とにかく家を安く買いたい! こんなとき、あなたならどんな方法で家を探しますか?
不動産会社に相談する? 売れ残り物件を探す? ちょうどよく空き家に困っている親戚がいれば、譲ってもらえるかも…?
やり方はさまざまですが、そのひとつが「不動産競売」という家のオークションに参加する方法です。いったい、どんなものなのでしょうか。
不動産競売は、実は非常にクセのある取引です。格安物件発掘のチャンスもありますが、ひとつ間違えれば、痛い目を見るリスクも満載です。
身一つで不動産競売に挑んだ漫画家×不動産に強い熟練弁護士のタッグでお送りする競売実録漫画、『競売物語』第2話です。
【登場人物】
本作のあいづち役。北海道弁がチャームポイント
※弁護士注:競売物件の代金支払いは現金一括納付で行われることが多いと思われますが、法的には融資の活用も認められています
阿部弁護士のひとこと解説
丸の内ソレイユ法律事務所の弁護士、阿部栄一郎です。これまでに不動産トラブルを数多く担当してきました。『競売物語』に関連して、競売にまつわる豆知識や、私の元に寄せられたトラブル事例などをご紹介します。
■実はローンが使える? でも…
1998年12月16日施行の民事執行法によって、融資を受けて競売物件を買えるようになりました(民事執行法82条2項)。
ただし、通常の売買契約におけるローンとは異なり、スケジュールも厳格なものとなります。
買受人(競売物件の買い手のことをこのように呼びます)、融資をする金融機関、登記手続に関わる司法書士などの関与者が不慣れだと、融資手続がスムーズに進まないと思われます。
『競売物語』でものちのち出てきますが、買受人は、入札時に保証金を裁判所に収めることになっています。金額は、不動産鑑定士が競売物件を評価した金額の2割です。
融資手続がうまくいかずに物件購入をキャンセルすることになると、この保証金は没収されてしまいます。
このようなリスクもありますので、現状は、まだ現金一括納付で買う方が多いのではないでしょうか。
■「競売」はこうして始まる
不動産競売が始まる原因は、実は2つあります。
1. 担保不動産競売
本編で紹介されている、物件を担保にした「借金のカタ」で始まる競売です。不動産競売の大半が担保不動産競売です。
住宅ローンなどが滞った場合に、金融機関や保証会社などの債権者が、債権回収のために担保不動産競売を申し立てます。
2. 強制競売
比較的レアな競売です。正しく説明すると「債務名義」と呼ばれる書面がきっかけで始まる競売、となるのですが、専門的な話になりますので、順を追って説明します。
「債務名義」とは、強制執行をするために必要となる、公的機関が発行した公的書面のことをいいます。債務名義を持っている債権者が、債務者の所有している不動産から債権を回収するために申し立てるのが強制競売です。
とはいえ、競売に馴染みがない方にとってはイメージしづらいと思います。具体例をもとに考えてみましょう。ここでは、「離婚訴訟」を例にとってお話しします。
ある夫婦が離婚訴訟の結果、「夫が妻に対して1000万円の財産分与をする」として和解し、離婚が成立したとします。しかし、いざとなると元夫が財産分与に応じず、なかなか元妻に1000万円を支払いません。
このようなとき、元妻(債権者)は、元夫(債務者)の持っているマンションに対して強制競売の申立てをできるケースがあります。マンションを強制的に現金化し、1000万円を回収しようということです。
裁判所では、競売1件ごとに事件番号がつけられます。担保不動産競売は(ケ)、強制競売は(ヌ)で始まりますので、見分けることができます。根本先生が買った物件は(ケ)だったということです。
(漫画:根本尚、監修/解説:弁護士 阿部栄一郎)
根本 尚/漫画家(X)
『プリンセス』(秋田書店)で連載中。 『怪奇探偵・写楽炎』(文藝春秋) 『現代怪奇絵巻』(秋田書店・週刊少年チャンピオン)、 『恐怖博士の研究室』(同・ミステリーボニータ)他。 同人サークル名、札幌の六畳一間。 北海道ミステリークロスマッチ会員。北海道の自宅を競売で取得した。
阿部 栄一郎/弁護士
2007年東京弁護士会登録。不動産オーナーや大家さんのサポートを中心に、不動産に関する問題の解決実績多数。賃貸借契約にまつわる建物明け渡しや賃料の回収、原状回復から不動産の売買契約等まで幅広い案件を担当しているほか、不動産関連のイベントや相談会などにも積極的に参加。不動産専門紙への寄稿も行っている。
『競売物語』作者の漫画家。北海道の自宅を競売で買った