TBS放送センター(PHOTO:yama1221 / PIXTA)

企業の決算から、不動産業界の現状について考える本連載。今回取り上げるのは、株式会社TBSホールディングスです。もちろんテレビ局のTBSです。

メディア企業として知られていますが、実は「不動産事業」も行っていることをご存じでしょうか?

しかも直近の業績を見ると、TBSが取り組むいくつかの事業の中で、もっとも利益を出しているのはこの不動産事業なのです。

今回はそんな、実は不動産で稼いでいるメディア企業について、決算をもとに詳しく見ていきましょう。

実は不動産事業の利益率が高い

さっそく、事業内容から見ていきましょう。TBSの事業セグメントは以下の3つです。


(1)メディア・コンテンツ:テレビ局や、TVer(TBS含むテレビ局5社が共同出資したプラットフォーム)などの配信、近年は自社配信サイトのParaviがU-NEXTと統合

(2)ライフスタイル:スタイリングライフ・ホールディングス(PLAZAなどの小売業)、ライトアップショッピングクラブ(カタログ通販サイト)やる気スイッチグループ(個別指導塾のスクールIEなどの教育関連企業)

(3)不動産・その他:赤坂エリアを中心にオフィスビルや店舗、賃貸住宅などを保有・運営(主要施設には赤坂Bizタワーや緑山スタジオ・シティ、赤坂ザレジデンスなど)


メディア関連の事業を展開する他にも、プラザなどの小売りや教育関連の事業、さらに不動産事業も手掛けていることが分かります。

2024年3月期時点での、それぞれの事業ごとの売上と利益の割合は以下の通りです。

売上はメディア・コンテンツが2878.5億円、ライフスタイルが899.0億円、不動産・その他が165.5億円(決算資料をもとに編集部作成)

利益はメディア・コンテンツが39.3億円、ライフスタイルが41.8億円、不動産・その他が70.7億円(決算資料をもとに編集部作成)

売上は大半がメディアコンテンツ事業となっていますが、その一方で利益面はメディア・コンテンツ事業の規模が一番小さく、利益率の高い不動産事業が最も稼ぐ事業となっています。

近年の2021年3月期~2024年3月期までの業績推移を見てみましょう。売上高(下図のグラフ左)を見ると、4年連続で増収が続いており堅調な状況です。

一方、営業利益(上図のグラフ右)の推移はどうでしょうか。2022年3月期は、コロナ禍で苦戦していた2021年3月期から業績が回復し大幅増益となりました。しかし2023年3月期は前期比で横ばい、2024年3月期は前期比で大幅減益となっています。

近年のTBSは、売上は増加が続いているものの、利益面は直近で低迷していたということです。

メディア事業で苦戦、不動産の安定利益でカバー

では、どうしてこういった推移になっているのでしょうか? セグメント別で業績の推移を確認していきましょう。

売上高は、全事業とも拡大傾向にあります。2024年3月期に関しては、特に大きく伸びたのはライフスタイル事業です。2023年3月期の663.9億円から899.0億円まで大きく拡大しています。

これには、個別指導塾のスクールIEなどを展開する「やる気スイッチグループ」をM&Aし子会社化したことが影響しています。

また利益面の推移を見てみると、ライフスタイル事業はM&Aの効果もあって拡大傾向が続いており堅調で、不動産その他事業は70億円前後で安定して推移しています。

一方、2024年3月期に大幅減益となったのがメディア・コンテンツ事業です。2022~2023年3月期は100億円ほど利益を出していましたが、それが37.5億円まで減少しています。

TBSの2024年3月期の大幅減益は、メディア関連事業の苦戦に要因があったということが分かります。

メディア事業が大幅減益となったことで、利益が安定している不動産事業がメディア事業の利益を上回り、2024年3月期には最も利益を出す事業になっていたということですね。

