「両親の家なんですけど、2人とも亡くなって。思い出の詰まった家ですが、この際、建物を処分して区切りを付けようかなと思っています」

大阪市内のとある住宅。60代の兄弟は、最近まで母親が住んでいた築約60年の実家の取り壊しを決意、中に残った家具などの処分を、清掃会社に依頼することにした。

近年、このような実家の「家じまい」が増えているという。実際、現場ではどのような作業が行われるのか。不要品の改修や遺品整理などを請け負っている会社に密着取材した。

「自分たちの代で区切りを」

現場は大阪市内にある、やや小ぶりな2階建て戸建住宅。

土地は父親の代から借りている借地で、固定資産税と合わせて月々数万円程度の負担になっていた。

今回密着した作業現場。築60年ほどの2階建て住宅

依頼主の兄弟は、現在は別の場所でそれぞれ生活している。土地の所有者はすぐ隣に住んでいたが、すでに亡くなっている。また、建物は築年数が経っており、途中で2階部分を増築したこともあり、耐震性も十分とは言えない状態だった。そのような経緯もあり、取り壊すことを決めた。

整理前の室内。父が数年前に亡くなってから、今年の8月まで母が暮らしていた

「(自分たちの)子供の代まで残しておくと、あとあとややこしいことになりますから。ここでいったんキレイに整理すれば、亡くなった両親も喜んでくれるんじゃないかな」(依頼主)

この現場の清掃依頼を受けた、遺品整理や不用品回収を手がける清掃会社「イーブイ」の二見文直社長によれば、今回のような実家の片付け依頼が増えているのだという。

「イーブイ」の二見文直社長

ゴミ処理の方法は年々複雑化しており、費用も高騰している。そういった背景もあり、一般家庭では処理が難しい大量の家財道具を、専門業者に依頼するケースが増えているそうだ。同社の場合、遺品整理の依頼が全体の30~40%を占めるという。

「リサイクル」で費用削減

この日は8人のスタッフが作業に当たった。朝から現場入りし、お昼頃までには作業を完了させる予定だ。その後、それぞれのスタッフはまた別の現場に移動するのだという。

玄関の建具を外し、室内へ。大きなものから順に片付けていき、作業スペースを確保していく。この日は、介護ベッドの解体から始まった。スタッフたちは手際よく家具を運び出し、出てきた品々を丁寧に仕分けていく。

この会社では、リサイクルできるものはなるべくリサイクルし、処理費用を抑えているという。

「正直、すべてをゴミとして処分すれば楽なのですが、その分だけ処分料金が高くなってしまいます。パッカー車(収集車)の台数を余分に手配する必要が出てきますから」(二見さん)

リサイクルの対象にならないものは、パッカー車で回収し廃棄処分される

室内の細かい品物も整理する。リサイクルが可能なものはリサイクルに回していくが、一見価値がありそうに見えても、処分せざるを得ないものもあるという。

「例えば着物の場合、柄物は小物へのリメイクなど再利用の可能性がありますが、黒や白などの無地のものはそれが難しい。実家で着物が出てきた時、黒と白は迷わず処分して構いません」(二見さん)

遺品整理、適正価格は…?

遺品整理に適正価格はあるのだろうか。二見社長によると、会社によって方針が異なり、何が適正かという判断は簡単ではないという。

ただそうした中でも、やはり複数の業者から見積もりを取ることが重要だと二見さんは説明する。

無料見積もりは当たり前のサービスであり、見積書を提示しない業者は論外。見積もり時の対応や説明の丁寧さも、実際の作業の質を判断する重要な指標となる。

ただし、極端に安い見積もりには注意が必要だ。追加料金が発生したり、ずさんな作業で物品が破損したりするリスクもある。

今回の現場は、清掃費用は30万円ほど。リサイクルを活用して、パッカー車の台数を抑えているため、比較的安い金額で対応できるのだという。

「心置きなく解体できる」

作業が始まって約3時間。たくさんあった家財もほとんどが運び出され、部屋の全体が見えるように。

すべての家財が運び出され、部屋の全体が見渡せるように

建物はこの後、1カ月ほどかけて解体される予定だ。解体費用の見積もりは、約170万円。今回の回収費用と合わせると200万円ほどの出費になる。

「去年見積もりを取ったときは130万円ぐらいでした。もう使わないものを処分するために200万円というのは、正直痛い出費だなとは思います」と依頼主。

しかし、すっかり片付いた室内を見て、安堵の表情を浮かべていた。

「すごく綺麗にしていただいて。これで心置きなく解体もできます。ありがとうございます」

相続した実家の「負動産」化などがしばしば話題になる中、こうした清掃、遺品整理の仕事は重要さをましていくかもしれない。しかし、現場によっては環境も厳しく、過酷な作業になる。

二見さんはそれでも、「こんなにありがたい仕事はない」と話す。

「仕事を終えると、『本当に助かりました』とか『ありがとうございます』って、たくさん感謝の言葉をいただけるんです。お金をいただきながらこんなに感謝していただけるって、こういう仕事はそうそうないですよね」と笑顔を見せる。

「人生で2、3回しか使わない業者かもしれませんが、1回目の経験が良ければ、引越し時の不用品処分など、別の機会にも声をかけていただけます。そういう仕事を、これからもしていきたいですね」

(楽待新聞編集部)

取材協力:イーブイ(YouTubeはこちら