全国各地のショッピングモールを巡り、そこから見えてくる都市の「いま」をお届けする本企画。今回は、茨城県大洗町にやってきました。
大洗といえば、海水浴です。夏になると多くの人が全国からこの海を目指してやってきます。そんな大洗にはたくさんの観光施設があって、当然、ショッピングモールもあるわけです。
さっそく、そんな観光地・大洗のショッピングモールをレポートしていきたいと思います…が、今回はちょっと異質というか、衝撃的な内容になっています。詳しくは本文をご覧ください。
日曜日なのに人がいない「生きる廃墟」
今回私が訪れたショッピングモールは、「大洗シーサイドステーション」です。
すぐ後ろが海になっていて、オーシャンビューを望むことができます。大洗らしい最高の立地です。敷地にはヤシの木がたくさん植えられていて、南国リゾートのような雰囲気を感じます。
まずはいつも通り、ショッピングモールの基本情報から確認していきましょう。
大洗シーサイドステーション
所在地:茨城県東茨城郡大洗町港中央11-2
敷地面積:約4万6280平米
店舗数:?店舗(後述)
駐車台数:約1500台
開店日:2006年
アクセス:
JR鹿島臨海鉄道大洗鹿島線大洗駅より徒歩15分
JR鹿島臨海鉄道大洗鹿島線大洗駅より循環バス海遊号に乗車し約5分
常磐自動車道「友部JCT」より約20分
北関東自動車道「水戸大洗IC」を降りて国道51号線を経由して約10分
東関東自動車道「潮来IC」より国道51号線経由して約60分
さっそく中に入っていきますが…びっくり。ぜんぜん人がいません。
私が訪れたのは日曜日の15時ごろ。本来ならにぎわう時間帯のはずですが、視界に入るのは両手で数えられるぐらいのお客さんだけ。
「ガラガラだな……」
「寂しいね……」
と、施設を歩く人が話しています(その声が聞こえるぐらい静かです)。休日にも関わらず、これだけ人が少ないショッピングモールは初めてです。
それもそのはず。テナントが全然入っていないのです。
敷地内にあったマップでテナント数を確認してみると、全部で31施設。開業当初は70店舗ほどが入居していたようですから、その半分以下までテナントが減っている計算です。
特にすごいのが2階です。お店がほとんどありません。
本来、お店の看板が貼ってあるはずの部分は白く塗りつぶされ、それが延々と続いています。2階だけを見たら、体感的には80%以上の店がやってないのでは? と思えるほど。
その姿は「生きる廃墟」と言っても過言ではありません。
忘れ去られた「映えスポット」も
オープンしているお店も、テナントとは言えないような場所もあります。例えば、空きテナントのがらんとした空間の中に、「ひとりカラオケ」の機械が1台置いてあるだけ、なんて場所も。寂しすぎます。
施設中央には、1階と2階をつなぐエスカレーターがありますが、それに乗る人はほとんどおらず、ただ機械だけが虚しく動いています。
その向こうには、「インスタスポット」と称された壁画が。かつて流行った、前に立つと被翼が生えているように見えるアート作品です。
しかし、そこで写真を撮る人はいません。無機質な景色の中に突如現れる妙にカラフルでキラキラした壁面が、逆にその殺風景さを際立たせています。
施設の中で人がいるのは、茨城や大洗の特産品をたくさん取り扱う「大洗まいわい市場」、茨城のコーヒーチェーンとして知られ、熱烈なファンも多い「サザコーヒー」、そして大洗が舞台のアニメ「ガールズ&パンツァー」(通称ガルパン)のグッズ販売や展示を行う「ガルパンギャラリー」ぐらいでしょうか。
また、北側にあるスーパーマーケットとドラッグストアは、地元の人々がおり、普段使いされている様子が見られます。
「点」として、それぞれのテナントには少しずつ人がいるのですが、それがショッピングモールという「面」を形成してはいないのです。
苦難続きだった歴史
というわけで、総じて悲しい状況である大洗シーサイドステーション。そもそも、現在まで営業できていることが不思議なほどですが、どうしてこのような廃墟状態になってしまったのでしょうか。
大洗シーサイドステーションはもともと、2006年に「大洗リゾートアウトレット」という名のアウトレットモールとして誕生しました。大洗町がアウトレットモールを誘致したのが始まりです。
1990年代後半あたりから、日本では各地にアウトレットモールが建設され始めました。そして2000年、大規模な小売店の建設制限(大規模小売店舗法)が撤廃されたことにより、その数は急増します。大洗町も観光地としての需要を見込み、アウトレットモールを誘致したのでしょう。
しかし、その歴史は苦難に満ちたものでした。
大洗リゾートアウトレット開業から5年後の2011年、東日本大震災が発生。海に近い立地が災いして津波の被害を受け、被害額40億円、復旧に16億円を要しました(茨城県復興推進計画より)。
数カ月の歳月をかけてようやく復活しましたが、その後も客足は復活せず、テナントはどんどん撤退。
そして2017年、最終的には事業者が交代することになります。このときのプレスリリースで掲げられた復活案は「観光客と地元客が行きかうような、それぞれのニーズに対応する複合モールへのREBORN(再生)」。
実際、北にあった棟は解体され、地元民向けのスーパーとドラッグストアが新しく建てられました。事業者交代に伴って、施設名も「大洗シーサイドステーション」に変わっています。
しかし、今度はその2年後にコロナ禍に見舞われてしまいます。当然のことながら、この施設も臨時休業を余儀なくされたわけです。
