「博打をしないと、都心部の駅徒歩10分以内の新築用地は他社に取られてしまう。大手デベロッパーたちと競合しながらよい土地を買うのは、本当に難しいんです」

そう語るのは、不動産投資歴14年目、総投資額170億円の図越寛さん。大阪近郊で12棟420室の新築高層RC物件を保有し、自社ブランドとして展開する。現在、総額40億円の新築RCマンションを4棟同時に建設中だ。

都心の土地を仕入れるためには、個人投資家ながら、大手デベロッパーと対等に渡り合う必要がある。さらに地盤調査なしで買付をいれる「博打」も必要だとか。

大規模な物件をどのようにして購入し、滞りなく運営しているのか。

背景には、図越さんの建設現場への指示・確認の徹底や、市況を見抜いた適切な投資判断がある。4棟の建築現場を案内してもらいながら、土地購入の経緯や物件へのこだわりを聞いた。

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図越寛(づごし・ひろし)

不動産投資歴14年目で総投資額170億円、年間家賃収入5億円。
30歳の時にサラリーマンから一念発起、不動産投資を始めた。
「土地から新築」を手掛けた12棟420室のRCマンションを所有。

1.7億の追加見積り発生…100億大家はどう切り抜けた?

まずは大阪市中央区にある15階建てRCマンションの建築現場を訪れた。図越さんが手掛ける新築マンション「ブエナビスタ」シリーズは、「ハイグレード賃貸」がコンセプトだ。自身のこだわりが随所に光る。

建築中のブエナビスタ高津タワー外観

たとえば、排気ダクトの位置ひとつにもこだわっていると話す。

この物件の居室は、入口側にお風呂やキッチンなどの水回り、奥のバルコニー側にリビング・ダイニングという作りになっている。もともとの設計上は、キッチンからバルコニーに向かって排気ダクトを通す予定だった。

リビングの天井が出っ張るのを防ぐため、排気ダクトを横方向に通している

しかし、「それではリビングの天井の一部がボコッと出っ張ってしまう」と図越さんはいう。仕様を変更し、キッチンから横方向の妻側壁(建物の端側)に通すように調整してもらった。

バルコニーにもこだわりがある。一般的な賃貸マンションのバルコニーの奥行きは1.2メートルくらいなのに対し、この物件は1.9メートルあるという。

「バルコニーを広げるためにはコンクリート・鉄筋を追加する必要がありますので、費用も数百万円ほど多くかかります。しかし、他社賃貸物件にはない差別化ポイントが作れます」と語る。

順調に建築が進んでいるように見えるが、自己評価は「◯△×で言うと×に近い△」と図越さん。当初想定建築費からの追加予算が、資金計画を大きく狂わせているのだという。

追加予算が生じた理由は、建築費の想定見積もりが「大甘」だったことだそう。土地購入から建築着工までの1年間で資材価格が想定以上に高騰したことも相まって、大きな影響を及ぼしている。

スマートフォンで設計資料を確認する図越さん

そもそも、「土地決済時に正確な建築費見積もりが出る案件はない」と図越さん。購入前の土地でボーリング調査を行うのが難しく、正確な構造計算ができないからだ。

買付前の段階では概算見積をもとに金融機関に相談し、資金調達を進めるほかない。そのため、大幅な追加費用が発生すると、資金繰りに窮するリスクもある。

この物件では、購入後のボーリング調査で、支持層と呼ばれる堅い地盤が想定より深い場所にあることが判明した。予定していた30メートルの杭6本では支持層まで届かないため、45メートルの杭に変更となった。

さらに地中障害調査をすると、旧建物の杭が地中に残っており、新たに打ち込む杭に干渉してしまうこともわかった。新たな杭の位置をずらす工事と、それに伴い基礎を分厚くする工事が追加された。

もろもろの追加費用を踏まえ、最終見積もりは想定から1億7000万円のプラスに。利回りも、想定水準の1割減となった。

建築を諦め、土地のまま売るなどして撤退することもできるが、そうすれば設計料2000万円と融資手数料800万円をドブに捨てることになる。事業を継続するかどうか、判断を迫られた。

「プラス1.7億はさすがの私も凹みましたよ。でも、時は止まってくれない。銀行さんに頭を下げて、『なんとか融資条件を変更していただけませんか。変更不可のゼロ回答でも恨んだりしませんが、その場合は潔く、経営責任としてこのプロジェクトから撤退します』と相談に行きました」

その結果、1億7000万円のほぼ半額、9000万円分の追加融資が降りた。融資期間も5年伸び、なんとか許容できる返済計画を整えられたという。銀行と築いてきた信頼関係が幸いし、経営を立て直せたと振り返る。

■融資条件の変化
・金額:9億円→9億9000万円
・期間:30年→35年
・金利:0.9%→0.9%(※2024年10月から0.15%増の1.05%)

