物件で自殺や事件などが起きた場合、「事故物件」として告知しなくてはならないことがあります。この「告知事項」の範囲や対象などをまとめたものが、国土交通省による「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」です。
2024年度の宅建試験でも、問42でこのガイドラインからの出題がありました。正答率は高いと思われ、ケアレスミスが許されない問題だったといえます。
なお、2023年度の賃貸不動産経営管理士試験の問40でも同ガイドラインは出題されており、不動産業界において重視されている内容であるといえます。
では、ガイドラインでは自殺や事件など、物件で起きた「人の死」について、どのように入居者や買い主に伝える必要があるとしているのでしょうか? 今回は、ガイドラインの内容をおさらいしていきましょう。
ガイドラインで示された2つのポイント
「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)が策定されたのは、2021年10月です。
それまでは、不動産取引にあたって、過去に「人の死」が生じた取引対象の不動産があった場合、宅建業者による適切な調査や告知に関して明確な判断基準がありませんでした。
そのため、取引現場の判断が難しく、これが円滑な流通や、安心できる取引が阻害されているとの指摘がありました。
そこで、国土交通省はガイドラインを策定したのです。
ここで、2つの観点からポイントを整理してみます。
○宅建業者による物件調査について
宅建業者が媒介を行う場合、売主や貸主に対し、告知書などに過去に生じた事案についての記載を求める必要があります。これをもって、媒介活動に伴う通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとされます。
原則として、自ら周辺住民に聞き込みを行ったり、インターネットサイトを調査したりといった自発的な調査を行う義務まではありません。
仮に調査を行う場合、亡くなった方やその遺族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮し、特に慎重な対応が必要だとされています。
また、宅建業者は、売主や貸主による告知書などへの記載が適切に行われるよう必要に応じて助言を行います。この時、売主や貸主に対し、事案の存在について故意に告知しなかった場合などには、民事上の責任を問われる可能性がある旨をあらかじめ伝えることが望ましいとしています。
告知書などにより、売主・貸主からの告知がない場合であっても、人の死に関する事案の存在を疑う事情があるときは、売主・貸主に確認する必要があります。
○告知の期間・対象について
ガイドライン上、原則として、「宅建業者は、人の死に関する事案が、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合には、これを告げなければならない」とされています。
ただし、これには以下のように多くの例外があります。
1.賃貸借または売買の対象不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など)。事案発覚からの経過期間の定めはありません。
2.賃貸借の対象不動産や日常生活において、通常使用する必要がある集合住宅の共用部分で発生した1以外の死、または特殊清掃などが行われた1の死が発生し、事案発生(特殊清掃などが行われた場合は発覚)からおおむね3年間が経過した後。この場合は賃貸借だけで売買の場合は3年間という制限はありません。
3.賃貸借または売買の対象不動産の隣接住戸、日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分で発生した1以外の死または特殊清掃等が行われた1の死。事案発覚からの経過期間の定めはありません。
ちなみに、対象となる不動産は居住用に限定されます。
一方、例外の例外もあるので、この点には注意です。
たとえば、告げなくてもよいとした上記2や3の場合でも、事件性、周知性、社会に与えた影響などが特に高い事案は告げる必要があります。
また、人の死の発覚から経過した期間や死因に関わらず、買主・借主から事案の有無について問われた場合や、社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合などは告げる必要があります。
そして、告げる場合は、事案の発生時期(特殊清掃等が行われた場合は発覚時期)、場所、死因及び特殊清掃等が行われた場合はその旨を告げます。
事故物件を告知しない場合は誰が責任を負うの?
では、こうした「告げるべき事項」を万が一宅建業者が告げなかった場合、どのような処分が下されるのでしょうか?
