不動産の差し押さえを逃れるため虚偽の登記をしたなどとして、タレントの羽賀研二容疑者が先月25日、愛知県警に逮捕された事件。事件の全容はまだ明らかになっていないが、不動産絡みの事件ということもあり関心を持った人もいるだろう。
今回の容疑とされる「強制執行妨害目的財産損壊等罪」や「電磁的公正証書原本不実記録罪」は、どのような犯罪なのだろうか。不動産関係の法律に詳しい関口郷思弁護士に話を聞いた。
「資産隠し」という犯罪
愛知県警の発表や報道によると、羽賀容疑者らは共謀のうえ昨年6月、羽賀容疑者が所有する沖縄県北谷町のビルと土地の差し押さえを逃れるため、羽賀容疑者が代表を務める法人にこれらの不動産の所有権を移転する虚偽の登記を行った疑いが持たれている。
羽賀容疑者のほかにも、虚偽の登記に関わったなどとして司法書士や暴力団組長ら計6人が逮捕された。
一部報道によると、羽賀容疑者はこのビルを賃貸して毎月数百万円の賃料収入を得ていたという。
つまり、羽賀容疑者はいわゆる「資産隠し」を行ったとして逮捕されたのだ。
逮捕容疑として挙げられたのは「強制執行妨害目的財産損壊等罪」と「電磁的公正証書原本不実記録罪」。難しい言葉の連続で、どのような犯罪なのかイメージしにくい。
関口弁護士によると、この2つの犯罪は刑法で規定されており、罰則は以下の通りだ。
・電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条1項)
5年以下の懲役または50万円以下の罰金
・強制執行妨害目的財産損壊等罪(刑法96条の2ー第1号)
3年以下の懲役または250万円以下の罰金
強制執行妨害目的財産損壊等罪は「差し押さえを逃れるために、不動産を他人名義にするなどの行為」のこと。強制執行とは、今回のケースに当てはめると不動産の差し押さえを意味する。
一方、電磁的公正証書原本不実記録罪は「不動産登記簿や戸籍謄本、住民票など公的な証明書や記録について、事実と異なる内容を記録させる行為」のことだ。
差し押さえを逃れるための方法はいくつかあるが、例えば、実際には売買していないにも関わらず、虚偽の契約書を作成して売買したように見せかけて所有権移転登記を行うようなケースは、この2つの罪が成立する可能性がある。
財産が差し押さえられるケースとは
羽賀容疑者の不動産が差し押さえの対象となった背景には、過去に関わった詐欺事件の被害者に対して4億円の賠償義務を負っていたという事情があったようだ。
一般の人が財産の差し押さえを受けることは稀だが、一歩間違えばそうなる可能性もある。
例えば、住宅ローンやアパートローンなどの借金もそのリスクをはらんでいる。万が一、返済が滞ったりすれば、その物件を差し押さえられる恐れがある。また、固定資産税などの税金を滞納した場合も差し押さえの対象となる。
本人名義以外の不動産は差し押さえの対象外
では、どのような財産が差し押さえの対象となるのだろうか?
関口弁護士によると、財産は「動産」「不動産」「債権その他の財産権」の3つに大別される。
「動産は、現金や貴金属、美術品、家具などが含まれます。これらは基本的に本人が占有しているものはすべて対象となります。簡単に言えば、本人の家(部屋)の中にあるものは、第三者のものだと証明できない限り、差し押さえの対象となってしまいます」
一方で、不動産や債権(預金など)の場合、本人名義のもののみが対象となる。本人以外の名義であれば、家族名義でも差し押さえの対象から外れる。このため、羽賀容疑者のように、差し押さえを逃れるため家族や法人に名義を変更しようとする人が出てくるというわけだ。
「資産隠し」がバレるケース
しかし、明らかに差し押さえを逃れる目的で行われる所有権移転や名義変更は、「資産隠し」とみなされる。特に、家族や自身と関係のある法人などへの名義変更は目を付けられやすいという。
「売買の事実がないのに仮装して所有権の名義を移転する行為は虚偽の登記申請行為ですから、先ほど述べたような犯罪に当たります。特に家族名義に変更した場合は、真っ先に怪しまれるでしょう。このような、すぐにバレるような方法で資産隠しを行う人はあまりいません」
そこで、資産隠しをカモフラージュするために使われる手口が「偽装離婚による財産分与」だ。
羽賀容疑者は過去の詐欺事件で4億円の賠償を命じられた際、この方法で今回問題になった不動産を妻の名義に変更。これが資産隠しにあたるとして、2019年にも強制執行妨害目的財産損壊等罪で逮捕されていた。
この方法について、関口弁護士が解説する。
「贈与などが明らかな差し押さえ逃れと見られやすいのに対して、離婚による財産分与という形であれば、理屈としては通ってしまいます。つまり、夫婦で離婚を装い、慰謝料代わりや、妻の長年の協力に対しての見返りとして不動産1棟をあげることに合意したことにすれば、当局がそれを偽装だと立証することは難しいこともあります」
ちなみに、民事上は、当事者間で実際に売買の意思がないにもかかわらず、差し押さえを免れるために虚偽の登記を行った場合、民法の「通謀虚偽表示」にあたる。
この場合、当事者間の契約は無効になるが、事情を知らずにこの不動産を取得した第三者がいた場合、この第三者には無効を主張できない。例えば、羽賀容疑者の妻が勝手に第三者に不動産を売却したような場合だ。
◇
今回の事件を通して、どのような行為が「資産隠し」にあたり、犯罪になるのかを再認識しておくのもよいだろう。
万が一にも、うっかり税金を滞納してしまったり、ローンの返済が滞ってしまったりして、大事な不動産を差し押さえられるような事態に陥ることがないように注意したい。
(楽待新聞編集部)
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