事件になると入居者の退去が相次ぎ、近所にうわさも立つ

――違法な業態かどうかという前に、「住居用」として借りているなら、契約違反でしょう。

穂積さん そのとおりです。しかし違法行為をしているなら、それだけではすみません。事件に発展する可能性もあると予想しなければなりません。そうなると、その部屋だけではなく、マンション全体に多大な迷惑がかかります。また、ニュースになれば退去者が続出する、同時に、新しい入居者も来なくなるということもあります。

――オーナーにとっては大迷惑ですね。その女性はどうなりましたか。

穂積さん ちょうど近所の方からも、「夜になると不特定多数の男女が出入りしている」、「騒がしい」などの苦情も寄せられていたようで、いよいよ、「風俗店だな」、と対策を考えていたころ、突じょとしてその部屋に、警察が大人数で踏み込んだのです。住人の方からご近所まで騒然としたとか。

結果はやはり、無許可でSMクラブの営業をしていたということで、入居者の女性と、クラブの実質オーナーの男、数人のお客さんも現行犯で逮捕されたそうです。

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『不動産屋は見た! ~部屋探しのマル秘テク、教えます』
(東京書籍)より。原作・文 朝日奈ゆか、漫画 東條さち子

 

――なぜ警察が知るところとなったのでしょう。

穂積さん お客さんが店の様子を写真に撮って、ネット上にがんがん掲載したそうです。住所もアップしたと。そこからアシがついたと聞きました。

――オーナーさんはさぞ困られたことでしょう。どんな影響がありましたか。

穂積さん オーナーは、それはもう、嘆いておられました。しかしながらよく話を聞いてみると、どうも、その女性の入居が決まったときの仲介会社や管理会社、オーナーの審査が甘かったように思います。

そもそもそこは、大阪市中心部の繁華街に隣接した、家賃が高めの物件です。女性の一人暮らしにしては部屋の広さもかなりのものです。契約時の話を聞いてみると、初見で決めたという女性にも、諸条件を聞いて契約したオーナー側にも何やら違和感を覚えました。

また、女性の職業は詐称だったのですが、申込書類には「会社員」となっていました。堅い職業ですが、その部屋の家賃は20代の会社員の給料で支払えるような額ではありません。

――仲介業者やオーナーがそれを見抜けなかった、ということですね。

穂積さん 見抜けなかったのか、見抜いていても見逃したのか、高額物件なので早く決めたかったのか。いずれかでしょう。

それに、もちろん、見かけによらない人もいらっしゃいますが、職業詐称であれば、いくつか質問をする、会話をすると挙動不審な点が出てくることが多いのです。何らコミュニケーションをとらずに、追及もせずに、審査を通した例でしょう。

このケースでもやはり、お隣と階下の人は退去され、しばらくは近所でうわさの的になっていました。

空室が長かった、一日も早く家賃収入が欲しいなど切羽詰まった状況で安易に貸してしまうと、結局、今回のような事件に発展するなど後始末に苦労する例が多いのです。数倍の損額をこうむった上に、管理組合や管理会社からは厳重注意を受けることになり、関係者の信頼も損ねます。

「入居者が部屋で違法行為をして逮捕される事件」と言えども、原因を分析すると、オーナー側にも手落ちや責任があるケースも多いと実感しています。

――その点を認識して不測の事態に備えることが重要ですね。ほかに、どんな違法行為がありますか。

穂積さん 部屋で大麻栽培、違法ドラッグ売買、闇金融、電話専門風俗店、違法映像の撮影部屋、暴力団やカルト教団の事務所、とばく場など、多種にわたります。これらの商売の場合、数か月~半年で移転することが多いのも特徴です。

――どうすれば、避けられるのでしょうか。

穂積さん 申し込みがあった段階で、入居希望者と物件の条件のバランスがとれていないようなら、その理由や事情を聞いてみることです。少しでも不審だなと思う点があれば、勤務先や現在の居住先に出向いて調査することも大切です。

また、これは私自身が意識しているのですが、オーナーや管理会社、仲介会社は、審査する力を自ら養うよう心がけ、勉強し、「営業成績や欲に目がくらむと、自分こそが原因になる」と肝に銘じることが何よりの予防だと考えています。

――リアルなケースの情報を得て、予防と対策を心がけておく必要がありますね。ありがとうございました。

世にはびこる違法行為。この女性のような入居者に出会う確率は高くなる一方の時代です。そして、引き寄せるのもまた、「オーナーや仲介、管理会社の入居者募集に関する姿勢、空室をうめたい気持ち、焦りによるところが大きい」という、現場で場数を踏んできた穂積さんの言葉は重く響きます。

オーナー側は「不幸にしてこのような入居者に遭遇してしまった」と嘆いていても、客観的に見ると、「入居者に起因するトラブル」は、実は「オーナーに起因するトラブル」という側面を有することがあるのでしょう。

そして、不審な事態が見えた場合は、大きな事件に発展しないよう、一刻も早く原因を追及する必要があります。オーナーの判断、決断によっては以降の成り行きが変わることもあるでしょう。これらもまた、不動産オーナーの重要な仕事です。

 

~ 不動産アドバイザー・穂積さんの教え! ~

1.水道代が異様に高い場合は、設備の不具合か、部屋で何かが起こっている。
2.入居者に不審な行動があった場合、一刻も早く具体的に対応する。
3.入居希望者の収入などと家賃のバランスがとれていない場合は、慎重に審査をする。
4.家賃収入を焦って契約すると、後から困ることになる。