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不動産投資において、物件の立地条件は投資の成否を左右する重要な要素だ。特に火災リスクは人命に関わるだけでなく、物件の価値や収益にも大きく影響する。

たとえば、新たに建物を建てようとする土地が「防火地域」や「準防火地域」にある場合、投資家は両地域に定められた建築規制に注意を払う必要がある。火災リスクを最小限に抑えるための規制が設けられているからだ。

では、「防火地域」「準防火地域」とはいったいどのようなものなのか。大手不動産会社でトップセールスの実績を持ち、現在は行政書士としても活躍している棚田健大郎氏が、両地域における具体的な規制内容や、これらの地域に物件を建てる際のメリットとデメリットを解説する。

防火地域・準防火地域とは

まず、防火地域と準防火地域はどう違うのだろうか。

どちらも、建築基準法にもとづいて自治体が指定するものだが、防火地域は、火災の拡大を防ぐため、建物が密集するエリアや緊急車両の通行が必要な幹線道路沿いなど、厳しい防火規制が課されている地域だ。

一方、準防火地域は防火地域に隣接するエリアで、規制はやや緩いものの、火災リスクを抑えるための規制がかけられている。

たとえば、「大都市の主要駅周辺は防火地域に指定され、周辺が準防火地域となっていることが多い」と棚田氏はいう。

画像中、赤い部分が防火地域、黄色い部分が準防火地域

延焼リスク低減のための建ぺい率緩和措置

この防火地域内の耐火建築物では、建ぺい率が10%上乗せされる。さらに、2019年に建築基準法が改正され、準防火地域の耐火建築物および準耐火建築物でも適用されるようになった。

法改正の背景にあるのは、2016年12月に新潟県糸魚川市で発生した大規模火災だ。強風によって糸魚川駅の北側から南北方向に大きく火が広がり、長時間にわたって燃え続け、鎮火できたのは火災発生から約30時間が経過していたという。

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「この火災が起きた糸魚川も、準防火地域でした。もともと火災の延焼を防ぐためのエリアだったのに、大規模火災に発展してしまった。それは、この地域に、築年数の経過した木造住宅が密集していたからです」

つまり、古い建物が多く、ほとんど耐火構造化が進んでいなかったことが、被害が大きくなった原因の1つだったのだという。

棚田氏は「糸魚川の火災以外にも、同じように準防火地域で大規模火災に発展した事例が全国で複数発生しています。こうしたことから、建ぺい率の緩和によって、延焼防止性能の高い建築物への建て替えを促進しようとしたのです」と解説する。

防火地域と準防火地域では、異なる建築制限がある

では、それぞれの地域で、どのような制限がかけられているのか。

防火地域では、原則として、地階(地下)を含む階数が3以上、または延面積が100平米を超える建物は、耐火建築物にする必要がある。地階を含む階数が3以上になるのであれば、延床面積が100平米以下であっても耐火建築物にしなくてはならない。

たとえば、地下1階、地上2階の建物は、地階を含む階数が3になるため、この規則が適用される。

これ以外の、地階を含む階数が2以下で、延べ面積が100平米以下の場合は、耐火建築物または準耐火建築物にする必要がある。

さらに、防火地域内では建物以外にも規制が設けられており、高さが3メートルを超える看板や広告塔、または建物の屋上に設置されるものには、主要な部分に不燃材料を使用するか、不燃材で覆うことが求められる。

一方、準防火地域の規制では、地上階数が4以上、または延床面積が1500平米を超える建物は、耐火建築物にする必要がある。

地上階数が3で延床面積が500平米超1500平米以下、もしくは地上階数が2以下で延床面積が500平米超1500平米以下の場合には、耐火建築物か準耐火建築物にすることが求められる。

防火地域との大きな違いとして、準防火地域では地上階数のみで数え、地階が含まれないという点に注意したい。

防火地域と準防火地域の物件のメリットとは?

こうした防火地域や準防火地域に建物を建てようとする場合、どのようなメリットとデメリットがあるのか。棚田氏は、メリットの1つとして、まず前述した「建ぺい率の緩和」を挙げる。

「防火地域や準防火地域では建ぺい率が10%緩和されるため、通常よりも広い家を建てることができます。言い換えれば、他の地域で建てるのと比べて建ぺい率が10%おまけされている状態です。駅前などでは容積率や建物の高さに関する制限も緩和されます」

また、「火災保険料が安くなること」もメリットの1つだという。基本的に、耐火建築物であれば保険料が安くなる仕組みになっているため、耐火性能の高い建築物を求められる防火地域・準防火地域では、必然的に火災保険料が安くなりやすい。

他方、防火地域や準防火地域にはデメリットもある。

「まず、大きな懸念として挙げられるのが建築コストの増加です。耐火性能を備えた建物に仕上げるためには、屋根や外壁に不燃材を使用したり、防火ドアや防火窓の設置をしなくてはならないことも。これらの要素が、他と比較して建築コストを押し上げる大きな要因です」

また、「建物のデザインに制約を受ける」とも棚田氏は指摘する。防火地域や準防火地域では防火性能を優先して設計する必要があるため、デザインの自由度が制限される可能性があるのだという。

特に、個性的なデザインや凝った設計を求める場合には、防火性能を優先せざるを得ないため、選択肢が限られてしまうことはデメリットの1つだ。

どこが防火地域・準防火地域なのかは、インターネットを使えば、自分で簡単に調べることができる。自治体の都市計画などの情報が公開されていることが多いため、対象地域が防火地域かどうかなどを把握することができるのだと棚田氏は話す。

「不動産を購入する際はもちろん、不動産取引や管理の実務においても、防火地域や準防火地域の確認は非常に重要です。必ず調べておいてください」

 

(楽待新聞編集部)