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葛飾・足立の両区をメインエリアとして、新築分譲住宅5000棟以上の販売実績を誇ったガクエン住宅(東京都葛飾区)など2社が、9月10日に東京地裁より破産手続き開始決定を受けた。

負債総額は2社合計で約54億3300万円にのぼり、ハウスビルダーとして今年最大規模の倒産となった。ラッピングバスを利用した広告等で一定の知名度を誇ったが、積極的な事業展開はなぜ、つまずいたのか―。

葛飾区などでシェアトップクラスに成長

ガクエン住宅は、1984年(昭和59年)1月に設立された戸建住宅販売業者。戸建住宅の販売を中心に建築条件付き宅地販売や中古マンションの販売、注文住宅の請負なども手がけていた。

本社のほか綾瀬支店を構え、葛飾区、足立区、江戸川区においてトップクラスの分譲業者に成長。とくに本社のある葛飾区水元地区では同社が手がけた住宅のシェアが最も高く、相応のブランド力を誇った。

販売価格帯は3000万円前後の物件を多く扱い、自社営業による販売に注力していた。

東京都葛飾区のガクエン住宅本社(帝国データバンク撮影)

関連会社のコスモ建設(本社同所)は、1986年(昭和61年)3月にガクエン住宅の工事部門が独立して設立された。

主な商流としては、ガクエン住宅が一括でコスモ建設に発注し、さらにコスモ建設が物件ごとに工務店等に下請け工事を発注するというものだった。

社訓は「3倍働き、3倍奉仕する」

ガクエン住宅グループは設立以来、「3倍働き、3倍奉仕する」をモットーに積極的な経営を展開していた。2002年4月には現在の本社となる新社屋ビルを竣工し、2002年5月期には年売上高約92億1900万円を計上した。

しかし、その後はリーマン・ショックによる不動産市況の低迷に加え、同業他社との競合により受注は下降傾向で推移し、2018年5月期の年売上高は約49億600万円に落ち込んでいた。

コロナ禍では一時的に営業活動が停滞を余儀なくされ、2020年には新築分譲住宅の供給数5000棟を達成していたが、物件不足にともなう不動産価格の高騰もあって土地仕入が難航するなど販売戸数が減少していた。

近年は、下請け企業に対する支払ぶりも悪化。協力会社に依頼していた追加工事分の支払いを渋るなど、取引先の間で警戒感が高まっていた。

2024年5月期の年売上高は約35億9500万円に落ち込み、損益面も粗利段階からすべて赤字を計上。それまでなんとか黒字決算を続けていたが、同期の当期純損失は約5億9300万円にまで膨らんでいた。

創業者の死去で求心力低下

この間、4月には営業面、資金繰り面を一手に担っていた創業者である会長が死去。会社全体の求心力を失った影響は大きく、対外的な信用も低下した。

ついには業況改善ができないまま事業の継続が困難となり、9月2日付で事業を停止し、7日付で従業員を解雇。3日後の10日には、関係会社のコスモ建設とともに東京地裁へ破産を申請し、同日破産手続き開始決定が下りた。

負債総額は2社合計で約54億3300万円にのぼった。ガクエン住宅の金融債務だけで約25億円に達し、債権者には地元の信用金庫や地銀・第二地銀など10以上の金融機関が名を連ねた。

特筆すべきは一般債権の数と金額だろう。申請時点で債権者42名に対し15億7700万円を数え、最後まで取引関係を維持してきた下請企業への影響も小さくなかった。

「一生に一度の大きな買い物」といわれるマイホームを夢見て、ガクエン住宅に発注した一般顧客もまた、今回の破産事件に意図せず巻き込まれた被害者といえる。「仕掛物件一覧」を見ると、前受金や手付金、中間金などを会社に対し、すでに支払った一般顧客は10数件にのぼった。

資材高騰や後継者難、倒産に歯止めかからず

ガクエン住宅の破産を振り返ると、「事業承継の難しさ」という多くの中小企業が今まさに直面している経営課題も浮かび上がる。

同社破産時の代表は、以前から入社していたものの、2022年1月代表に就任したばかりだった。創業者で筆頭株主でもあった父親とともに代表を務めていたが、実権は引き続き父親が握っていたようだ。

その父親が体調を崩した時期とコロナ禍が重なったこともあり、業績悪化に歯止めをかけられなかった。

帝国データバンクの調査で、後継者への事業承継問題に端を発して行き詰まった「後継者難倒産」は、2024年度上半期(4~9月)に239件発生。上半期としては3年ぶりに前年同期を下回ったものの、高水準が続いた。

ガクエン住宅の場合、後継者がいなかったわけではないが、いま思えば、コロナ禍での事業承継のタイミングや準備に難しさがあったのだろう。

足元の取材活動において、各地の「ハウスビルダー」や「工務店」に関する問い合わせが最近増えている。

建築資材の高騰、人手不足、住宅需要の減速感などを背景に、一定の知名度のある企業への照会も少なくない。

倒産増加も続いている。2024年度上半期の「建設業」全体の倒産は921件を数え、年ベースで1800件超えは確実な状況である。

各金融機関がこれまで以上に企業を見る目が厳しくなるのは明らかであり、「金利のある世界」が戻ってきたなかで、金融機関の選別からふるい落とされる企業もこれから一定数出てくるに違いない。

(帝国データバンク情報統括部・内藤修)