宅建業法上、宅建業者は、宅地建物の売買、交換もしくは貸借の契約の締結についての勧誘、またはその契約の申込みの撤回もしくは解除、もしくは宅建業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、「一定の重要な事項」について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為をしてはなりません(宅建業法47条1号)。
「一定の重要な事項」とは以下のものをいいます。
1. 重要事項説明(法35条)の対象となる事項
2. 供託所等に関する説明事項
3. 37条書面(売買・交換・貸借の契約書)に記載すべき事項
4. その他、宅地建物の所在、規模、形質、現在もしくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額もしくは支払方法その他の取引条件またはその宅建業者もしくは取引の関係者の資力もしくは信用に関する事項であって、その相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの
※1〜3に掲げる事項については、故意による事実不告知・不実告知があれば、相手方などの判断に重要な影響を及ぼすこととなるかどうかにかかわらず処罰されます。
上記に違反した宅建業者は、業務停止処分などの監督処分を受けるだけでなく、刑事罰として2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処せられ、またはこれが併科されます。法人の場合は1億円以下の罰金が科せられます。
もちろん、債務不履行または不法行為による損害賠償責任という民事上の責任も負います(東京地判昭和58年6月13日、東京地判平成11年2月25日、松山地判平成10年5月11日等)。
しかし、こうした責任をオーナーが負う場合もありますので、注意してください。
実際、1年数カ月前に居住者が自殺していることを知りながら、入居希望者にそれを告知しなかった事案において、「オーナーは、信義則上その事実を告知すべき義務があったのにもかかわらず、故意に告知しなかったことは、入居希望者の権利又は法律上保護される利益を侵害したものとして、不法行為責任(104万円の損害賠償責任)を負うべきである」とした裁判例があります(大阪高判平成26年9月18日)。
オーナーも損害賠償請求できる場合がある
一方、人の死に関しては、オーナーが損害賠償請求をすることもあります。
たとえば事故物件となった原因が賃借人の自殺だった場合には、オーナーは、その相続人や連帯保証人に対して、損害賠償請求することができます。
その法的な根拠は、賃借人には賃貸目的物を善良な管理者と同様の注意義務をもって使用収益する義務があり、そこで自殺することはその注意義務に違反する行為といえるので、心理的瑕疵による契約責任を負うというものです(東京地判平成19年8月10日)。
この判決では、1年分の賃料相当額と2年分の賃料の半額分を損害賠償として賠償する義務を負うと判断しています。
それに対して、他殺や特殊清掃が入る自然死の場合はこのような責任は生じません。
過去問にチャレンジ
ここまでガイドラインの内容を中心におさらいしてきました。
今回の宅建試験の問題にチャレンジし、知識の振り返りをしてみましょう。
Q1
次の記述のうち、宅地建物取引業法の規定及び「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」によれば、誤っているものはどれか。(2024年度宅建試験問42)
- 1.宅地建物取引業者は、宅地建物取引業に係る契約の締結の勧誘をするに際し、宅地建物取引業者の相手方等に対し、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供する行為をしてはならない。
- 2.宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買の契約の締結の勧誘をするに際し、宅地建物取引業者の相手方等に対し、宅地又は建物の引渡しの時期について故意に不実のことを告げた場合であっても、契約が成立したときに宅地建物取引業法第37条の規定により交付すべき書面に当該事項を正確に記載すればよい。
- 3.「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」によれば、売買取引の対象となる居住用不動産において、自然死や日常生活の中での不慮の死が発生した場合であっても、過去に人が死亡し、長期間にわたって人知れず放置されたこと等に伴ういわゆる特殊清掃や大規模リフォーム等が行われていなければ、宅地建物取引業者は、原則として、買主に対してこれを告げなくてもよい。
- 4.「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」によれば、賃貸借取引の対象となる居住用不動産において、自然死や日常生活の中での不慮の死以外の死が発生した場合であっても、特段の事情がない限り、当該死が発覚してから概ね3年間を経過した後は、宅地建物取引業者は、原則として、借主に対してこれを告げなくてもよい。
答え合わせ
Q1
次の記述のうち、宅地建物取引業法の規定及び「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」によれば、誤っているものはどれか。(2024年度宅建試験問42)
答え
2.宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買の契約の締結の勧誘をするに際し、宅地建物取引業者の相手方等に対し、宅地又は建物の引渡しの時期について故意に不実のことを告げた場合であっても、契約が成立したときに宅地建物取引業法第37条の規定により交付すべき書面に当該事項を正確に記載すればよい。いかがですか?
それでは、解説です。
【1】
宅建業者またはその代理人、使用人その他の従業者は、宅建業に係る契約の締結の勧誘をするに際し、その相手方等に対し、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供する行為をしてはなりません(宅建業法47条の2第1項)。
→よって、○(正しい)
【2】
宅建業者は、その業務に関して、宅地または建物の売買の契約の締結について勧誘をするに際し、その相手方等に対し、宅建業法37条各号(引渡しの時期が含まれます。)に掲げる事項について、故意に事実を告げてはなりません(宅建業法47条1号ハ)。
たとえその後に契約が成立して、37条書面にそれを記載した場合も同様です。
→よって、×(誤り)
【3】
対象となる不動産において過去に自然死が生じた場合には、原則として、賃貸借取引及び売買取引いずれの場合も、告げる必要はありません。
ただし、自然死や日常生活の中での不慮の死が発生した場合であっても、取引の対象となる不動産において、過去に人が死亡し、長期間にわたって人知れず放置されたこと等に伴い、いわゆる特殊清掃や大規模リフォーム等が行われた場合においては、買主・借主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性があるものと考えられるため、告げる必要があります。
したがって、本問における宅建業者は、原則として、買主に対して告げる必要がありません。
→よって、○
【4】
対象不動産において自然死や日常生活の中での不慮の死(自然死等)以外の死が発生、または特殊清掃等が行われることとなった自然死等が発覚して、その後概ね3年が経過した場合には、特段の事情がない限り、これを認識している宅建業者が媒介を行う際には、借主等に対してこれを告げる必要がありません。
なお、事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案の場合は告げる必要があります。
→よって、○
◇
自身の物件で自殺や孤独死などが発生し、「事故物件」になってしまう…と悩んだ経験のあるオーナーは少なくないのではないでしょうか。
こうした時に備え、自身の物件で起きた「人の死」は、果たして告知する義務があるのか、いつまで告知しなくてはならないのか…といったことを知っておくことは非常に重要です。
今回は宅建試験の出題にフォーカスをあてていますが、オーナーにとっても重要なガイドラインですので、ぜひ一度確認してみてください。
(田中嵩二)
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