中国・河北省のマンション建設現場(2024年7月、著者撮影)

皆さんは、ご自宅は戸建て派でしょうか? それともマンション派でしょうか?

庭付き一戸建ては諦めてマンションに…なんて時代もありましたが、今は都心にマンションを買おうとするともはや「億超え」も珍しくなくなっています。私を含め、一般ピープルにはちょっと手が届きませんよね…。

さて、今回はそんな「マンション」、それもお隣の国である中国のマンション事情についてです。

今年の夏、中国でマンションを建てている会社に、設計コンサルとしてお仕事の依頼を受け、現地を訪れてきました。北京から時速300キロの新幹線に乗って約2時間ほど、河北省のあたりです。

設計中のマンションデザインや間取りについて、どうすればもっと良くなるのか、売れるようになるのか、などについて議論してきた…という感じなのですが、日本と大きく違うところがあり、たくさんの学びとともに、カルチャーショックも受けてきました。

以降では、その時に見聞きしてきたことを中心に、中国地方都市のマンション建設事情やマンション建設の技術面について、建築士の視点でレポートしていきたいと思います。

※中国は広いですから、エリアによっては状況が異なることもあると思います。その点はご了承ください。

今もガンガン建てている? 中国のマンション建設事情

ご存じの方も多いと思いますが、中国では土地はすべて政府(あるいは農民集団)のものであり、どこにどんな用途の建物を建て、誰に借地権を与えるのかは、政府がそれぞれ基準をもって決定することになります。

ですからいくらお金持ちでも、中国では駅前の一等地に個人の豪邸を建てることはできません。

そういった事情もあり、比較的利便性の高い都心部はもちろん、地方都市部でもマンションがニョキニョキと乱立しており、中所得者以上の多くがマンションに住んでいるようです。

河北省のホテルからの眺め。建設中のものを含めたくさんのマンションが見える。手前に見える茶色の屋根の建物は大型のショッピングモール(著者撮影)

中国ではかつて、マンションは購入後すぐ転売するだけで利益が出て、5年寝かせれば何十倍もの高値で転売できる…などと言われていました。しかし、そんな不動産バブルはご存じの通りすでに弾けてしまっています。

とはいえ、まだ簡素な小屋のようなところに住んでいる人もたくさんいます。少なくとも私が今回訪れたエリアでは、借金が少なく自己資金力がある一部のデベロッパーが、政府から70年間の借地権を買い、マンションをそれなりのペースで建てているような印象でした。

現在は以前のような転売目的での購入が減り、住みたい人だけが買うという感じで、ある意味健全化しているということなのかもしれません。

中国のマンション計画はこうして進んでいく

さて、ここからは中国のマンション建設事情について、順番にレポートしていきたいと思います。

まず、中国ではどんな流れでマンションが作られるのでしょうか? 始めに、何もない広大な土地の借地権をデベロッパーが政府から購入します。その後、その土地にあわせてマンションを何十棟も配置、計画していきます。

とはいえ、とにかく広大な土地です。例えば20棟前後を建てる場合、工期を分けてまずは1期工事に着手し、売れ行きがよければ2期工事に着手…という感じで進めていきます。

中国にも建築基準法的なものはあり、計画に当たっては日照時間が最低限確保されるような検討が必要ですし、建ぺい率・容積率などをふまえて設計がされていきます。

今回私が見学したマンションでは、こうして20〜30階建てぐらいのマンションが、敷地の外周部に二重程度に建ち、内側には比較的低層な15〜20階建ての建物が配置されていくということでした。

外側に高層マンションが並び、中央に低層のマンションが建つ(著者撮影)

敷地のメイン部分には「会所」と呼ばれる、クラブハウスのような共用部棟が建っています。派手なデザインで、3階程度の低層です。マンションのランクによって、トレーニングジムや保育園、プール、卓球場、会議室、お茶室などの機能が備えられています。どれもなかなか豪華です。

共用施設がある「会所」と呼ばれる施設。回転テーブルがあり、会食などに使えそうな部屋になっていた(著者撮影)

続いて、マンションの外部空間に目を向けてみましょう。

敷地境界部分は高い塀でぐるりと囲まれ、数か所ある門扉では24時間警備員により入場が監視されています。これによって、セキュリティーが確保されているわけです。

マンションの敷地をぐるりと囲む壁。入り口付近には監視員もいる(著者撮影)

