「LUUP」をはじめとする電動キックボードが颯爽と走っていく様子を、街中でよく見かけるようになった。通勤やちょっとした移動に便利だと、都市部を中心に普及が進んでいる。
利用者が増えれば、ポートの設置数も増える。これらのポートは、アパートなどの遊休スペースにも設置可能だ。物件のオーナーは、設置協力費としてシェアモビリティサービスの運営会社から収入を得られる。
同じ空きスペースを活用した収益アップ法として、自動販売機や看板、通信アンテナなどを設置している人もいるだろう。これらと比較してシェアポートの設置は、大掛かりな工事が必要ない点、オーナーが負担する費用がない点が特徴として挙げられる。
そのため物件オーナーにとっては「設置のデメリットがない」「ノーリスクだ」との声も聞かれるが、実際に設置したオーナーはどのように感じているのだろうか。今回は3人の投資家にポート設置の経緯や、気になる収入面について話を聞いた。
「置ければ置く」ぐらいの気持ち
東京23区内を中心に不動産を所有する「tak@大家」さんは、2024年2月中旬、練馬区の単身者向け物件にLUUPのポートを設置した。トラブルや想定外の出来事もなく、現時点でデメリットは感じていないという。
tak@大家さんが所有する物件の駐車場には、追加で車1台を置くには少し狭いくらいの空きスペースがあった。「自動販売機は別の場所に設置しているし、他の有効活用方法を」と検討した際に思いついたのがLUUPのポートだった。
■物件情報
エリア:東京都練馬区
構造:木造アパート
間取り:1K×10戸
アパートの年間家賃収入:約700万円
数年前、tak@大家さんがLUUP側に問い合わせた時は「対象エリア外」との回答だったが、そこから普及が進んだことで今回の設置が実現した。
オーナー側の手出しは一切なく、ポートの管理はLUUP側で行ってくれる、複雑な解約条件もない、とのことで契約した。
ポートの設置工事も簡単だった。専用のテープで仕切りを設け、A型看板を設置して終了。オーナーが立ち会う必要もなかった。LUUPから、土地の月額賃料にあたる「設置協力費」を受け取れるようになり、この物件の表面利回りは約7.7%から約7.8%に上がったという。
また、通常オーナーが受け取れるのは月々の設置協力費のみだが、tak@大家さんの物件は立地が良かったためか、ポート設置時に礼金も支払われたそうだ。日割り分の設置協力費と礼金を合わせた約2万4500円が初めて振り込まれた金額だった。
1カ月あたりに受け取れる金額は小さいが、空いたスペースを活用し、LUUPの稼働状況に関わらず安定した収益になる点を、tak@大家さんは評価している。
「金額的には、バイクの駐車場にしたほうが良いのですが、LUUPは利用状況にかかわらず一定額が入ってくるので良いなと感じています。私の物件は駅まで徒歩12分と少し距離があるので、LUUPを置いていることが今後の入居者募集にプラスに働くとことを期待しています」
一方、ポートを設置したことで入居者以外の第三者が敷地に立ち入ることも増える。
これについては、「この物件はそこまで賃料が高いわけではないので、あまり気にしなくても良いかなと思っています。ただ、新築の物件や高級路線のアパートでは入居者の不満に繋がりかねないので、オーナーも管理の目を光らせる必要があるかもしれません」と話している。
現時点でデメリットこそ実感していないものの、「積極的にというよりは『置ければ置く』くらいの気持ちで良いと思う」とtak@大家さん。
ローリスク・ローリターンであることを踏まえ、検討の際は気軽に問い合わせてみてはどうか、と呼びかけた。
稼働率次第で契約解除も?
