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法改正によって、2025年以降、不動産会社の「囲い込み」をめぐり、実質的に規制強化がなされる。

囲い込みとは、特定の不動産会社が顧客や物件情報を独占的に管理することで、他社との情報共有をせずに物件を囲い込んでしまうこと。

売却の依頼者の機会損失につながったり、不動産取引の透明性を損なったりする可能性があり、囲い込み行為は以前から問題視されていた。

なぜ不動産業界で囲い込みが行われてしまうのか。今回は、大手不動産会社でトップセールスの経験を持ち、現在は行政書士としても活躍する棚田健大郎氏に、囲い込みの実態や法改正の内容を解説してもらった。

不動産業界で横行、「囲い込み」の実態

まず、「囲い込み」行為にどんな問題点があるのか。棚田氏のもとに届いた、囲い込みに関する相談を踏まえて整理しよう。

●相談
私は、ある不動産会社に勤務する事務員です。専任媒介契約を交わした案件で、本来は7日以内にレインズ(不動産流通機構)に登録しなければならないところ、営業担当者から「まだレインズには登録しないで」と言われます。これはいったいなぜでしょうか?

棚田氏によると、不動産業界の現場では実際にこのようなことが横行しているという。レインズへの登録義務を怠った場合、行政処分などを受ける可能性もある中で、なぜ囲い込みは行われるのか。

それは、両手仲介(両手媒介)を狙っているため。棚田氏は「専任媒介契約や専属専任媒介契約を交わした不動産会社は、まず最初に、売主と買主の双方から仲介手数料を受け取ることを考える」と話す。

レインズは不動産会社が閲覧できるデータベースであるため、問い合わせてくるのは基本的に買主側の仲介業者となる。

これでは成約となった場合でも片手の仲介手数料しか得られない、ということで囲い込みが行われるのだ。

また、買主に業者が多いケースでは、コンサル料を狙って囲い込みをする場合も。専任媒介契約を交わした以上の査定額が出た時に、仲介手数料を差し引いて余る分を、コンサル料などの名目で徴収しようとする不動産会社も存在するのだという。

棚田氏は、「レインズに登録すると契約金額がわかるため、それ以上の査定額となることは基本的にありません。そのため、囲い込みをする不動産会社は契約金額を伏せたまま査定を依頼するんです」と解説する。

登録義務の起算点を変更する不正行為も

物件情報を規定の日数以内にレインズへ登録しない行為は、言うまでもなく宅建業法違反にあたる。ここで、不動産会社と結ぶ3つの媒介(仲介)契約について、改めておさらいしよう。

■一般媒介契約

一般媒介契約は、依頼者が複数の宅建業者に仲介を依頼できる契約のこと。レインズへの登録義務もなく、依頼者への定期的な報告義務もないため、「最も縛りがゆるい」と棚田氏は言う。

■専任媒介契約

専任媒介契約は、依頼者が複数の宅建業者に仲介を依頼できない契約のこと。この契約を結ぶと、不動産会社は7日以内にレインズへ物件情報を登録する必要があり、依頼者への定期報告も義務付けられる。

■専属専任媒介契約

専属専任媒介契約も、依頼者が複数の宅建業者に仲介を依頼できない契約だ。この契約では、5日以内のレインズへの登録、および7日に1回以上の頻度で依頼者へ定期報告することが義務付けられている。また、自己発見取引(売主が自分で買主を見つけてくること)もできない。

つまり、先述の専任媒介契約の例で、7日以内にレインズへ登録しない行為は宅建業法違反となる可能性が高い。

それにも関わらず、なぜこのような行為がまかり通っているのだろうか。不動産業界での実務経験も豊富な棚田氏は、次のように語る。

「専任媒介契約は対面の説明が不要で、郵送で契約書を交わすことが多いです。このとき、書類の日付を空白のまま、依頼者の署名・捺印だけもらって送り返してもらう。これで不動産会社は都合の良い日付を記入でき、登録義務の起算点を調整できてしまいます」

中には、日付欄に「×」を書いてから郵送する業者もいるようだ。目先の利益を優先してしまう、不動産会社の不正な行為と言えるが、依頼者が登録義務などのルールを知らないことも一因になっている。

ちなみに過去の宅地建物取引士資格試験(宅建試験)では、以下のような問題が出題された。

●問題
宅地取引業者A社がBから自己所有の宅地の売買の媒介を依頼された場合、宅地建物取引業法の規定によれば、次の記述は正しいか。

「A社は、Bとの間で専任媒介契約を締結したときは、Bからの申し出があれば所定の事項をレインズに登録しない旨の特約を定めることができる」

宅建業法の規定に反する特約は無効だ。したがって答えはバツとなり、仮に顧客Bからの申し出があったとしても、業者はレインズへの登録をしなければならない。

売り主にはどんなデメリットがある?

不動産会社によって囲い込みが行われると、物件を預けた売り主にはどのような不利益があるのか。棚田氏は次の2点を指摘する。

1つは「依頼者の機会損失」につながってしまう点だ。複数の不動産会社が競合しなくなるため、相場よりも安い価格での成約となってしまう可能性がある。

また、物件に関する正確な情報を入手しづらいなど、「不動産取引の透明性が損なわれる」ことも問題点の1つだ。特定の不動産会社だけに仲介を任せる形になるため、売却が遅れてしまうリスクもある。

悪質な行為が横行している影響で、法改正によって、2025年からは囲い込み行為を防ぐため、規制が強化される。

新たな規制では、特定の不動産会社による独占的な取引や情報制限に罰則が設けられる可能性がある。

具体的には、他の不動産会社への情報開示の拒否、物件情報の共有を制限する契約などがその対象とされている。

では、不動産投資家が売却を依頼する際、どのような点に注意すれば良いのだろうか。棚田氏は自身の経験をもとに下記2点を挙げた。

(1)レインズへの登録証明書をすぐにもらう

媒介契約の後、登録証明書をなかなか送ってこない宅建業者は、物件情報をレインズに登録していない可能性がある。

また、不動産会社による不正を防止するためにも、媒介契約書に署名・捺印をする際には日付を記入する必要がある。

レインズに登録すると他社にも情報が公開され、囲い込みの抑止につながる。いつまでも登録されないような事態を防ぐために、売主側から登録証明書をきちんと求めることが重要だ。

(2)自分から積極的に状況を問い合わせる

棚田氏は、目安として週に1回程度の連絡を推奨している。募集状況を細かくヒアリングし、業者にプレッシャーをかけるのだ。

不動産会社も、依頼者が宅建業法に詳しいと分かると、安易な囲い込みを控えるようになるという。

「囲い込みを誘発する原因は、依頼者が甘く見られていることです。完全に不動産会社任せにしていると、いつの間にか囲い込みをされているケースが往々にしてあります」と棚田氏は話す。

売主はしっかりと当事者意識を持ち、自ら情報収集や状況確認をするべきだろう。

(楽待新聞編集部)