ちなみにその塀の内側、建物の地中部はほぼ総堀りされ、20数棟のマンションが地下ですべてつながっています。地下のすべてが駐車場となっており、中には地下2階ぐらいまで駐車場となっているケースもあります。

車が門扉をくぐるとすぐに地下に行くので、地上に車が止まっている場面を見ることはほとんどありませんでした。

駐車場が地上にない分、建物以外のスペースはかなり広いので、皇居よろしくランニングコースも設定されていましたし、さまざまな樹種で緑化され、池や通路、ベンチ、遊具などでランドスケープデザインが隅々まで施されていました。

芝生や植栽、人工池などが整備されたマンション敷地内の外構、工事中の様子(著者撮影)

中国の国民性なのか、あるいはデベロッパーによる他物件との差別化なのかは定かではありませんが、ランドスケープ(造園)に相当力を入れて設計されています。維持管理もきちんとされていました。

街路樹さえ枯れておらずとても綺麗なのですが、毎日、作業員の方々が植栽の手入れや清掃をして美しさを保っている光景は何度も目にしました。こういった余白部分にしっかりとお金がかかっているのは日本と違うと感じましたが、維持管理の人件費の違いが影響しているのかもしれません。


ミニコラム:中国の電動バイクは…

余談ですが、「中国=自転車」のイメージがある方はいらっしゃるかも知れませんが、私が訪れた地方都市ではほぼ見かけませんでした(都心部ではライドシェアで自転車がまだ走っています)。その代わりに、音の静かな小型の電動バイクが、2人乗りなどをしながら大量に走っています。

ショッピングモールにはそれらがたくさん停車されていましたし、マンションにも同様に地上部にかなり駐輪されていました。

「電動バイクが安いんですか?」と尋ねたところ、「安いものなら2000元(約4万2000円)で買えるし、免許もいらないよ。でもね…安いのはバッテリーが爆発して火だるまになるから危ないよ(笑)」

えっ、火だるま!? 爆発!? どういうこと?

どうやら充電したバッテリーが、走行中や停車中など状況に関わらず爆発してしまう事故がかなり発生しているようです。

同様の事故はEV車にもあるようで、政府から地下駐車場で爆発が起こっても建物が壊れたり、被害が大きくならないような措置をするなどの指導が出たりして社会問題になっているようでした。


ベランダを潰す中国人

続いて、区分所有の対象となる各住戸内について紹介します。

・スケルトン渡しが基本
まず、中国のマンションでは基本的に「スケルトン・インフィル方式」が採用されています。

つまり、引き渡した際の室内は空っぽで構造躯体(スケルトン)のみの状態になっています。内装や設備(インフィル)は、購入者が個別に業者と契約し、好きなようにカスタマイズしていく、というわけです。

床材や間仕切り壁などが撤去された「スケルトン」の状態。中国のマンションではこの状態で引き渡しを受け、購入者が好きなように内装をつくっていくことが一般的(著者撮影)

・ベランダは必要ない?
もう1つ、日本の建築士である私が特に驚いたのが、ほとんどの購入者が「ベランダを潰して室内化してしまう」ということです。つまり、ベランダと室内とを区切る壁を壊し、窓も外し、ベランダの外側に新たに壁と窓を作って、ベランダのあった部分を「室内」にしてしまうのです。

これは、冬が寒すぎるとか、黄砂が飛んでくるとか、そういった事情からベランダに洗濯物を干す機会がない、という事情が関係しているのかもしれません。

ベランダは、日本では区分所有者が占有できるものの、あくまで「共有部」という位置づけで、外壁も窓も改良することはできません。これが中国ではベランダは専有部分と位置付けられているようです。壊す壁は構造上必要なものではないにせよ、20階ほどの高さがある場所で壁を壊したり、新たに設置したりしていると思うと、ちょっとびっくりですよね。

・最低でも120平米
ところで、中国のマンションはとにかく広いです。私が見たマンションの各住戸の面積は、最も狭いタイプでも120平米、広いもので180平米程度と、日本の倍程度の広さがあります。