大洗シーサイドステーションはさまざまな外的要因に晒されながら、常にその影響を被ってきたとも言えそうです。それが、現在の「ガラガラぶり」の1つの要因であることは間違いないでしょう。
大洗自体は賑わっているのに…
しかし注目したいのは、大洗町自体には、多くの観光客が訪れているということです。茨城県の自治体では、2022年に1位、2023年にも2位の入込客数をつけています。県内でも有数の観光地なのです。
また、茨城県の観光客動態調査から、年ごとの大洗町への観光客の延べ人数をグラフにしてみると以下の通りになります。
2010年以前は茨城県独自の調査方法で集計をしているため、単純比較はできないのですが、2011年の東日本大震災で激減した観光客は2012年以降かなり回復し、以後横ばいで観光客数は推移しています。
また、2020年のコロナ禍での観光客数の減少についても、現在はコロナ以前と同水準まで観光客数が回復しています。震災以前と比べると、確かに観光客は減っているのですが、死活問題になるほどではありません。
大洗の他の観光施設にも足を運んでみました。
中でも有名なのが「アクアワールド大洗」です。日本最大級のマンボウ水槽などが見どころの水族館で、2022年から2023年には約41万人も観光客が増えています。
あるいは、「めんたいパーク」。
これは、明太子製造大手の「東京かねふく」が運営する施設で、中には明太子の直売所や工場見学、明太子に関する展示などが並びます。私が訪れたときも、多くのファミリー層が詰めかけていました。
つまり、大洗の他の観光スポットと比べて、明確に大洗シーサイドステーションだけ、歩調が合っていないわけです。
ということは、やはり商業施設そのものに大きな問題があると考えられるでしょう。
施設全体が「中途半端」に
この施設の何が問題だったのでしょうか。
その要因は複合的ですが、現地を訪れた私なりに考えると「施設全体の色が見えにくい」ことがあると思います。ここはどういう施設で、何がウリなのか。それがわからないのです。
2006年にアウトレットが誕生したとき、ここは「リゾートモール」として開業しました。冒頭で触れたヤシの木もその名残でしょう。
しかし、開業当時のテナント一覧を見てみると、特に「リゾート」感のあるテナントがたくさん入っているわけではありません。
また、2017年に事業者が交代したとき、「観光客と地元客が行きかうような、それぞれのニーズに対応する複合モール」を目指したことはすでに書いた通りです。
ただしその結果、地元民にとって利便性の高い施設を目指しているのか、観光客向けに大洗や茨城県の特産品を押し出していくのか、どちらの方向を向いているのかわかりにくい、中途半端な施設になってしまっています。
また、現在押し出されているコンテンツの1つに、大洗を舞台にしたアニメ「ガールズ&パンツァー(ガルパン)」とのコラボレーションがあります。しかし、それも施設内にいくつかの施設があるだけで、ショッピングモール全体として押し出している感じはありません。
大洗町とガルパンのタッグは、いわゆる「聖地巡礼」の例としてはかなり早い段階から始まっており、アニメーションなどを用いたコンテンツツーリズムの先駆けとしてさまざまに研究されています。
松井圭介(筑波大学教授)らの調査によれば、こうしたガルパンとのコラボは、それがそのまま地域の経済的な発展をもたらすわけではありません。地元のお店がそれらと合わせた戦略を積極的に打つことにより、そのポテンシャルが発揮されるといいます。
その意味では、ガルパンを推すにしても、モール全体で盛り上げないといけないのですが、さまざまなテナントがあるだけに、全体での歩調が合わないのかもしれません。
このように、モール全体としての「色」が明確になければ、いくら大洗全体の観光客が好調であろうとも、なかなかそこに人は来ないのではないでしょうか。
負のスパイラルから抜け出すには?
大洗シーサイドステーションは、「負のスパイラル」に陥っているように感じます。
テナントの改革をして、モール全体のイメージを底上げし、集客力をアップしようにも、現在の状態では入りたいと思うテナントを探す方が難しい。
特に大手のテナントはほとんどが出店を控える状態です。テナントが集まらなければ、さらにモールとしての魅力は下がってしまう。まさに、負のスパイラルです。
一方、少ないながらも、現在そこに入るテナントには、魅力ある店が多いのも確かです。「大洗まいわい市場」には、茨城県や大洗の特産品がたくさん売られ、賑わっています。
また、地ビールを製造する「Beach Culture Brewing」も、地元ならではのビール製造を行っており、とてもよい雰囲気です。
空きテナントの多さは、普通に考えれば良くないことではありますが、逆に言えば「地元で面白いことをしたい」と思う人々にとっては、絶好の出店機会が眠っているとも捉えられます。
この状況をチャンスに変えて、地元の魅力あるテナントが入ることが、モールの魅力をアップさせることにつながるのではないでしょうか。
こうした「地元に根差したモールの展開」が、現在の負のスパイラルからの脱却の希望の光となるかもしれません。
さまざまな事情から、モールとしての「色」を出しきれていない大洗シーサイドステーション。その復権の鍵は、意外と「地元」にあるのではないでしょうか。
(谷頭和希)
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