福岡県北九州市の「黄金市場(こがねいちば)」で、民間主導の再開発が進んでいる。
黄金市場は昭和の初めごろに誕生し、地域住民に長年親しまれてきた商店街だ。かつては北九州市の中心・小倉エリアの中でも混雑していたが、時代の変遷とともに、建物の老朽化や空き店舗増加などの地域課題を抱えるようになった。
近隣の商店街で火災が相次いだこともあり、黄金市場の行く末には注目が集まる。再開発によって、黄金市場はどのように変わるのか? 今回は小倉駅周辺のプロジェクトとあわせて解説していく。
地域住民に愛される商店街、「安全性」に懸念
黄金市場は、福岡県北九州市小倉北区にある商店街。市内最大のターミナル駅である小倉駅からは、南へ約2キロメートルの場所にある。
小倉駅周辺の再開発エリアからさほど離れていないこともあってか、生活には便利な街が形成されている。商店街の付近には住宅街が広がり、その西側には紫川がゆったりと流れる地域だ。
黄金市場の最寄り駅は、北九州高速鉄道(北九州モノレール)が通る香春口三萩野駅(かわらぐちみはぎのえき)。商店街はその西側に広がっており、駅から徒歩5分ほどで看板とアーケードが見えてくる。
車社会のエリアらしく駐車場も完備されており、1店舗1000円以上を買い上げると無料駐車券を発行するサービスまで行っている。
黄金市場があるエリアでは、もともと1934年ごろに最寄り市場が形成された。戦後には多くの米軍関係者が住み始め、さらに特需景気の後押しを受けて住宅地域型商店街として成長するようになる。
現在の黄金市場にも、このころに建てられた建物が多く残されている。店舗は少しずつ増えていき、1950年代には小倉内でも混雑する商店街として知られるようになった。
そんな人気の商店街も、スーパーマーケットや大型店舗の進出、周辺の開発や人口減少などの影響で次第に客足が減っていく。それでも肉屋や八百屋などの営業は続き、黄金市場は地域の人々に愛される存在となった。
しかし、老朽化の目立つ木造建築が密集していたことから、北九州市は黄金市場を「特定消防区域(火災危険度の高い区域)」に指定。建物の老朽化対策に加えて、防火対策まで必要な状況に直面している。
また、2022年には黄金市場から1キロメートルほど離れた旦過市場(たんがいちば)で、2度にわたる大規模火災が起きた。その影響で黄金市場や地域住民の間では、街の安全性に対する意識が高まっている。
新市場オープン、「九州の台所」でも再開発
そんな黄金市場の再開発第1弾として、2024年7月に複数のテナントが入る「ふれあい市場」がオープンした。
黄金市場商店街の最も古い区画が対象エリアになり、区画面積は2800平米にも及ぶ。
整備面を担当したのは、地元の不動産会社である「レトロ株式会社」。同社はかねてから、地権者や関係者と協議を重ねてきた。ふれあい市場ではすでに7店舗が営業している。
新市場のオープンにあたって、黄金地区商店連合会は「昭和初期から続く市場は姿を変えていきますが、これまで以上に、にぎわいあふれる地域密着型の商店街となることを目指します」と期待をにじませている。
NHKなどの報道によると今後も再開発は続き、現在の建物は解体される予定。黄金市場全体では、5年以内の完成を目指しているという。順調に進めば、地域の生活を支える市場として生まれ変わることになりそうだ。
また、周辺のエリアでも再開発の動きが見られる。中でも黄金市場に影響しそうなプロジェクトが、火災に見舞われた旦過市場の再開発だろう。
黄金市場と小倉駅の間に位置する旦過市場は、「九州の台所」として長きにわたって親しまれているエリアだ。鮮魚店を中心に100店舗以上が軒を連ねており、一時はテレビにも取り上げられるほどのにぎわいだった。
しかし、建物の老朽化や浸水被害が問題になったことで、2021年からは土地区画整理事業に着手。官民連携の体制を築きながら、商店街の再開発が進められている。
火災の影響で計画が変更されることもあったが、旦過市場の南側には4階建ての複合商業施設が2025年末までに建設される予定だ。施設全体では70~80店舗の入居が想定されており、150台分の駐車場まで整備される。
2024年5月には、北九州市立大学の新学部が神嶽川(かんたけがわ)沿いで再整備されるビルに入居することを公表した。大学まで進出するとなれば、周辺エリアまで盛り上がる状況になるかもしれない。
小倉駅周辺では60メートルのオフィスビルが完成
小倉北区の再開発は、商店街以外のエリアでも進められている。
2024年7月には小倉駅から近い平和通りの交差点角に、地上13階建ての「BIZIA KOKURA(ビジア小倉)」が完成した。高さ約60メートルのオフィスビルであり、延床面積は9860平米にも及ぶ。
本プロジェクトは、北九州市が進める小倉駅周辺などの開発を促進する施策「コクラ・クロサキ リビテーション」の第1弾として進められた。すでにIT企業などが入居予定であり、2024年10月にグランドオープンする。
新たな産業が根づいて雇用が生まれることになれば、小倉駅周辺の不動産需要にまで影響するかもしれない。同ビルが建つ魚町三丁目では、ほかにも再開発の話が持ち上がっている。
1979年をピークに人口減少が続く北九州市は、外国人や若者の流入、IT企業の誘致などに力を入れている。その一方で、黄金市場のように民間主導で再開発が進められているエリアもある。
官民の力で新たなにぎわいを生み出すことができるか、小倉周辺の変化とともに注目していきたい。
(福本真紀/楽待新聞編集部)
福本 真紀
不動産・鉄道分野のフリーライター。鉄道会社に10年以上勤務していた経験を活かし、都市開発の最新事情やビジネス関連の記事を執筆する。趣味は鉄道巡り、街歩き。埼玉県出身。
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