「ボーリング調査前の買付は、ある意味博打です。でも博打をしないと、都心部駅10分以内の新築RC高層案件の土地は他社に取られてしまう。大手と競合しながらよい土地を買うのは、本当に難しいんです」と図越さんは語る。

追加工事は「基本的に発生するもの」と考えているといい、余裕ある資金計画の重要性を強調した。

「賃貸物件にしては広い」と語るバルコニー

ところで、この物件では広いバルコニーを採用するなど、費用をかけて質を高める方針で設計が進められていた。追加工事発覚後に仕様をダウングレードし、少しでも建築費を抑えようとは思わなかったのだろうか。

「それはケチケチ大家さん・ケチケチデベロッパーさんの思考。プロ大家さんは入居者ファーストです。物件のグレードを下げるくらいなら、撤退します」

図面と施工は「違って当たり前」

続いては、建設中ながら「大人気確定」と語る物件を見学する。

図越さんの経験上、1LDKは「直間」よりも「振り分けタイプ」の間取りの方が人気が高いという。この物件では全室振り分けタイプの間取りを採用できたため、客付けの強い武器となると考えている。

ユニットバスに設置されたフックの色を確認する図越さん

仕様書を片手に現場を見回っていると、ユニットバスに取り付けられたアイボリー色のフックに目を留めた図越さん。

「ブエナビスタシリーズではシルバーのフックが標準仕様」と、すかさず現場監督に交換依頼をした。現場は定期的にチェックし、意図と違う箇所があればすぐに調整することを徹底しているという。

ユニットバスの仕様を確認する図越さん(右)たち

図越さんによれば、「分譲マンションとは違い、中堅以下の工務店施工による賃貸マンションの場合は、図面と施工内容が違うのは当たり前」。

そもそも図面に細かい仕様が書かれていないケースも珍しくなく、現場の判断で工事が進むことも多いそうだ。

「明確な指示がないなら、現場判断が下されるのは当然のこと。施工結果が意図と違ったとしても、それは指示をしていない施主の責任です」

この日は現場監督と電気工事職人を交えて、照明や電気設備に関する細かい仕様確認を行った。

たとえば、洗面台のコンセント位置はどこにするのか。ミラーキャビネットには間接照明をつける予定だが、電圧安定器の位置をどうするか。

意見を求められた図越さんは、「見えにくい場所だから、キャビネットの中で天付けにするのは?」と提案する。

照明周りの仕様について話し合う図越さん(中央)

玄関ライトをめぐる相談もあった。これまではスイッチなしの人感センサー式を使用していたが、本物件からスイッチ式に変更するそう。一定時間連続で照明を点灯させておきたい、というニーズを想定している。

「高級外車では数年おきにマイナーチェンジ、フルモデルチェンジをします。建築物件も同じ。マイナーチェンジを毎年していかなければ、時代に取り残されてしまいます」と図越さん。退去立ち会い時に記入を依頼しているアンケートを参考にすることもあるという。

現場への指示は、資料に書き込みをして的確に伝えている

現場監督・電気工事職人ともに継続して付き合いがあるので、ある程度の仕様や施工方法は理解し合っているという。しかし図越さんは、今でも書面での情報共有を徹底している。

「現場監督さんが分かっていても、そこから職人さんに伝わるときに曖昧になってしまうかもしれません。付き合いが長いから感覚でわかるだろう、ではなくて、きちんと書面で伝えることが大事です」

「駅徒歩20秒」の土地が買えたワケ

2023年9月に購入した土地では、現在土留め工事の真っ最中。大阪メトロ御堂筋線・四つ橋線の大国町駅から徒歩20秒という好立地が魅力だった。

大手不動産会社が取りまとめる入札に個人投資家ながら参加し、落札したのだという。

「ある意味、投げやりで入れた買付です。まさか本当に入札一番手になるとは思いませんでした」

建築中の土地の前で。歩道の奥に見える下り階段が大国町駅への入口

大国町駅はなんば駅から御堂筋線で1駅。「数十年前は治安がよくない街という印象だった」と図越さんは語るが、中心地であるなんばに近いため、近年盛んに再開発が行われているようだ。

家賃相場はなんばや心斎橋よりは割安なものの、近年は高級賃貸も出てきているそう。大手デベロッパーによる大規模な投資用マンションも増えているため、買付競争は熾烈を極めるという。

「デベロッパーは建てて売るのが仕事です。薄利多売で経営が成り立つので、高値で買付を入れてきます。しかし、私のような個人投資家は利回りが取れる価格で買う必要があるので、同じ戦い方はできません」

土地の様子。2面接道だが、細長い

この土地の相場は5億円ほど。収益性を鑑みた結果、図越さんは3億9000万円で入札することを決めた。まさか買えないだろうと考えていたというが、落札できた要因は「細長い変形地だったこと」と語る。

「細長い物件は構造計算が弱くなりますので、建築費が上がるんです。投資用1Rデベロッパーはこういう土地が極めて不得意なので、思いの外、弱気な金額で入札していたようです」

