PHOTO:K@Zuta/PIXTA

不動産業に長く携わっていると感じるのが、「不動産は社会生活を営むための重要なインフラである」ということだ。

人は暮らすために家を確保し、多くの勤労者は働くためにオフィスというハコの中で勤務する。商業施設で買い物をし、飲食を楽しみ、ホテルに滞在し、寛ぐ。

そして街の経済が発展し、地価が上昇するには「一定の法則」があることに気付かされる。街というプラットフォームで人の出入りが多い街ほど活気が生まれ、不動産が活発に動き、結果として地価が上昇するということだ。

街の価値を「新陳代謝」で見る

街にやってくる人が多いと、住宅の売買、賃貸借が活発になる。転入してきた人は街を探検し、たくさん買い物をする。

飲食店に顔を出し、お気に入りの店を見定める。街を出ていく人が多ければ、人の入れ替わりが起こり、家を売る、貸し出すことが増える。地元で商売を営む商店主は、新規顧客を掴もうと新しいトレンドに敏感になる。

これを私は「街の新陳代謝」と呼んでいる。一定数の人が常に「入れ替わる」状態にある街は、経済が成長し、結果として地価、資産価値が上がるのだ。

不動産を購入・投資する場合、多くの人は建物の立派さなどに目を奪われがちだが、重要なのはそこではない。建物が位置する街で人の出入り=新陳代謝が活発であるかどうかが重要だ。

そこで以降では、首都圏(1都3県)における街の新陳代謝状況と地価の変動率について、主要な街で比較を行っていくことにする。


■分析方法
分析にあたっては、各市町村別に転入者と転出者の合計を新陳代謝数とし、2023年中の数値を集計、23年1月1日の人口に対し、どれだけの新陳代謝が行われたかを代謝率とした。また公示地価は各自治体の平均値(住宅地、商業地を含む全用途の平均)で変動率と1平米当たりの単価(千円単位)で示した。


1.「千葉県」の資産価値が上がる街、下がる街

千葉県内で資産価値の上昇が期待できる街としては、「浦安」「市川」「船橋」の3つがあがる。

いずれも代謝率が10%を超えている。つまり、街の人口の1割相当が入れ替わり、地価は平均で7.8%から11.8%の高い伸びを示している。

市川駅周辺(PHOTO:node/PIXTA)

以前からこの街に住む人たちは「千葉都民」などと言われてきたが、交通利便性の良さに対する評価は変わらずに高いことが示されている。

さらに、人気のつくばエクスプレス沿線の「柏」「流山」も代謝率が10%程度である。こちらも地価は7%台の上昇で、人口も順調に増加していることがわかる。地価水準そのものも浦安、市川、船橋などよりも割安の点も人気だ。

一方、元気がないのが、かつての通勤圏だった四街道や佐倉だ。JR総武本線沿線で、昭和から平成にかけては東京に通う通勤客に人気のニュータウンだった。

しかし、夫婦共働きで都心にある会社へのアクセスが重視されるようになった現在では、都心に通うのにゆうに1時間以上かかることなどが敬遠され、代謝率も7%から8%、人の出入りは少なく、地価上昇率も1%台と上記5市との差は歴然だ。

また県庁所在地である千葉市内は、いずれも代謝率10%から11%と人の出入りは活発なものの、東京への通勤では上記5市に劣後するためか小幅にとどまっている。

かつては観光地、別荘地として人気を博した館山、勝浦、鴨川といった半島の街は厳しい状況だ。

鴨川はシーワールドや亀田総合病院などの街として有名。代謝率も10.9%を示しているが、地価上昇はほとんど見られず、人口も減少傾向になっている。

このようにみると千葉県内での不動産投資に適当な街は、成長性の高い浦安、市川、船橋、柏、流山、この5つの街で決まりだ。

2.埼玉県の資産価値が上がる街、下がる街

埼玉県はさいたま市大宮区、浦和区の安定ぶりが目立つ。代謝率は高く地価は順調に値上がりし、人口増の状態にある。他では急成長をしているのが川口と蕨だ。いずれも京浜東北線沿線で浦和や大宮よりも東京に近いことが成長の原動力になっている。

大宮駅周辺(PHOTO:yama/PIXTA)

蕨駅西口ではタワーマンションが開発されており近年人気が高まっている。また川口は上野東京ラインの停車が決定し、東京への利便性はこれまで以上に高まる。

人気の京浜東北線だが、大宮以北の高崎線沿線となるとおもわしくない。上尾、桶川、北本はいずれも代謝率が低くなり地価は伸びず、人口は減少傾向にある。宇都宮線沿線でも白岡で代謝率は8.6%。地価もほとんど上がっていない。背景はニュータウンのオールド化だ。

東武東上線はどうだろうか。朝霞、和光はねらい目だ。東京メトロにも乗り入れ、交通利便性は高い。代謝率が高く和光は18%台。地価上昇率は3.8%台。この2つの街は自衛隊の基地があるため代謝率が高いともいえるが、不動産価格は都心に近い割にリーズナブルだ。

だが東武東上線も北に向かうにしたがって代謝率が落ちてくる。高坂駅のある鳩山町には鳩山ニュータウンという1980年代に大変脚光を浴び、数々の街並み景観賞を受賞した街があるが、この街は代謝率が5.3%。やはりニュータウンが広がる小川町とともに地価は下落傾向にある。住民の高齢化に伴い人口減少が続く街だ。

東武伊勢崎線沿線に目を移す。比較的都心にアクセスしやすい越谷や春日部だが代謝率は7%から8%と低位。地価上昇は鈍く人口減が続く。さらに北に向かい加須になると地価は下落に転じている。

