道後温泉が有名な愛媛県松山市で、線路の高架化を含めた2つの街づくりプロジェクトが進んでいる。
松山市は四国の中でも本州に近く、高松市(香川県)と並んで観光拠点のほか、都心としての機能を持つ都市。しかし、近年では松山駅周辺の活力が低下したことで、来街者や税収の減少が懸念されていた。
計画通りに再開発が進めば、中心市街地には高さ70メートル超の高層ビルが2棟誕生するという。どのような街づくりを目指しているのか、今回は松山市が抱えている地域課題と、2つの再開発計画に迫った。
年間500万人が観光に訪れる松山市
県庁所在地でもある愛媛県松山市は、人口約50万人を擁する四国最大級の都市。2020年度の市内総生産は約1億6400万円で、愛媛県全体の約3分の1を占めている。
経済的にも四国の中核を担うが、国勢調査の結果を見ると2015~2020年にかけては人口が4000人ほど減少している。それでも県内では突出して人口は多く、松山市だけで県内人口の約37%を占めている状況だ。
2022年4月時点の年齢構成を見ると、0~14歳は12.5%、15~64歳は66.2%、65歳以上は21.3%。全国平均に比べると、生産年齢人口(生産活動を支える15~64歳)の割合がやや高い。
意外に感じるかもしれないが、地方都市としては高齢化率も低い傾向にある。
産業構造を見てみると、松山市では観光を軸とした第3次産業が盛んである。2020年のデータでは松山市内の就業者数(約21.4万人)のうち、76.9%を第3次産業が占める結果となった。
中でも卸売業・小売業は全体の17.0%を占めており、次いで医療・福祉が16.5%、宿泊業・飲食サービス業が6.0%と続く。中核市として再開発されたこともあってか、第1次産業の就業者数は2.7%と少ない。
松山市の第3次産業を支えているのは、日本最古の温泉とも言われる「道後温泉」や、山の上に建てられた「松山城」の存在だ。ほかにも博物館や美術館など、市内には歴史を感じさせる観光スポットが点在している。
豊富な観光資源を有する松山市には、年間約500万人の観光客が訪れる。中核市としてだけではなく、四国有数の観光都市としても松山市は重要なポジションを担っている。
地域資源を守りつつコンパクトシティを目指す
そんな松山市は、2011年に策定した「都市計画マスタープラン」の中で、市が抱える地域課題や今後のビジョンを明らかにしている。
特に大きな課題と思われるのが、松山駅を中心とした「市街地の活力低下」だ。市街地が拡大し、さらに大規模な商業施設が郊外に増加したことなどもあり、中心市街地の商店街の通行量や店舗数が以前より減っている。
さらに都市機能が拡散したことで、行政サービスの維持管理コストまで拡大。中心市街地では居住人口の空洞化が進み、車で移動する地域住民が増えているという。
これら地域課題に対しては、「都心部の機能強化」が基本方針として示された。都市機能の集約化を図るために、松山駅や松山市駅周辺を都心拠点として整備する。
具体的には、商業施設やオフィス、観光客向けの施設、国際交流を目的とした施設などを集積し、コンパクトな市街地の形成を目指すという。
そのほかにも、高齢者世帯、一人暮らし高齢者の増加、市の厳しい財政状況、災害リスクの増大などの課題も挙げられている。
こうした課題に対しては、都市計画マスタープランでは地域生活拠点の形成を推進する方針が示された。都市機能の集約と公共交通によるネットワーク化を図ることで、高齢者や子育て世代でも暮らしやすい住環境を整備する。
災害リスクに対しても、基本的にはコンパクトな市街地形成を目指し、災害予防に資する都市基盤を整備するという。
上記のほか、歴史文化資源を生かした景観の形成も基本方針の1つだ。道後温泉や松山城、城山公園、松山総合公園などを中心に、観光地としての魅力向上を目指している。
2棟のビル建設と高架化プロジェクトが進む
2024年時点において、松山市内では2つの再開発が進められている。
1つ目は、松山市駅の北東部「一番町一丁目・歩行町一丁目地区」で進められているプロジェクトだ。道後温泉からは南西に約1.5キロメートルの場所であり、区画の一部は4年前に閉館したホテルの跡地である。
一部報道によると、再開発準備組合としては東京の共同企業体が選定されたという。社名は明かされていないが、約0.7ヘクタールの区画に2棟の高層ビルを建てる計画があるとされる。
うち1棟は大手外資系ホテルが入る高さ約80メートルのビル、もう1棟は高さ約70メートルのマンションになる見込みだ。商業施設や会議室、緑地なども整備し、観光産業の振興と地域経済の活性化を狙っていく。
具体的な計画策定は2024年度中、着工は2028年、竣工は2030年夏ごろが予定されている。
2つ目のプロジェクトは、松山駅周辺で進む連続立体交差事業だ。JR予讃線(よさんせん)の約2.4キロメートルにわたる区間が対象で、線路の高架化に伴って9カ所の踏切を廃止する。
この事業が予定通りに進めば、踏切による渋滞が緩和されるのに加えて、線路で分断されていたエリアを一体的に開発できる。高架下のスペースには都市機能も導入できるため、コンパクトシティの実現が近づくだろう。
現時点では仮設工事や高架橋工事などが進んでおり、2024年度中に松山駅の仮駅舎への切り替えが予定されている。
本事業によって、松山駅周辺エリアは「四国の玄関口」とも言える交通結節点になる見込み。都市としての魅力向上と経済活性化に、大きく寄与することが期待されるところだ。
(朝霧瑛太/楽待新聞編集部)
朝霧 瑛太
10年以上不動産業界で経験を積んだあと、フリーライターとして独立。特に不動産投資記事の執筆実績多数あり。一次情報に基づくニュース記事やデータ分析の記事などが好評を博している。
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