LUUP側から声がかかることもあるようだ。福岡市を中心に7棟の物件を所有する水野さん(仮名)は、2024年春ごろ、管理会社を通じてLUUPから「物件にポートを設置させてほしい」と営業を受けた。
当時は福岡市でもそこまでLUUPが普及していなかったようで、話を聞いた水野さんは「そんなものがあるんだ」と驚いたという。
問い合わせが来た物件は、築44年の単身者向け木造アパート。LUUPという新しいサービスと「イメージが合わないのではないか?」と心配だったそうだが、LUUP側の強い希望もあってポートを設置することを決めた。
■物件情報
エリア:福岡県福岡市
構造:木造アパート
間取り:1K×8戸
年間家賃収入:約230万円
設置台数は4台で、これにより表面利回りは約15.3%から約15.5%に上がった。物件の家賃は2万4000円ほどと高くはないため、このわずかな金額でも水野さんはありがたく感じているという。
しかし、この収入が消えてしまう可能性もある。水野さんは、契約する際にLUUP側から「稼働率が思わしくなかった場合、事前に通告した上で契約を終了させていただくこともある」と説明を受けたそうだ。
「私の物件は大通りから1本入ったところにあり、目につきやすい場所ではないので、契約終了となる可能性は十分あると考えています。ショックを受けるほどの金額でもないですが、オーナー側は稼働率などを知らない分、思いがけないタイミングでその通告が来るかもしれませんね」
金銭的メリットより「ステータス」重視するオーナーも
設置協力費は大きな金額でない一方で、少しでも多く受け取れたら嬉しい、というのがオーナー側の本音だろう。交渉の余地はあるのだろうか?
京都府や滋賀県を中心に物件を所有する「フルレバ大家B」さん(以下、Bさん)は、契約時に設置協力費の交渉を行ったという。Bさんによると、立地の良さやLUUP側の望む条件によって設置協力費は変動するようだ。
自身の設置協力費よりも高いケースを知っていたBさんが、LUUP側に増額できないか問い合わせたところ、「増額は難しいが設置台数を2台増やすことは可能」との返事があった。台数が増えれば収入も増えるため、Bさんもこの条件で了承した。
■物件情報
エリア:京都府京都市
構造:5階建てRCマンション
間取り:1R×22戸
年間家賃収入:約1400万円
しかし、実際に増えた金額はわずか。交渉こそしたが、Bさんはもともと金銭的メリットより「LUUPのポートがある」というステータスに興味があったという。
「LUUPからの収入は小さなもので、利回りにするとプラス0.05%にも届きません。それよりもポートの存在そのもので、街中の物件かつ、LUUP側が見込んだ立地にあることが示せて、入居付けや物件売却時の差別化につながるのではないかと思いました」
Bさんの場合、収益性だけでなく、競合物件との差別化や、無断駐輪の防止という意味でもLUUPのポート設置を評価しているようだ。
「なぜ必要なのか分からない」の声も
一方で「できるだけ関わりたくない」という投資家もいる。都内を中心に物件を所有するKさんは、街を走る電動キックボードの危険性から、シェアポートの設置も前向きに考えられない部分があると話す。
「移動手段としては電動アシスト自転車で代替できるのに、なぜ電動キックボードが必要とされているのか全然わからないです。歩行者として街に出た時に、何回も危険な思いをしました」
電動キックボードを巡っては、一部のルールを守らない利用者の行動が問題視されており、「規制が必要だ」との声も上がっている。
「大家の立場からすると、空いたスペースを有効活用するのは大賛成です。でも、どう活用するか考えた時に、悪い印象を抱く人もまだ多いものに積極的に参画したいとは正直思えない、というのが現状です」
今後、電動キックボードの社会的な捉えられ方が変わってきた場合は、ポート設置も前向きに検討するというKさん。新しいサービスだからこそ、「心理的ハードル」を感じる人も少なからずいるのだろう。
なお、LUUPの広報担当者によると、現在は東京・大阪・横浜・京都・宇都宮・神戸・名古屋・広島・仙台・福岡の10エリアを中心にサービスを提供しているという。
今後の展開予定エリアについては公表していないが、未展開エリアでもスポット的に導入された事例はあるようだ。
LUUPのポート数は、2024年9月27日時点で9700箇所。同社の広報担当者は、「法人、個人所有問わず、街じゅうにLUUPのポートを設置し、
◇
今回話を聞いた3人のオーナーは、いずれもポート設置のデメリットを感じていなかった。物件の空きスペースの活用方法を探している人は、選択肢の1つとして検討しても良いのかもしれない。
一方で、メリットの実感も大きくはないようだった。フルレバ大家Bさんのように、収入面でのメリットよりも、入居者満足や物件のステータスへの影響のほうが大きいとの見方もある。
ポートを設置して安定した収入を得たいのか、多少金額にバラつきがあってももう少し大きな収入を得たいのか、人によって考え方も違うだろう。今回紹介した事例を参考に、自身の物件の空きスペースの生かし方を考えてみてほしい。
(楽待新聞編集部)
プロフィール画像を登録