西武線沿線も元気がない。所沢で代謝率は8.8%、地価は2.58%の上昇を示すが、人口は減少傾向。飯能、秩父に入ると代謝率は下がり、地価は反応しない。

埼玉県内での不動産投資はJR沿線の大宮以南および東武東上線は志木あたりまで。伊勢崎線は越谷まで。西武線は所沢でもやや不安といったところだ。このラインより北はおすすめできない。

3.神奈川県の資産価値が上がる街、下がる街

横浜は「住みたい街ランキング」の上位常連だが、メッシュを細かくしてみると、資産価値上昇を期待できるのは市の中央と北部に限定される。

具体的には、みなとみらいのある中区、オフィス街が広がる西区、都心に近い神奈川区、港北区は代謝率が高く、地価の上昇が顕著だ。

みなとみらいのある中区(PHOTO:ABC/PIXTA)

一方、かつて人気だったニュータウンが広がる西部、南部はパッとしない。戸塚区、泉区、金沢区などの南部はすでに人口減少が始まっていて、ニュータウンが多いせいか代謝率が低く、地価上昇も限定的だ。

同様なことが西部の旭区や瀬谷区などで当てはまる。東急田園都市線を代表する街、たまプラーザを擁する青葉区は代謝率こそ10%台で活発なものの、地価上昇率は低く、人口減少が目立つようになっている。街のオールド化が懸念される。

川崎市は8万人の転入者と7万5000人の転出者が行き交う「新陳代謝の街」として有名だが、筆頭の武蔵小杉タワマン街を擁する中原区、隣接する高津区などは代謝が活発で人口も増加している。

一方で新百合ヶ丘などの昭和時代のニュータウンが広がる麻生区などは代謝率が落ち、人口減少が始まっている。

湘南方面はどうだろうか。東海道沿線は藤沢、茅ケ崎が元気。代謝率は高くはないものの、湘南ブランドを求める人は多く、地価は高水準を維持している。相模川を渡り平塚を過ぎると状況は一変。かつて政治家や文豪が邸宅を構えた大磯、二宮から小田原にかけて代謝率は落ち、地価も上がっていない。真鶴にまでくると地価は下落している。


また鎌倉、逗子、葉山も湘南エリアと同様、一定のブランド力を形成して地価は上昇傾向にある。この湘南エリアおよび逗子、鎌倉は街、地域としてのブランド価値が定着していて、代謝が低くても常に一定の人気を誇るエリアとして不動産価値を向上させているのである。

問題があるのが三浦半島だ。横須賀は人口減少が止まらず、地価上昇も弱い。三浦になると代謝率が極端に落ち、不動産が動いていないさまが鮮明だ。

県央部は活発だ。厚木、海老名、大和といった街では代謝率は9%台、地価上昇率も4%から5%と順調な伸びを示している。湘南エリアよりも地価が低めなのもお手頃だ。

神奈川県では横浜で資産価値に期待するなら中心部か北部。川崎は武蔵小杉一点買い。湘南は茅ケ崎、せいぜい平塚まで。三浦半島は厳しい。県央部は穴場といえよう。

4.東京都の資産価値が上がる街、下がる街

最後に東京都を見てみよう。都心部については代謝率が高く、地価上昇が顕著なのはあたりまえなので特にコメントはいらないだろう。

面白いのが、インバウンドなどが集まる台東区や豊島区で、人が活発に出入りしていることだ。地価上昇率も都心5区を凌駕している。人口増加も目立つ。

これが北東部の足立区、葛飾区、江戸川区になると途端に代謝率が落ち、地価上昇も都心に比べて緩やかになる。人口は伸びているので資産価値上昇は期待できるものの、相対的な劣後感は否めないところだ。

市部はどうだろうか。「住みたい街ランキング」常連の吉祥寺がある武蔵野市は、代謝率13.3%。地価も上がっているが、住民の高齢化もあるのだろう。人口がわずかだが減少している。

吉祥寺は住みたい街ランキングの常連(PHOTO:gandhi/PIXTA)

国分寺や立川も元気だ。代謝もよく地価は4%台の伸びだ。昨今マンション取り壊し問題で話題の国立も見てみよう。代謝率は変わらないものの、地価上昇率が3.37%と、国立を挟む国分寺、立川の水準よりも一段落ちている。事件前の数値とはいえ、開発が難しい土地柄として国立は有名。数字は正直だ。

中央線をさらに西に行くと、日野を過ぎて八王子あたりが限界だ。代謝率は8%に落ち込み、人口減少が顕著だ。青梅になると代謝率は6.9%。地価上昇を期待するのは難しいだろう。

市部のなかでも意外なのが町田だ。代謝が弱く、地価上昇も2%にとどまる。人口も減少している。多摩方面も厳しい。武蔵村山や東大和といった、都心までかなりの通勤時間を要する街になると代謝率も落ち、地価は反応しない。五日市線あきる野になると代謝率は6.9%。限界である。

東京は都区内が安定していて資産性が保てるエリアは広いが、できれば下町よりも山の手を選びたい。湾岸部のタワマンは武蔵小杉と同様に考えてよいが、長期保有せず、マーケットをにらみながらの早めの出口を探す投資金融商品と割り切ればよい。

市部は立川あたりまでが安定しているが、さらに西は八王子が限界ラインとみる。多摩方面や立川から北も厳しい。東京はとにかく東西に広い。あまり西に行き過ぎないことだ。

人を集め続けている東京ですら、2030年以降はその吸収力が弱まり、人口減少に転じていくという。東京を取り囲む3県はすでにこの問題に直面し始めている。

だが人はエリア、街に満遍なく均等に住んでいるわけでも、移動をしているわけでもない。人の新陳代謝が活発な街であるかどうかが、投資における目の付けどころである。ぜひご参考にしていただければと思う。

(牧野知弘)