次のステージは「2LDK」

最新物件だというこの土地では、ちょうど古い建物の解体が済んだところだ。

「売主様のご都合で、当初予定の売買契約日が8カ月も延期になりましたが、仲介業者様と辛抱強くお待ちしました。最終的に、売買金額が当初予定プラス3000万円になりましたが、涙をのんで受け入れました」

この物件では、ブエナビスタシリーズで初めて2LDKに挑戦できそうだ、と図越さん。新築2LDKの賃貸は、都心部では少ないのだという。

土地の様子。旧建物の解体が済んだところ

これまで図越さんは「収入に余裕があり、都心でハイグレードな住居に住みたい20~30代の1人暮らし、またはDINKS世代」をターゲットに、新築RCの1LDK物件の建築に取り組んできた。

「レッドオーシャンの1Rに比べると、1LDKの需給バランスはまだマシです。入居者募集に苦戦することはありませんが、次のステージとして2LDKへの挑戦もバリューがあるのではないかと仮説を立てました」

新築2LDKの競合として見据えるのは、タワーマンションの分譲賃貸だ。共用部の充実度や外観で勝つのは難しいとしながらも、「内装なら商機あり」と、客付けの見通しは立っている。

「融資第一」で物件は買わない

一気に4棟・40億円の新築を進める図越さんだが、それぞれの物件の評価はどのようなものだろうか。特に重視する6つの指標で点数化してもらった。総合100点満点で、70点以上に達する物件を購入対象としている。

図越さんが重視する「6つの指標」※重視する順に記載

1. 利回り…5.5%税込以上
2. 立地…都心部駅徒歩10分以内、周辺に嫌悪施設無し
3. 間取り…1LDK振り分けタイプ、間口(採光)が広くとれる
4. デザイン…モダン、アーバン、スタイリッシュを感じられる
5. 規模感…1棟5億円以上、できれば1棟10億円以上
6. 融資条件…低金利(0%台)・融資額(頭金)・融資期間・融資手数料を総合的に判断、経営者保証なし

各物件の評価理由は次のとおりだ。

■物件1:ブエナビスタ高津タワー
・利回り…12/20点
予算が大幅超過したためマイナス評価

・立地…13/18点
繁華街やラブホテルに近いためマイナス評価

・間取り…15/17点
1LDK振り分けを採用できたためプラス評価

・規模感…14/14点
事業規模が10億円超なため満点

・融資条件…12/14点
追加予算に銀行が柔軟に対応してくれたためプラス評価

■物件2:ブエナビスタ難波サウス
・利回り…15/20点
合格点の5.5%に近いためプラス評価

立地…14/18点
駅から徒歩2分なためプラス評価

・間取り…17/17点
全室1LDKの振り分けを採用できたため満点

・規模感…11/14点
事業規模が10億円未満なためマイナス評価

・融資条件…12/14点
全借入の中で最も低い金利(0.395%+TIBOR)で融資を獲得できたため、過去最大額の頭金負担(3.6割)を応諾

■物件3:ブエナビスタ難波タワー
・利回り…16/20点
合格点の5.5%を超えているためプラス評価

・立地…17/18点
駅徒歩20秒の好立地なためプラス評価

・間取り…15/17点
全室が1LDK直間なためマイナス評価

・規模感…14/14点
事業規模が10億円超なため満点

・ 融資条件…12/14点
規模感に対し、銀行が柔軟に対応してくれたためプラス評価

■物件4:ブエナビスタ阿波座タワー
・利回り…18/20点
合格点の5.5%を超えているためプラス評価

・立地…16/18点
人気駅から徒歩3分なためプラス評価

・間取り…17/17点
シリーズ初の2LDKを導入、かつ1LDKは振り分けなため満点

・規模感…11/14点
事業規模が10億円未満なためマイナス評価

・融資条件…11/14点
金利がそこまで低くなかった(0.75%+TIBOR)ためマイナス評価

都心の好立地が売りのブエナビスタシリーズを手掛けるうえでは、「立地なしでの検討はできない」と語る。収益性に関わる「利回り」に次いで、「立地」を重視する方針だ。

資金調達の要となる「融資条件」の重要度は最も低い。融資が出るかより、きちんと採算が取れ、入居者満足度が高い物件ができるかを重視しているという。そのため、自ずと他の指標の方が優先度が高くなるのだ。

「『融資が出る物件を買う』は初心者大家さんの考え方。もちろん融資は大事ですが、究極、頭金を入れればある程度の融資は出ますので。「プロ大家」さんなら、『融資は最後』ではないでしょうか」

都心でRC物件を建てられる土地の仕入れでは大手デベロッパーとの競合が避けられないため、買付は「融資特約なしが基本」と話す図越さん。

それでも「融資は最後」という考え方で投資できるのは、普段から金融機関からの見られ方を意識して財務状況を磨き上げているからだそう。図越さんの投資戦略について、後編でさらに詳しく伺います。

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(楽待新聞編集部)