漫画家・根本尚さんによる競売ルポ漫画、『競売物語』。今回は、競売で家を買う人が絶対に知っておきたい、でも意外と知らない(?)重要な知識を漫画でご紹介します!
というわけで突然ですが、みなさんに質問です。
土地や建物が競売にかけられた場合、家の中にあるエアコンやテレビ、あるいは畳や屋根材などがどのような扱いになるのか、ご存じでしょうか?
庭に植えられた立派な木は? 石の灯籠はどうなるのか? これについて即答できる方はそう多くはないでしょう。今回は、そんなお話を「知識編」としてお届けします。
【登場人物】


本作のあいづち役。北海道弁がチャームポイント
阿部弁護士のひとこと解説
丸の内ソレイユ法律事務所の弁護士、阿部栄一郎です。これまでに不動産トラブルを数多く担当してきました。『競売物語』に関連して、競売にまつわる豆知識や、私の元に寄せられたトラブル事例などをご紹介します。
解説:抵当権はどこまで及ぶのか?
今回の漫画のタイトルは「不動産と動産」でした。ただ、より厳密に言うと、どこまでが競売の対象となるのかは、個々の物の性質や、主物である不動産との関係によって異なります。
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そもそも競売は「抵当権の実行」として始まります(担保不動産競売の場合)。例えば、家を買った人(債務者)が住宅ローンを返済できなくなった場合、金融機関(抵当権者)が裁判所に申し立てをして抵当権を実行、つまり不動産を強制的に売却するのです。
このとき、土地や建物などの不動産に抵当権が及ぶということはイメージがしやすいでしょう。では、それ以外の動産、例えば家具や家電、庭の木や石などはどうなるのか? これが今回のテーマでしたね。
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抵当権の範囲については、民法370条で「付加して一体となっている物(付加一体物)に及ぶ」と定められています。これをもう少し具体的に言うと、「不動産に付合した物」と「従物」に分かれます。
・「不動産に付合した物」の例
「立木」「動かせない庭石」「建物の増改築した部分」「屋根や外壁」など、不動産と一体になっている物
・「従物」の例(民法87条1項)
「エアコン」「畳」「便器」など、不動産の用途に従として使用される独立した物
なお、タンスやテーブルなどの家具、テレビや冷蔵庫の家電といった動産は、付加一体物ではないため競売の対象にもなりません。
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ところで漫画本編では、エアコンや畳、便器などを持っていく人たちが描かれていました。しかし法律上は、動産だからといって抵当権の効力が及ぶ付加一体物を(前の所有者が)勝手に持っていくのは違法です。
とはいえ、競売では実際に、動産を持って行かれたり、壊されたりなんてこともありますが…。
(漫画:根本尚、監修/解説:弁護士 阿部栄一郎)
根本 尚/漫画家(X)
『プリンセス』(秋田書店)で連載中。 『怪奇探偵・写楽炎』(文藝春秋) 『現代怪奇絵巻』(秋田書店・週刊少年チャンピオン)、 『恐怖博士の研究室』(同・ミステリーボニータ)他。 同人サークル名、札幌の六畳一間。 北海道ミステリークロスマッチ会員。北海道の自宅を競売で取得した。
阿部 栄一郎/弁護士
2007年東京弁護士会登録。不動産オーナーや大家さんのサポートを中心に、不動産に関する問題の解決実績多数。賃貸借契約にまつわる建物明け渡しや賃料の回収、原状回復から不動産の売買契約等まで幅広い案件を担当しているほか、不動産関連のイベントや相談会などにも積極的に参加。不動産専門紙への寄稿も行っている。
『競売物語』作者の漫画家。北海道の自宅を競売で買った