建築資材の価格高騰がピークアウトを迎えているようだ。
資材価格の高騰は、物件価格を引き上げる大きな要因で、投資を行う上で負担となる。資材価格が低下に転じれば、物件価格も上げ止まる可能性が大きく、投資へのインセンティブになるかもしれない。
建設資材物価指数の推移などから、現状を確認していく。
徐々に上昇圧力に弱まり
建設物価調査会の建設資材物価指数(2015年=100)によると、建築部門指数は8月時点で依然として上昇を続けている。(グラフ1)
しかし、東京の建築資材物価指数を見ると、木造一戸建住宅では「132」台での緩やかな上昇となっている。
RC・RSC造一戸建て住宅の指数も、1月の141.7から8月の144.8に上昇はしているものの、上昇ペースは2022年と比較すると緩やかなものとなっている。(グラフ2、3)
なお、2023年には一度大きく下落したが、その後、再び上昇している。
このように、2023年、2024年と続いた消費者物価の大幅な上昇、いわゆる物価高と同様に建築資材価格も2023年、2024年に大きく上昇した。
だが、消費者物価が2024年に入ると徐々に落ち着いてきたように、建築資材価格も上昇圧力が弱まってきているとみられる。
国土交通省の住宅着工統計で、新築一戸建の建築予定額を見ると、木造住宅は2024年1月に2224万円だったが、7月には2355万円にまで上昇している。しかし、6月の2384万円からは約30万円低下しており、予定額はピークを迎えたと言えそうだ。
一方、RC造住宅は、3月に6904万円だったのが、5月には4200万円に低下、7月には4943万円となっている。RC造の場合には、需要環境や建築する住宅の大きさなどによって建築予定額が大きく変動するため、一概には言えないが3月、4月で建築予定額はピークを付けたと見ることができそうだ。(グラフ4)
建築資材価格ピークアウトの要因は
建築資材価格の上昇がピークアウトを迎えていると考えられる理由の1つが企業物価指数(旧卸売物価指数、2020年=100)の上昇率鈍化にある。
日銀が発表した8月の企業物価指数は、前年同月比2.5%と8カ月ぶりに伸びが鈍化した。前月比では▲0.2%と10カ月ぶりのマイナスになっている。
8月の輸入物価指数は、契約通貨ベースでは前年比1.7%と3カ月連続のプラスとなった一方で、前月比では▲0.4%と2カ月連続のマイナス。円ベースでは前年比2.6%と7月の10.8%から大幅に鈍化し、前月比では▲6.1%と大幅なマイナスとなっている。(グラフ5)
この最大の要因は、為替相場の円高進行にある。円相場は8月、対ドルで前月比▲7.4%と急速に円高・ドル安が進んだ。
通常、貿易決済はドルで行われることが多い。このため、契約通貨ベースはドルだと考えても問題がない。契約通貨ベースでは、すでに輸入物価は高止まりしており、ほとんど上昇していない。しかし、これまでは為替円安進行により、円換算した場合には輸入物価が上昇するという動きとなっていた。
消費者物価も同様だが、価格の上昇には歯止めが掛かっているにもかかわらず、為替円安により輸入物価が上昇していることで、消費者物価指数が上昇するという状態だった。
これは、材木・木製品・林産物の輸入物価指数にも表れている。契約通貨ベースの指数はほぼ横ばい圏での動きが続いているのに対して、円ベースでは7月まで指数の上昇が続いた。
しかし、円高が進んだ8月には指数は大きく低下している。(グラフ6)
このように、建築資材についても、価格の上昇はほぼ終わっているのだが、円安だったことで資材価格の上昇が続いていた。だが、為替が円高傾向に転換したことで、資材価格の上昇もピークアウトの兆候が出ていると見られる。
ただ、懸念されるのは、建設物価価格調査会の建築費指数を見ると、上昇傾向が続いている点だ。東京の木造一戸建て住宅の工事原価は1月の134.0から8月には138.5に上昇、純工事費も135.7から140.0に上昇している。
同じくRC造の集合住宅も工事原価は1月の128.0から8月には132.3に、純工事費は129.1から133.4に上昇している。
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建築資材価格に上げ止まりの兆候が出ている一方で、工事費は人件費などの建築資材以外の要因により、まだ、上げ止まりの兆候は見えない。
このため、資材価格上げ止まりの影響が、今後、建築費の上げ止まりのどのように影響していくのかを見ていく必要がありそうだ。
(鷲尾香一)
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