都内のWASHハウス店舗(編集部撮影)

企業の決算から、不動産業界の現状について考える本連載。今回取り上げるのは「WASHハウス」です。

コインランドリーの企画や開発、運営、システムの提供を行っている企業です。

2024年9月30日時点でFCが519店舗、直営が65店舗、計584店舗と、FCを中心に多数の店舗を展開しています。出店エリアは福岡が192店舗、熊本が57店舗、宮崎が42店舗など九州が中心です。

そんなWASHハウスですが、2024年11月12日に通期純利益予想の下方修正を発表しており、これが上場来8期連続の下方修正だということで話題となりました。

今回は、苦戦が続くWASHハウスの決算から、コインランドリー業界の現状を見ていきたいと思います。

WASHハウスの収益を「オーナーの支出」から考える

まずは、WASHハウスの事業内容から見ていきます。事業部門は以下の2つです。


1.FC部門
FC店舗開業時の店舗設計・機械装置のパッケージ、オープン時の広告・開業準備費、FC加盟金など

2.店舗運営部門
FC店舗向けのコールセンターやカメラと遠隔コントロールによる即時サポート、毎日の点検・清掃・洗剤補充、メンテナンスなどのサービス提供による収入、直営店からの収入


では、それぞれの事業についてもう少し詳しく見ていきましょう。まずはFC部門について。同社の収益構造について知るために、FCに出店するオーナー側の支出標準例を見てみます。

※標準例であり、実際には建築条件やテナント物件の状況等で異なります(出典:WASHハウス2024年12月期 決算説明資料

WASHハウスの洗濯乾燥機などの機器一式のパッケージが1900万円、FC加盟金が50万円、加盟保証金が100万円、店舗の新設費用などが1100万円で、合計3150万円となっています。もちろん、あくまで標準例ということで実際には物件ごとに異なります。

同社の資料によると、そのうち機械一式パッケージの1900万円とFC加盟金50万円の合計1950万円が、FC部門の売上となります。

続いて、FC店舗運営をする際のオーナー側の月間収支モデルも見てみましょう。管理運営費が6万円で固定、清掃費が4万5000円、電気やガス・水道・洗剤などの変動費が27万円、有線放送や広告分担金などが7万5000円で、計45万円となっています。

※1か月あたりの収益構造モデル(出典:WASHハウス2024年12月期 決算説明資料

このうち、管理運営費の6万円、清掃費の4万5000円、洗剤や水道光熱費の手数料収入が2万円、広告分担金などが5万円で、合計17万5000円がWASHハウス側の店舗運営部門の収入となります。

FC店舗の売上に連動するのは手数料収入くらいでしょうから、基本的には固定での収益が大きいということになり、FC店舗の売上よりもFC店舗数が重要な事業だと考えられます。

そして、FC部門の収入は出店時の一時的な収益となりますが、その一方で店舗運営部門の収益はストック収益となりますから、店舗数の増加によって安定収益が積み上がっていくモデルとなっています。基本的には売上が拡大しやすいモデルだということですね。

店舗数、売上ともに減少の傾向

近年の売上高の推移を見ていくと2019年12月期以降減少が続いており、停滞傾向です。

これがなぜなのかというと、店舗数と新規出店数が減少しているためです。店舗数は2020年末をピークに減少が続き、ピークの633店舗から2023年末には597店舗まで減少しています。

直営店は増加傾向ですが、FC店舗の減少ペースの方が速い状況です。

そして、2023年12月期の部門別の売上の推移を見てみると、直営店を増やしてきた影響もあって店舗運営部門の売上は増えていますが、その一方でFC部門の売上が減少しています。

FC店舗の減少によるストック収益の減少に加えて、新規の出店が減少することで、単価の高いFC部門が伸び悩み売上は停滞傾向だということですね。

近年は共働き世代の増加などもあり、コインランドリーは増加傾向にありました。一方、競争が激化したことで、コインランドリー投資がうまくいっていない事例も増えてきています。

コインランドリーは商品性で差をつけるのが難しいので、競争が激化すると稼ぎにくいビジネスモデルです。

そしてWASHハウスの収益構造を見ても分かる通り、コインランドリーのFC運営側は、店舗や出店を増やすと収益が増えるので、積極的な営業をして店舗を増やす方向にインセンティブが働きやすいと言えます。