メディア事業が苦戦する中でも、安定した不動産事業によって一定の利益水準を維持できていることから、TBSは好立地の不動産を保有しており、安定収益が期待されるのが強みだと分かります。

PHOTO:まちゃー / PIXTA

テレビ局以外でも新聞社など、長い歴史を持つメディア関連の大手企業は、今では市場に出てくることが無く現実的には購入が不可能な好立地の不動産を多数保有しているケースもあります。

新聞やテレビに関する事業が伸び悩む中で、不動産事業の方が大きな利益を出している企業も多々ある状況です。

不動産というのは有限ですし、今となっては市場に出てこないものも多数あります。それを過去に買うことができたという歴史は強みになることが分かりますね。

TBSは今後も安定収益が見込まれる不動産事業によって、一定の利益水準を維持していくことが期待されます。

また、保有している資産の強みは不動産だけではありません。以前から株式の持ち合いなどを続けてきたメディア企業は、多額の有価証券も持っています。

特にTBSは、東京エレクトロンがもともとはTBSの子会社として設立されたという経緯もあり、有価証券の金額が大きいです。

TBSホールディングス(連結子会社含む)の投資有価証券の金額は、2024年6月末時点では1兆335億円となっています。不動産だけではなく、有価証券も非常に多額である企業なんですね。

ちなみに、2024年3月期の有価証券報告書でTBSホールディングス単体の株式保有状況を見ると54銘柄を保有しており、貸借対照表計上額約6650億円のうち、東京エレクトロン株の計上額は約5980億円と90%ほどを占めていました。

テレビ市況の低迷、TBSテレビの業績悪化

このように保有している資産の面から考えると、TBSはこれまでの歴史という大きな強みがある企業だと分かります。

とはいえ、セグメント別の業績で見たとおり、主力のメディア事業は現在苦戦していました。これはどうしてなのでしょうか?

メディアコンテンツ事業の主力であるテレビ局の運営を行う、TBSテレビの状況を見てみましょう。2024年3月期のTBSテレビの業績は以下の通りです。


売上高:2224億円(▲0.8%)
営業利益:61億円(▲56.7%)
経常利益:86億円(▲48.6%)
当期純利益:59億円(▲45.3%)


売上は微減で横ばいですが、大幅減益と収益性が大きく低下していることが分かります。

TBSテレビの収入面の内訳を見てみると、大きく悪化したのがスポット広告と事業部門です。

事業部門については、もともと含まれていたCS(通信衛星)放送関連の売上を、テレビ部門のその他売上に移管したことが影響しています。そのため、特に苦戦していたのはスポット広告の方だと分かります。

ちなみに、テレビ広告にはタイム広告(番組を決めて出す広告)とスポット広告(番組を指定しない広告)があります。

TBSは特定の番組を指定して出す広告に関しては堅調ですが、特定の番組を指定しない広告は苦戦しているということです。

現在の広告市場を見てみると、個々人の見ているメディアが多様化する中でインターネット広告市場は拡大が続き、一方でテレビのメディアとしての価値は減少してテレビ広告市場は低迷傾向にあります。

そういった中で価値の高い番組には広告が付くものの、テレビというメディア全体にとりあえず広告を出すという広告収入は減少し、苦戦傾向にあるということですね。

また、利益面は大幅減益となっていましたが、これは広告収入が苦戦する中でも制作費を減らしていないことが影響しています。

制作費は、むしろ2024年3月期は22億円ほど増加して974億円となっており、さらに2025年3月期に関しても微増を見込んでいます。

広告収入が減少する中でもコンテンツ制作には力を入れていて、収益性が悪化しているというのがTBSの状況です。

ビジネスモデル転換、長期の投資回収ねらう

どうして、収入面が苦戦する中でもコンテンツ制作に力を入れているのでしょうか?

