企業の決算から、不動産業界の現状について考える本連載。今回取り上げるのは、東証スタンダード市場に上場する「株式会社ランド」です。公式Webサイトによれば、従業員数は13名となっています。
ランドと言えば、「超低位株」や「ボロ株」などとして一部の投資家の間では有名かもしれません。2024年10月7日時点の株価は8円ですから、100株を購入しても800円。単元株価格の最安値ランキングでは、2位の「キムラタン」に大きく差を付けてトップとなっています。
そんなランドですが、土地の売買を中心に、不動産関連の事業を行っている企業です。今回はランドの事業内容や収益状況などについて、順番に見ていきたいと思います。
不動産開発の「ファーストステージ」手がける
それではさっそく事業内容から見ていきます。ランドの事業セグメントは以下の2つです。
1.不動産事業
住宅(区分所有マンション・戸建て)、オフィスビル、ホテル、商業施設、物流施設や宅地造成など、各種不動産の企画・開発・販売を行う事業
2.再生可能エネルギー関連投資事業
太陽光発電所やバイオマス発電所などの再エネ案件の不動産開発をはじめとした投資事業
不動産の開発や販売を行うほかに、再エネ投資を行っている企業となっています。
不動産開発の特徴としては、いわゆる「ファーストステージ」の事業を手掛けている点にあります。
具体的には、事業用地の取得に伴う権利関係の調整、あるいは開発許可などの各種許認可の取得により案件を仕上げて、すぐにでも着工可能な状態にする、というものです。
取得した土地の価値を高め、大手デベロッパーや外資系企業が組成する開発型ファンドなどに売却することで、成長してきた企業と言えるでしょう。
さらに再エネ関連の事業も、自社の情報ネットワークを活用し、調整能力を要する案件を中心に事業化しています。具体的には、大手デベロッパーや外資系ファンドが積極的には手掛けない段階の、土地の取りまとめ、権利関係調整、開発許可等の許認可などです。
不動産と再エネ、どちらも情報力を活かして土地の取得をし、大手デベロッパーが手掛けないような許認可関連の調整を行い、売却する事業が、同社の主力ということです。したがって、「好採算の土地を取得できるか否か」が重要だと言えるでしょう。
また、基本は「ファーストステージ」を中心に事業を行っていますが、再エネ関連の事業ではその後の段階へも出資を行うなど、収益源の拡大も進めています。
案件次第で業績が左右されやすいですから、このように売電部分の事業にも出資する事で安定収益の確保が進むかどうかには注目です。
財務状況はどうなっている?
続いて財務状況を見ていきましょう。
総資産95億8000万円のうち、現預金が20億6000万円、共同事業出資金が63億円で、この2つが大半を占めています。
事業を進める際には、共同事業パートナーとともに行い、さらにパートナーからの共同出資によるリスク分散も行いつつ事業を提供していますから、「共同事業出資金」が大きくなっています。
そのため、現在進めている土地開発への案件の出資金と現預金が、総資産の大半を占めています。
ちなみに、2024年2月期時点での各事業のセグメント別の資産を見ていくと以下の通りです。
1.不動産事業
37億7000万円
2.再生可能エネルギー関連投資
31億8000万円
直近ではどちらが大きいというわけでもなく、両事業とも分散して投資している状況だと分かります。
一方で、負債はすべて合計しても23億2000万円となっており、さらにそのうち、支払いの必要がない「前受金」が7億円を占めています。財務状況は良好な企業だということですね。
ランドは土地の売買を行う企業ですが、借入金の規模も小さく、基本的には自己資金を中心に事業を行っていることが分かります。
現在は日本でも利上げが進んでいますから、今後は調達環境の悪化の可能性があります。自己資金が中心であれば、そういった中でも事業を安定して継続できると考えられます。その点は、一定の強みとなっていきそうです。
売上と利益をチェック
続いて、2024年2月期時点でのセグメント別の売上と(利益)の額は以下の通りです。
1.不動産事業
売上…19億1000万円
利益…5億1000万円
2.再生可能エネルギー関連投資
売上…1億7000万円
利益…1億3000万円
売上・利益ともに不動産事業が主力となっています。ただし、これは事業内容を見ても分かる通りですが、抱えている案件によって業績が左右されやすいためです。
好採算の不動産を取得、売却ができれば業績は伸びます。例えば2022年2月期時点での売上と(利益)の額は以下の通りです。
1.不動産事業
売上…10億5000万円
利益…▲7600万円
※▲はマイナス
2.再生可能エネルギー関連投資
売上…19億8000万円
利益…18億7000万円
この時期では、再エネ関連の事業が大きな規模を持っていたことが分かります。両事業とも、その業績は「いい案件があるかどうか」に左右されやすく、業績の変動も比較的大きくなりやすい企業だと分かります。
事業内容がある程度分かったところで、続いて近年の業績の推移を見ていきましょう。
まず、売上高の推移を見ていくと、毎期大きく増減がある推移となっています。そしてそんな中でも、2021年2月期(第25期)と2024年2月期(第28期)は特に苦戦しています。
続いて利益面の推移を見ていくと、こちらも増減ありつつの推移です。
売上面が苦戦していた2021年2月期(第25期)は赤字、2024年2月期(第28期)は大幅減益となっており、苦戦しています。
やはり案件次第で業績が左右される企業ですから、業績は増減が大きく、そして2021年2月期や2024年2月期は特に苦戦傾向となっていたことが分かります。
業績増減の背景は?