市場の適正な水準で店舗数が維持される可能性が低く、どこかで過当競争の影響が出て、稼げなくなっていきやすいビジネスモデルだと考えられるわけです。

市場が飽和状態になり、うまく収益を上げられないオーナーさんの数が増えてきたことで、撤退が増えて苦戦傾向になってきた可能性が考えられます。

また同社は、2023年12月期ではコロナの影響がなくなり、他業種の出店が活発化したことで物件確保が困難になっている、ともしています。

コインランドリーは商品性で差を付けづらいということは、とにかく「立地」が重要になるということを意味します。経済活動の正常化に伴って、好立地店舗の確保は難しくなっており拡大が難しくなってきた側面もあるということです。

節税策としてのコインランドリー投資が終わって…

さらに、コインランドリー投資は即時償却が可能で、節税(課税の繰り延べ)商品としての需要もありました。しかし、2023年の税制の変更によって、店舗運営を委託する場合は、即時償却ができなくなっています。

そもそもコインランドリー自体が稼げないのであれば、節税もできなくなった今、ただ大損をするだけになってしまいます。店舗数の減少から見ても、投資が上手くいっていないオーナーさんが多いのでしょうから、節税商品としての需要も減少していると考えられます。

一方で、利益面の推移を見てみると2022年12月期を除くと赤字が続いているものの、赤字幅は縮小傾向にあります。

これには店舗運営部門の粗利率上昇が影響しています。

経費抑制の効果によって増加しているとしていますので、売上は伸び悩む中で経費削減など収益性改善の取り組みを積極的に進めていることが分かります。

事業の拡大は難しくなりましたから、こういった取り組みを進めることで、どこまで収益性の改善が進むかが重要になっています。

赤字幅は縮小しているが…

続いて、直近の2024年12月期3Qの状況をもう少し詳しく見ていきます。業績は以下の通りです。


・売上高
14.71億円(+5.8%)

・営業利益
▲0.27億円→▲0.26億円

・経常利益
▲0.14億円→▲0.24億円

・純利益
▲0.14億円→▲0億円
※▲はマイナス


売上は増え赤字幅も縮小したものの、赤字であることには変わりがなく苦戦が続いていることがわかります。

部門別の売上の推移を見てみると、直近ではこれまで低迷していたFC部門の売上も前期比+23.7%と増加しています。FCの新規出店が4店舗に加えてリニューアルが8店舗あり、前期比では増加していたようです。

新店の確保が難しくなる中で、既存店向けの洗濯機・乾燥機などの増設を伴うリニューアルに力を入れているようですから、そういった取り組みに一定の成果が見られていると考えられます。

とはいえ、今後の成長が期待されるのかというと、やはりそうは言えません。というのも、店舗数自体の推移を見てみると、前期末から9カ月で13店舗減となっています。FC撤退による店舗数の減少は止まっていないということですね。

そんな中で冒頭で述べた通り下方修正を行っており、売上に関しては4億5000万円(18%)もの下方修正です。

FCの新規出店予定が30店舗→23店舗減と7店舗になったことが影響しているようで、新店舗確保に苦戦した状況がうかがえます。

ただしWASHハウス側は、これを部品調達の遅れによって、洗濯機・乾燥機の市場投入が遅れた影響だ、としています。状況が詳しく分からないので何とも言えませんが、もし出店予定の顧客自体は確保はきちんとできているという話であれば、翌期は増店となることも考えられます。

どのような状況にいるのか、翌期の動向には注目です。

なお、利益面では、FC出店のためにオーナーさんに融資を行う金融子会社の「WASHHOUSEフィナンシャル」で貸し倒れが起きたことで、下方修正となっているということもあります。店舗を維持できないオーナーさんも出ているなかで、貸し倒れが出ていると考えられます。

今後も稼げないオーナーさんが増えると、同じように貸し倒れによる利益面の悪化がありえますので注意が必要になりそうです。

とはいえ、粗利の推移を見てみると経費抑制を続けているとしており、店舗運営部門の粗利拡大は続いています。

今回、通期予想では下方修正となりましたが、純利益では2200万円ほどの黒字を見込んでいます。通期での黒字化が達成できるかどうか、この点にまずは注目です。

(妄想する決算)