新規学生の募集停止を発表した國學院大學栃木短期大学(編集部撮影)

短大はいよいよ「オワコン」なのかもしれない。学生数の減少に歯止めがかからず、閉学が相次いでいる。9月上旬には栃木県栃木市にある「國學院大學栃木短期大学」が、2025年4月入学生を最後に新規学生の募集を停止すると発表した。

1990年代には全国に50万人いた短大生も、現在は8万人ほどにまで減少した。600校あった短大は、いまや300校を切った。

2024年に入ってからも、創価女子短期大学(東京都)、名古屋女子大学短期大学部(愛知県)、九州龍谷短期大学(佐賀県)、純真短期大学(福岡県)など、学生の募集停止を発表する短大が後を絶たない。

短大が閉学となれば、街の若者の数が減り、不動産市場をはじめとする地域経済にも影響が出てくる可能性がある。

かつて学校数・学生数ともに大きく伸ばしていた短大が、なぜいま窮地に立たされているのか。単なる人口減少や少子化だけでは説明できない、短大の勢いが弱まった経緯とは?

なぜ短大は減っているのか

國學院大學栃木短期大学のホームページには、学生の募集停止を決めた背景が記載されている。やはり、18歳人口の減少や4年制大学志向の強まりによる志願者・入学者の減少が大きいようだ。

実際、入学者数は減少の一途をたどっている。2024年度は定員250名に対して入学者数129名と、定員充足率は50%程度にとどまった。

國學院大學栃木短期大学「情報の公開」より編集部作成

卒業生の女性は、「母校が無くなるのはとても寂しい」と閉学の悲しさをにじませた。

國學院大學栃木短期大学に限らず、こうした短大閉学の動きは顕著だ。1990年代には600校・50万人の学生がいたが、近年は学生を集めることができず、厳しい選択を迫られている。

文部科学省が発表した2024年度の「学校基本調査(速報値)」によると、短大の学生数は前年度より8400人減少の約7万8300人、学校数は297校まで数を減らした。直近5年間は、毎年6校以上が閉学となっている。

一方、大学は対象的な動きをしている。2023年度の大学(学部)への進学率は57.7%と過去最高を記録した。18歳人口の減少が進む中でも学校数は微増、在学者数も約295万人と過去最多を更新している。

文部科学省「学校基本調査」を基に編集部作成

30年ほど前は短大に進学する人が多くいたにも関わらず、なぜこれほどにまで短大の勢いは衰えてしまったのか?

大学ジャーナリストとして22年間、日本全国の高等教育機関を取材してきた石渡嶺司氏はその背景に「キャリアの考え方の変化」があると指摘する。

「1990年代に短大に勢いがあったのは、就職氷河期になって、特に女性は短大に行く方が就職しやすいとされていたからです。結婚したら退職する女性が多かった当時、就職のタイミングが早く、より長く働いてくれる短大卒の方が企業に重宝されていました」(石渡氏)

当時、女性は20代後半で結婚して専業主婦になるのがキャリアの主流だった。4年制大学卒の女性を採用しても数年で辞めてしまうため、企業は女性の総合職の枠を減らし、短大卒の女性を一般職として採用することが多くなったという。

しかし2000年代以降、晩婚化・未婚化が進んだほか、雇用の場での男女差も徐々になくなり、結婚や出産をしても復職する女性が増えた。女性のキャリアが大きく変化したことで、短大の人気は陰り始めた。

「企業側も、学習期間が長い4年制大学卒を市場価値の高い人材として欲しがるようになりました。かつては『2年で社会に出られる』ことが短大のメリットと考えられていましたが、今となってはその価値もあまりなくなってしまったのです」(石渡氏)

赤字の短大を無くして「4年制大学」に!?

さらに石渡氏は、短大の閉学が増えていることを「学校法人の経営」という視点からも仕方ない部分があると説明する。

「学校法人は企業でいうホールディングスのようなものです。通常は1つの学校法人が大学、短大、小中高、幼稚園などをまとめて運営しています。短大のような、募集定員を何年も満たさない赤字事業を無くしていくのは自然な動きです」(石渡氏)

大学設置基準(省令)などが定める手続きを踏めば、同じ学校法人の中で短大の定員分を4年制大学の学部として新設することができるという。

つまり、短大そのものが無くなっても、募集形態が変わるだけで、学校法人全体が抱える学生数は変わらない、ということは往々にしてあるのだ。

過去には、明治大学短期大学が閉学となる代わりに明治大学「情報コミュニケーション学部」が新設されたり、青山学院女子短期大学が閉学して青山学院大学「コミュニティ人間科学部」が新設されたりしている。

「4年制大学の学部ということなら入学希望者は集まります。受験料・授業料がしっかり入ってくるようになれば、学校法人の経営としては万々歳ですよね」(石渡氏)