では続いて、どうしてこういった推移になっていたのか、2019年2月期以降の状況を、同社の決算短信を確認しながらもう少し詳しく見ていきましょう。
減収減益となっていた2019年2月期の状況はというと、事業用地取得競争の激化や、建築価格の上昇など厳しい経営環境は続いているものの、再エネ関連の事業が、低金利や政府の経済政策を背景に良好な調達環境もあったとしています。そして、2020年2月期でも、同様の状況が続いていたとしています。
2019年~2020年2月期の業績は、事業環境としては、競争の激化や建築価格の上昇などが出始めており、2018年2月期は下回りつつの推移になっていた、ということですね。
そして大幅な減収で赤字となっていた2021年2月期に関しては、市場環境は、同様な環境が持続しているとしているものの、「不動産取引の一時的な停滞、再エネ関連は行政及び事業関係者との協議の長引き苦戦した」としています。
この時期は市況の悪化というよりも、コロナ禍での案件の長期化の影響が出たことで、赤字になるほど苦戦した状況だったことが分かります。
続いて2022年2月期は、「コロナ禍でも低金利による良好な資金調達環境を背景に、国内外の投資家の投資意欲が高い」としており、「不動産市況全体としては堅調に推移した」としています。2023年2月期に関しても同様で、不動産市場は堅調だとしています。
金融緩和もあり、不動産市況が良好になっていたということですね。業績に関しても2022~2023年2月期は比較的堅調な状況となっていました。
ですが、この2023年2月期からは土地価格、建設工事費等の原価高騰による不動産価格の高額化、金融政策変更に伴う市場への影響も見極める必要がある状況になったとしており、今後の新規投資に関しては収益性の検討をより慎重に行う必要が出てきた、としています。
不動産価格が高騰する中で、事業環境には一定の変化が見え始めてきたことが分かります。そして2024年2月期も同様に、「不動産市況は堅調ながらも収益性の慎重な検討な必要な状況が続いていた」としています。そういった中で業績は大幅な減収減益となっており苦戦していました。
不動産価格や建設費の高騰、円安による海外投資家との競争環境の悪化などが進む中で、土地を取り扱う企業は一定の転換点を迎えていることが分かります。
直近の2025年2月期1Qの業績は以下の通りです。
【2025年2月期1Q】
売上…1億1000万円(▲65.4%)
営業損益…▲8000万円 ⇒ ▲1億5000万円
経常損益…▲6000万円 ⇒ ▲1億6000万円
純利益…▲6000万円 ⇒ ▲1億6000万円
※▲はマイナス
減収で赤字幅も拡大と、苦戦しています。
事業環境としては、「建設コスト上昇などの懸念がある状況は続くものの、その一方で日本の低金利と円安を背景に、国内および海外の不動産投資家の投資姿勢は引き続き旺盛な状況が続いている」としています。
コスト上昇や不動産価格が上昇する中でも、競争環境は激化しており、苦戦傾向が続いていることが分かります。今後も一定の苦戦が続く可能性が高そうです。
とはいえ、通期では増収益を見込んでいます。案件の売却時期次第で業績に大きく影響が出る事業を展開していますから、通期ではそれによって一定の業績改善が進むということですね。
それでも、通期予想の営業利益は10億円と、2023年2月期を下回るような水準ですから、やはり一定の停滞傾向ではあります。コスト上昇の中で積極的な事業展開は難しい環境が続いていることが分かります。ですが、今後は再び市況は転換を迎える可能性はあります。
この決算後に日本円でも利上げとなり、米国の経済状況の悪化も懸念される中、為替も大きく円高方向に動きました。利上げによる調達環境の悪化、円高による海外投資家の投資意欲の減退などが起きてくる可能性があるということです。
再び大きく市場環境の変化が起きる可能性があるということですから、どのように市況が変化するのかには注目です。
そしてランドは自己資金を中心に事業を展開していますから、利上げの影響は少ないと考えられます。市況の変化によって競争環境が緩和すれば好影響も考えられます。
市況は今後どのように推移し、どういった投資を進めていくのかには注目です。
(妄想する決算)
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