それはTBSとしても、従来のテレビ広告を中心としたビジネスモデルからの転換を進めているからです。

現在進めているのが「コンテンツLTV(Life Time Value)」の最大化です。コンテンツLTVとは、顧客の生涯でどれだけ「時」を占有できたか、それによって生み出される利益の総計です。

PHOTO:ソライロ / PIXTA

テレビ広告を中心としたビジネスモデルは、作ったコンテンツを一度だけテレビで流し広告収入を得るというものでした。

ですがTVerやParaviと統合したU-NEXTなど配信面でも収益を得る方法や、ドラマなどのリメイク権や番組から派生した商品を販売する事業など、IP(知的財産)を活用したマネタイズ方法も増えています。

そうした中、テレビで一度流して消費されるコンテンツを作るのではなく、よりコンテンツを長期化して収益を得られるモデルへの転換を進めていこうとしているのです。

つまり、制作費の回収も、その番組の放送中に得られる広告費で回収する必要があるということではなく、配信なども通じてより長期で回収すればよくなるというわけです。

そのため、制作費を削減して質を落とし収益性をあげていく取り組みではなく、長期で投資を回収できるような質の高いコンテンツを作ることが重要になっています。

となると、今後も広告費が減少しても制作費は維持する状況が続くと思われるので、業績面だけを考えてみると収益性が低迷した状況が続く可能性がありそうです。

こうした状況から、現在のTBSは単純な収益性ではなく、質の高い人気コンテンツが伸びているのか、配信関連の事業が伸びているかが注目されます。

ちなみに、その配信事業の状況はどうなっているのでしょうか。配信広告は+45.4%、有料配信収入は+36.5%と好調です。TVer収入も前期比で+51.1%と大幅に伸びており、U-NEXTもユーザーの拡大が続いています。

テレビ局はやはりコンテンツを作る力が高いですし、以前に作ったコンテンツも資産となるので配信ではそれも強みになります。今後も配信関連の事業の拡大が続いていくかに注目ですね。

全事業で一定の苦戦、今後はどうなる?

さて、現在のTBSの状況が分かったところで、最後に直近の業績を少し見ていきましょう。

今回見るのは2024年度第1四半期(4-6月)の業績です。


売上高:986億円(+4.0%)
営業利益:62億円(▲10.1%)
経常利益:122億円(▲12.3%)
純利益:144億円(+48.0%)


増収で、営業利益および経常利益は減益、純利益は増益となっています。

純利益が増益となったのは、投資有価証券の売却益による影響が大きいです。

日本企業は現在、政策保有株(企業が純粋な投資ではなく、取引先との関係維持や買収防衛といった経営戦略上の目的で保有する株式)の削減に動いています。政策保有株は、企業統治の形骸化や資本効率の悪化を引き起こす可能性があるからです。

その中でTBSも有価証券の売却を進めており、今後もこういった取り組みを進めていく可能性が高いですし、先ほど見たようにTBSは多額の有価証券を持っています。

有価証券の売却によって、今後も純利益面では好調な状況が期待できそうです。

とはいえ、営業利益や経常利益は減益と、事業面は苦戦傾向が続いていました。どうして苦戦していたのか、セグメント別の営業利益の前期比を見てみましょう。


メディアコンテンツ事業:▲3億円
ライフスタイル事業:▲3億円
不動産・その他:▲8800万円


全事業とも若干の減益となっており、一定の苦戦を見せています。

ライフスタイル事業は広告宣伝費の増加、不動産事業は減価償却費や連結調整その他に含まれている全社費用の増加などによって減益となってしまったようです。今後も一定の苦戦傾向が続く可能性がありそうですね。

また、メディア事業に関しては、主力のTBSテレビに関しては減収ながらも増益と一定の収益性の改善は進んでいますが、昨年の映画のヒット作の反動や、好調だったDVD収入の反動などがあり事業全体としては減益となっていたようです。

前述したビジネスモデルの転換もありますし、苦戦している事業面を今後盛り返していけるのか、注目です。

(妄想する決算)