2019年にコミュニティ人間科学部ができた、青山学院大学相模原キャンパス(PHOTO:dekoの風 / PIXTA)

この場合、閉学する短大と学部を新設する大学の立地によっては、地域経済にも影響が出る可能性がある。

短大と大学が同じキャンパス敷地内にあるケースは、募集形態が変わっても通う学生数は変わらないため、地域経済への打撃は小さいと言える。

問題なのは、短大と大学が異なる地域に位置するケースだ。短大に通っていた学生はその地域からいなくなり、学部が新設される大学の方へ人が流れてしまう。

國學院大學栃木短期大学も、都内にある國學院大學の系列だ。2校を運営している学校法人は異なるものの、それらが関係法人であることを踏まえると、短大の定員分が都内にある國學院大學に改組される可能性も否定はできない。

賃貸需要への影響は限定的か

では、短大の閉学は賃貸需要にどれほど影響を与えるのだろうか。

北関東を中心に物件を所有する中島亮さんは「周辺エリアへの影響はほとんどないだろう」としている。

「短大はもともと学生数が少ないですし、地元から通う学生の割合も高いです。一人暮らしの学生も確かにいますが、影響があるとしたら学校からすぐ近くのごく一部の物件に限られるでしょう」(中島さん)

短大に通う学生は、4年制大学に比べて地元出身の割合が高い傾向にある。國學院大學栃木短期大学も、今年5月時点で在学していた270名のうち、約54%にあたる146名が地元栃木県の出身だ。

國學院大學栃木短期大学「情報の公開」より編集部作成

栃木県内の不動産管理会社に勤める松下さん(仮名)も、「県外出身だが実家から通っている学生も多い」として賃貸需要はあまり変化しないと話す。

その一方で、地域経済は少なからずダメージを受けると指摘する。

「朝夕の時間帯は特に、駅と学校を行き来する短大生でバスがいっぱいになります。短大がなくなることで、公共交通機関や駅前の商業施設を利用する若者が大きく減少します。個人的には、賃貸需要より地域全体に与える影響の方が大きいのではないかと思います」(松下さん)

國學院大學栃木短期大学の最寄りである栃木駅(編集部撮影)

不動産オーナーにとって、短大の閉学は、それほど悲観視する必要はないのかもしれないが、今後のエリア市況を考えるにあたっては判断材料の1つにはなるのかもしれない。

閉学しそうな「危ない短大」はどう見抜く?

では、閉学となってしまいそうな短大を見極めるにはどうすればよいのか?

石渡氏は、「募集定員の充足率」(入学者数÷募集定員数)に注目すべきと話す。「80%を割る状態が続けばイエローゾーン(注意)、60%を割る状態が続けばレッドゾーン(危険)」との基準を示した。

80%と聞くと深刻な状態ではない印象を受けるが、これには国の「高等教育の修学支援新制度」が関わってくる。この制度は、一定の条件を満たした学生の進学を金銭面から支援するものだ。

対象の教育機関にも条件があり、直近3年度で定員充足率80%を超えている必要がある。ただでさえ選ばれにくくなった短大が、この制度の要件を満たさなくなることで、さらに学生獲得の機会を逃してしまう。

そのため、まず80%が1つの基準となるようだ。

また、石渡氏によれば、過去の事例では60%台あるいは60%を割り込むことが何年も続くと、学校法人の経営判断として募集停止を決めるところが多かったという。

物件購入を検討しているエリアの学校の入学者が募集定員の60%ほどだった場合は、近いうちにも閉学の可能性があると考えておいたほうが良いかもしれない。

今年2月に学生募集停止を発表した東京経営短期大学(PHOTO:佐藤信彦 / PIXTA)

一方、「公立の短大はしばらく安泰だろう」と石渡氏は言う。1990~2000年代にかけて、公立短大の4年制大学化が進んだ。その淘汰時代を経て残った15校ということで、簡単には閉学しないだろうと石渡氏は見ている。

さらに公立短大には、4年制の国公立大学への編入ルートがあるといい、入学希望者数の底堅さにつながっている側面もある。山形県立米沢女子短期大学を例に挙げると、2024年卒業生の70名以上が山形大学や筑波大学などの国公立大学へ編入を決めている。

石渡氏は、不動産オーナーに向けて「継続的に学生の入居が見込める学校なのか、立地や定員充足率、学校の特徴などからよく検討してほしい」と話した。

女性のキャリアの変化から、いま短大が窮地に立たされている。石渡氏は「今後も短大の募集停止は相次ぐだろう」と予想する。ニュースなどで見る短大閉学の動きも、氷山の一角に過ぎないのかもしれない。

賃貸物件の入居者層として短大生を想定していた場合、その短大が閉学となると入居付けに苦戦する可能性もある。学生向け物件を購入する際は、そのエリアの学校がどういった状況なのか、閉学や移転のリスクを抱えているのか、十分なリサーチが必要だ。

(楽待新聞編集部)