間取りは3LDK以上であり、共用のトイレ、洗面、シャワールームとは別に、主寝室に同様の水回りが併設されているのが特徴です。

見学したマンションのパンフレット。170平米タイプ

一人っ子政策は2015年10月に廃止されていますが、学費にお金がかかるので、結局のところ子供の数はあまり増えていないということでした。

3人家族がまだ多い中、なぜこんなに広い部屋が必要なのか? デベロッパーの担当者に聞いてみたところ、「共働きが多い中国では、祖父母が一緒に住んで子育てや料理などの家事を行うことも多い」からということでした。

とはいえ、120平米以下の部屋のラインアップは一切ない、というのは日本とはあまりにも違います。日本では離婚も増え、一人世帯がかなり多いという現状を説明しつつ「おひとり様の住居をどうするねん」ということで、もっと狭いタイプの部屋も作るべきでは? と主張したのですが、これは見事にスルーされてしまいました。中国は両親などの親族を大切に扱う文化があるので、1人暮らしの人が少ない、少人数向けの住まいはニーズがないのかもしれません。

・中国のLDKは?
続いてはLDK、まずはキッチンです。日本で主流となっているアイランド形式ではなく、壁に向かって配置されており、LDからすこし隔離されるように壁で囲まれています。油を大量に使う中華料理の特性からのようです。

キッチンはレンジフードの形が特徴的でななめにせり出すようになっていた。日本で見ているものと全然違っていて面白い(著者撮影)

各部屋の間仕切りはブロックで分厚く作られており、ゆったりと確保され、どの部屋もすべて南面に面して、大きな窓とともに南側採光へのつよい志向を感じることができました。

そして、その大きな窓の存在は洗濯物を乾かすためでもありそうでした。LDKにある大きな窓に面して廊下的な空間があり、洗濯機置き場が想定されているのです。つまりサンルーム的にここで洗濯物を干すことが想定されているようでした。これも、寒さや黄砂などが関係しているのかもしれません。

ちなみに今回私が見学したマンションの販売価格は、日本円にして2000万円から3000万円程度とのことです。

構造はラーメンなしの「壁式一択」

続いて構造・性能です。

構造は私が見た集合住宅はすべて壁構造でした。なぜラーメン構造でやらないのか? と聞いたのですが、そもそも壁構造しか選択肢がない、という感じで、これについては明確な答えは聞けませんでした。

しかも、コンクリートや鉄筋をなるべく少なくするため、構造上重要な耐震壁のみをRCでつくり、外壁含むその他の部分はすべてブロックを積み上げて作っていました。これも、日本では見られない光景です。

柱や梁にあたる部分はRCでつくり、それ以外の部分(外壁など)はブロックを積んで作っている点は日本と大きく異なる。断熱材や仕上げ材などはこの上から張られる(著者撮影)

ブロックにも2種類あり、ALCのような断熱性がある30センチ程度のブロックは外周部に積んでいました。

「外壁などは他と一緒にコンクリート打設したほうがコストも安く、漏水の危険性が少ないのではないか」と言ってみたところ「中国は人件費が安いから、手間がかかってもブロック積みのほうが安い」とのことでした。

階高は2.9メートルから3メートルぐらいと、日本のグレード高めのマンションと同程度です。

スラブ(床のコンクリート部分)は12センチ厚程度です。日本では20センチほどが標準的なスラブ厚なので、床はかなり薄く作られているようでした。さらに、コンクリートスラブの下側=天井はスラブをモルタルで補修し、ペンキで仕上げていました(直天井仕上げ)。上下階間での音に関しては、直床仕上げのためクレームもあるようですが、現状では特に対策がされておらず今後の課題とのことで、日本の防音対策方法を聞かれました。

床は全室床暖房が完備されていますが、スラブの上にポリエチレン管を敷設してモルタルで埋め込んでいます。仕上げはタイル(靴履きのため)というのが一般的な感じでした。

スラブの上に床暖房のポリエチレン管を敷設し、モルタルで埋めるという仕様(著者撮影)

天井はスラブにモルタルで平滑に仕上げて、塗装仕上げとなっており、天井高さは2700程度でした。これも、日本の高級マンションと同程度ぐらいです。

中国では「これ以上低い天井のマンションは売れない」とのことで、天井高さに関しても日本とは違うこだわりを感じました。

最後に断熱に関してですが、すべて打ち込みの外断熱構法でした。

サッシはアルミの中の一部が樹脂となっており、ペアガラスかトリプルガラス。中間層がアルゴンなのか乾燥空気なのかまではわかりませんでしたが、政府により厳しい規制があるようで、性能面はしっかりとしていると感じました。

中国のマンションに長期修繕計画は…「ない」!

