の起点にもなっている徳島県。

豊かな自然環境が広がる一方で、2023年の住宅・土地統計調査では都道府県別の空き家率が全国ワーストとなった。

また、同じ四国の県庁所在地である松山や高松が地価を上昇させる中、徳島は下落。さまざまな課題を抱えるいま、どのような対策を講じているのだろうか?

今回は、2023年5月から知事を務める後藤田正純氏にインタビューを実施。後藤田知事は空き家対策や観光戦略、都市開発にどのような構想を持っているのか。ビジョンを詳しく語ってもらった。

デジタルを活用した観光戦略

─徳島県の魅力を教えてください

皆さんが初めに思い浮かぶのは、阿波おどりや渦潮、すだちなどでしょうか。徳島にはたくさんの魅力がありますが、自治体も民間企業と同じで常にアップデートしていかなくてはいけいないと思っています。

他にも多くの魅力がある一方で、十分な発信はできていない。地域の魅力は「伝える」だけではなくて「伝わる」ものでなくてはならない。こうした外部への発信を徹底しようと考えています。

現在は「アナザー徳島」「リアル徳島」「ディスカバー徳島」といった方針で情報発信をしています。特に「ヒストリカルな徳島」「ナチュラルな徳島」「サステナブルな徳島」の3本柱は、強く意識をしているところですね。

─具体的にどのような情報発信を考えていますか?

デジタルサイネージ(電子表示媒体を活用した情報発信システム)です。本日招いていただいたYouTubeも含めて、これまで我々は動画を活用した情報発信をしてきませんでした。

例えば、毎年70万人ほどが訪れる阿波おどりの期間中に、徳島空港や徳島駅、4~5つの阿波おどり会場にデジタルサイネージをドンと置く。そこで徳島の他の魅力もアピールできれば、大きな宣伝効果を生むと思います。観光スポットだけではなく、藍染め体験や「半田そうめん」を題材にした動画を流すのも良いですよね。

仮に大きな液晶をレンタルするのに1000万円ほどかかっても、合間に広告を入れることで、半年ほどで元を取れるのではないかと考えています。

─その取り組みの中で、県職員に伝えていることがあれば教えてください

重要なことは「無知の知」だと伝えています。デジタルサイネージをやろうとしたときも、わからないことがあるならわからないなりに専門家に聞いてほしい。自分が知らないことを知ることから、新しい取り組みは始まっていくのです。

また、ノウハウを蓄積するだけではなくて「ノウフー(Know Who)」も大事だということ。各分野の専門家との関係性を大切にし、人脈を築いていけるように進めていきたいと思います。

残念ながら行政は2~3年で職員の所属部署が変わってしまうのですが、後任にきちんと引き継げる体制が整っているかも含めて、これから観光戦略に本腰を入れていきたいです。

地方空港のチャンス、アウトバウンドにも注力

─インバウンド需要が高まる中、徳島県はどのような施策を考えていますか?

私はインバウンドだけではなく、「アウトバウンド」も一緒に増やしたいと考えています。

昨年、プーケット(タイ)の知事とお会いしたときに、40万人の人口に対し1500万人の観光客が来るという話を聞きました。加えて「日本人観光客はそのうちの4万人にまで減った」と聞き、ショックだったんです。

国同士の交流についても、タイから日本に来る人のほうが上回っています。このままでは井の中の蛙状態になってしまうので、「無理してでも行く」という姿勢が重要になると考えています。

韓国の観光協会会長とお会いしたときにも、「我々はアウトバウンドも増やす」「皆さんの業界は収益が2倍になりますよ」と営業をかけました。

いまや日本のパスポート取得率は17%を切り、四国に至っては平均10%です。韓国や台湾は約60%なので、アウトバウンドに対する意識の差が数字として如実に表れていると思います。

日本はパスポートの取得費用に加えて、飛行機代も高いですよね。移動にお金をかけるよりも、旅行先でお金を払って地方創生につなげることが大切だと考えています。

─徳島空港を活用する構想はあるのでしょうか?

インバウンドが3000万人を超える勢いの中、大阪万博が始まればオーバーツーリズムは避けられません。関西空港、成田空港はパンクするでしょうね。そこで、我々は「徳島空港を使ってください」と発信しています。

また、海外の空港に対しても徳島をアピールしています。例えば、プーケットの北にあるトランでは、今年中に国際空港を建てるそうなのですが、羽田空港にも関西国際空港にもスロット(発着枠)がないんです。「それならば徳島空港に来てください」とトラン県知事にお伝えしました。

タイに限らず、エアプレーンもエアポートも新興勢力がどんどん出てきています。日本ではまさに地方空港の出番になるので、僕はチャンスだと思っています。

事前の備えが重要、徳島県の地震対策

─徳島県は昨年の調査で、和歌山県と並ぶ全国1位の空き家率(21.2%)になりました。後藤田知事の考えを聞かせてください

若者が流出する一方で、実は徳島への移住者数は2023年度に過去最高を記録しました。そういった方々への受け皿として、空き家は大切なものになると思っています。

最近ではある方が、マンションやアパートの空室をリノベーションしてホテルにしたんですよ。今は特に外国人から人気のホテルになっています。こうした成功事例を横展開していけると良いですよね。

同時に空き家は、災害時の復旧や復興を妨げる存在にもなりかねません。その点は所有者にもきちんと共有しながら、最も現場に近い基礎自治体である市町村に頑張ってもらいたいと思っています。県としても、国と一緒に必要な支援を行っていきます。

─「南海トラフ地震」を懸念する声もあります。地震対策についてはどのように考えていますか?

いざという時に備えて事前の対策を万全にしていきたいと考えています。

今年1月1日の能登半島地震など、日本中が大きな災害を経験しているにも関わらず、避難場所では相変わらず雑魚寝せざるを得ない状態ですよね。断水、停電、通信遮断が起きるとさらに苦しくなります。

徳島県南部にも一本道があるのですが、救助や復旧、物資を届けることができなくなる可能性を考えなくてはいけないと思います。

例えば、先日地震が起きた台湾の花蓮では迅速に必要物資の供給がなされたと聞きました。トイレ・キッチン(食料品)・ベッドを48時間以内に避難所へ届ける「TKB48」という言葉がありますが、48時間どころか「TKB3だった」という話もありました。過去の経験から教訓を得て、日ごろから訓練することが重要だと実感しました。

我々も素早い対応ができるように、県庁には常設の災害対策本部を整備します。また、停電・断水・通信遮断への対策もワーキンググループで話し合い、足りないものをすべて明確にする。より一層、事前復興の努力をしていこうと考えています。

パリのような美しい街を目指す

─次は都市計画について聞きたいと思います。徳島駅周辺の再開発についてどのように考えていますか?

知事に就任する前から感じていましたが、県庁所在地の中心たる存在の徳島駅に南口しかないのはおかしいですよね。駅北側には、眉山(びざん)に続く徳島県のアイデンティティ・徳島城があります。この2つに風を通すため、私は北口の開発を公約に入れて計画を進めてきました。

徳島城跡 鷲の門(PHOTO:たき / PIXTA)

四国を見渡してみると、松山駅(愛媛県)や高松駅(香川県)は大きく変わりました。いずれの駅も過去10年で地価が10%ほど上がっています。

一方で徳島県は下がっている。これまでの首長たちが都市計画に力を入れてこなかった結果が表れてしまっています。都市計画は基礎自治体である市町村の役割ですが、県としてもまちづくりのイメージを伝えていきたいと思います。

─開発にあたって影響を受けた都市はありますか?

パリオリンピックの開会式を見たときに、街の資源を生かした宣伝やPRが上手いなと感じました。

同時に、私はセーヌ川を見て徳島の新町川を、凱旋門を見て徳島城の鷲の門を、少し無理があるかもしれませんがエッフェル塔を見て眉山を思い出しました。それくらい、シビックプライド(街への誇り)を持っています。

かつて徳島駅の近くに新ホールを建てる構想があったのですが、機能と外観の美しさを兼ね備えるために「川沿いに作ろう」と提案しました。セーヌ川を渡っているとルーブル美術館が見えるように、新町川から新ホールが見えるような光景を目指していけたらなと考えています。

セーヌ川とルーブル美術館(PHOTO:ハル / PIXTA)

蓄電池に注目、「バッテリーバレー」実現へ

─最近では、熊本県が台湾の半導体企業TSMCの誘致によって盛り上がりを見せています。知事としてはどのような印象でしょうか?

日本がようやく経済安全保障に本気になったと感じました。半導体は我々が日ごろ使っている携帯電話や家電製品に使用されており、これがなくなってしまったら生活がままなりませんよね。

熊本県は、この誘致による影響で地価や平均給与が大きく上昇しました。今後も国をあげて高度人材の育成に乗り出していくことになるでしょうね。

私が国会議員時代に関与した経済安全保障推進法には、2つの重要物資が明記されていました。1つが半導体、もう1つが畜電池です。半導体に関してはある程度目処がついたようなので、徳島県は昨年から「バッテリーバレー」という構想のもと、蓄電池の産業集積を試みています。

バッテリー人材の育成に関しても、すでに義務教育から高等教育まで取り入れているところです。また、新しい蓄電池産業が来たときの補助金も今年度の予算に組み込みました。

現在はBASC(電池産業の健全な発展を目指す協会)に参画する日亜化学さん、丸井産業さん、PPESさんの3社のほか、大型蓄電池を取り扱うPowerXさんも徳島に誘致することができました。

こういった皆さまを核にして、地球規模で貢献できるような蓄電池産業に育てたい。バッテリーバレーの産業集積は、すでに動きはじめています。

─徳島県に興味を持っている方にメッセージをお願いします

都会の暮らしも素晴らしいですが、これからの時代は地方でワークライフバランスを重視した生活が主となるかもしれません。いや、ワークよりライフを先にした「ライフワーク」が正しい言い方かもしれません。

SDGsにしても、サステナブルにしても、インクルーシブ教育にしても、若い方のほうがレベルは高いと思います。そういった皆さんには、ぜひ徳島県で仕事をしていただきたいです。

徳島には海外への直行便もありますし、今後は新ホールができてスポーツや音楽イベントを実施できるようになります。自然豊かな環境を生かしたアクティビティも楽しめます。

魅力あふれる素晴らしい徳島でお待ちしています。

(楽待新聞編集部)