今回の中国訪問で、私が最も日本との違いを感じたのが「建築物の維持メンテナンスに対する考え方」です。

日本では修繕積立金を毎月積み立てて、長期修繕計画を立て、約15年のペースで大規模修繕を行いながら、マンションの性能や美観、資産性を維持することが一般的です。

これを踏まえて、新築時に維持メンテナンスがしやすいような工夫をあらかじめ盛り込んでおき、購入希望者へのアピールとしているのですが、そういった要素を中国ではまったく感じませんでした。

私が中国デベロッパーの担当者に、そのような維持メンテのための工夫点をアドバイスしても、中国の消費者にはあまり響かないそうで、軽く流されてしまいました。

たまらず、修繕積立金や管理費はどうなっているかを聞いてみたところ、そもそも長期修繕計画そのものが「ない」とのことでした。

新築から5年程度は、デベロッパーが漏水などを含めある程度の範囲まで保証するようですが、その後のことはあまり考えていないようでした。

修繕積立金については、中国では購入時に一括徴収する制度が一般的で、しかもそのお金は法律に基づき修繕積立金専用の口座を作ってそこに入れ、運用は政府の監督の下で行われるのだそうです。

仮にそのお金を使って修繕するときには、住民の承認はもちろん、政府の許可も必要ということでした。

日本では、管理費は管理組合が管理会社に委託して徴収するのが一般的ですが、中国では新築時に決まった管理会社が徴収します。払ってもらえないと管理会社が困るので、前納してくれるともう一年分無料などのキャンペーンをして必死で徴収するようなのです。

今回、建築中の現場だけでなく、すでに分譲後のマンションも見学したのですが、あまり維持メンテナンスされている感じがしませんでしたし、それを気にする素振りも感じられなかったのが印象的でした。

転売時のリノベや設備更新についても同様です。天井懐なし、床下空間なしが前提なので、今後の設備更新や間取りの変更があまりできなさそうなのです。

そこも指摘したのですが、「階高をあげることになってお金がかかるし、それは富裕層向けマンションにしないとできないな」という反応でした。20年後の未来は気にせず、今を生きている…ということなのかもしれません。

不動産バブルが弾けたと言われていますが、私が行った地方都市ではまだまだたくさんのマンションが絶賛工事中で、「なんだ、全然大丈夫やん!」というのが率直な感想でした。

しかし、現地デベロッパーの担当者によると「以前よりも売れ行きは良くなく、労働者も少しずつあぶれ始めている」とのこと。やはり不景気になってきているようでした。

そして今回、中国のマンション建設の現場を見て実感したのは、日本と中国とでは多くの前提が異なり、何が「当たり前」なのかという価値観が大きく違うということです。

私は日本の建築士としてアドバイスを求められる立場だったわけですが、これまでの経験から導き出された「こうあるべきだ」という私の考えも、国が変われば役に立たないのだと痛感しました。「日本ではこうだ」ということは簡単ですが、それが現地の価値観の中で適切なアドバイスであるわけではありません。

まずは街をつぶさに観察し、さまざまな人とのコミュニケーションの中から現地の状況を肌で感じることから始め、それを踏まえて私に何ができるのかを考えなければならないのでしょう。

その中でも今後、日本人建築士として伝えていこうと思ったのは、「高齢化社会への対策」です。

2023年において、総人口に占める高齢者(65歳以上)の割合は日本が29.1%と世界でも最も高く(人口10万以上の200の国及び地域中)、少子高齢化社会のトップランナーとしてさまざまな社会問題に直面し、ジタバタと試行錯誤しています。

中国もその予備軍であることはデータからも間違いないので、それを踏まえたバリアフリー仕様やサービス付きマンションを計画することは有効であると思うのです。

現実的な問題を少しでも良い方向に導くことはもちろんですが、射程距離を少し長く考えること、維持メンテナンスの重要性と共に根気よく提案し続けていきたいと飛行機の中で思うのでした。

(一級建築士・岡村裕次)