都内のある店舗(編集部撮影)

最近、街に増えているコンビニジムの「chocoZAP(チョコザップ)」。仕事帰りのサラリーマンでも利用できる、手軽なジムとして人気を集め、急速に店舗数を増やしている。

店舗が増えているということは、チョコザップに物件を貸している不動産オーナーも増えているということだ。

チョコザップは、近年増加している「無人テナント」の1つでもあるが、オーナーから見た「テナントとしての評価」はどうなのだろうか。

今回は、実際にチョコザップに物件を貸した不動産投資家に、そのメリット・デメリットを聞いた。チョコザップの入居はアリなのか? オーナーの見解を紹介するとともに、チョコザップの出店戦略や今後の展開についても考えていく。

急速な店舗増加を実現させた「低コスト出店」

チョコザップは、「結果にコミットする」のCMで知られる「RIZAP」発の、運動初心者向け「コンビニジム」だ。コロナ禍でパーソナルジム事業の売上が落ち込んだことを受けて、2022年7月に立ち上げた新しい事業だ。

月額3000円ほどで、トレーニングマシンや美容機器が使い放題となる。「運動はしたいが、高額なジムを契約するほどでもない」という人のニーズを満たし、会員数を増やしていった。

店舗によってはカラオケ、コインランドリー、ゴルフ練習場なども利用可能で、徐々にサービスの幅を拡大している。

RIZAPグループの決算資料によると、今年11月時点で会員数は130万人・店舗数は1755店舗となっている。店舗数のグラフを見ると、3カ月で約150店舗増加のペースで推移している。

2026年3月末までには、2000店舗に到達する見込みだという。

出典:RIZAPグループ株式会社「2025年3月期 第2四半期 決算説明会」資料より

なぜこのような勢いで拡大できているのか?

チェーンストア研究家・都市ジャーナリストの谷頭和希さんは、拡大の背景に「低コストでの出店が可能なこと」と「エリアを問わず一定の需要があること」が関係しているのではないか、と語る。

チョコザップの内装はとてもシンプルだ。装飾や大掛かりな工事を施すことなく、白い壁の部屋に各種器具が置かれただけのような店舗も多い。

「器具の搬入人員を、スキマバイトアプリで募集していたこともありました。さまざまなところで出店コストを抑え、スピーディーに店舗を増やしてきたのだと思います」(谷頭さん)

また、チョコザップに訪れる人は、「身体を動かしたい」「美容系のサービスを受けたい」と、あらかじめ目的を持っていることが多く、「店舗の場所を調べて、そこを目指して来てくれることが多い」と谷頭さんは語る。

つまり、出店する場所は必ずしも人通りが多い必要はなく、そうなれば賃料コストも抑えやすい傾向にあると言える。谷頭さんは「目立たない立地にも出店しているのは、こういった事情もあるのでは」と分析する。

「最近は地方出店にも力を入れているようです。私も、香川県のロードサイドで見かけたときは驚きました。都市部だとビルの1フロアを間借りしているような店舗が多いですが、地方では一棟丸ごとチョコザップみたいなところもあるんですよ」(谷頭さん)

今後は都市部だけでなく、地方にも店舗数を増やしていくのかもしれない。

チョコザップからの入居希望

そんなチョコザップに、物件を貸したというオーナーがいる。テナント物件を複数所有する、不動産投資家の三浦隆さんだ。

三浦さんは2022年5月に、マンションの1階部分にある50坪の商業区分を購入。新築当時から入居していたコンビニが退去するとのことで、売りに出されていた。

■物件情報
場所:千葉県北西部
種別:商業区分(RCマンションの1階)
購入時期:2022年5月
購入価格:1億2000万円
表面利回り:約6%

駅から徒歩2分、賑やかな商店街にある物件だった。付近には大学もあり、立地条件は非常に良い。三浦さんは、コンビニが入居していた賃料(60万円)よりも上げられると見て、購入を決めた。

ただ、マンションの中にあるテナント物件のため、用途はマンションの管理規約によって制限される。三浦さんの物件は、カフェのような「軽飲食」なら可能だが、たくさんの火や油を使う居酒屋や焼肉店といった「重飲食」はNGとされていた。

「次のテナントは大学生向けの物販になるかな、と思っていました。実際、韓国コスメの販売会社から入居希望があったのですが、賃料が合わないとのことで契約とはなりませんでした」(三浦さん)

三浦さんは当時、賃料77万円で募集していた。なかなかテナントが決まらず半年が経過したころ、ついに「賃料を相談できるなら検討したい」とチョコザップから連絡があった。

何度か折衝があったものの、最終的には双方の希望の間を取って、賃料70万円の12月入居(2カ月間のフリーレント付き)で合意となった。

店舗外観イメージ(編集部撮影、三浦さんの物件とは異なります)

チョコザップの入居からオープンまでは、2カ月ほどかかったという。その間は、看板工事や器具の搬入、壁に映像を投影するプロジェクターの設置などが行われた。

チョコザップは「優良テナント」なのか?

コロナ禍以後、冷凍餃子やスイーツなどを販売するような、無人店舗が増加した。チョコザップも一部店舗を除き、基本的には24時間・無人でオープンしている。

店舗管理者が不在だと、不測の事態に対応しづらい。犯罪やトラブル発生時のリスクが想定されるが、三浦さんは「その点はあまり心配していなかった」と話す。

「チョコザップは店舗でのお金のやり取りが基本的にないため、トラブルは発生しにくいのではないかと考えました。マンションのエントランスには管理人がいますし、住民や商店街の人の目もありますから」(三浦さん)

また、無人運営のためコストが低減され、店舗が赤字になりにくいのではないか、との予想もあり、長期入居となりやすいのではないか、と考えている。

ただ、チョコザップからは契約時に「契約期間内の解約も可能とすること」「保証会社なし」「更新手数料なし」を求められたという。

三浦さんも一度は食い下がったそうだが、「会社のルール」ということで、最終的には承諾をした。

「RIZAPという大きな会社ですので、信頼できるだろうと思い、了承しました。売却のことを考えても、資本金が少ない会社より大手企業が入居していたほうが有利になることもありますしね」(三浦さん)

もともと、この物件は早くに手放す予定だったという三浦さん。チョコザップの入居が決まってから約半年後、1億5400万円で売却した。

買主は、大手企業のテナントということもあり、「しばらくは安定して入居してくれそう」と物件を魅力に思ってくれたという。

「オープン準備はスムーズでしたし、特にトラブルも無かったことを考えると、テナントの『質』は高いのではないかと思います。ただ、コストを掛けずに多数出店しているのを見ると、数年以内に見切りをつける店舗が出てきてもおかしくない…とも考えてしまいます」(三浦さん)

「もう競合はジムではない」

谷頭さんは、今後もチョコザップの成長は続いていくだろうと見ている。

そもそも、コロナ禍前のジム市場は厳しい状態に立たされていた。経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」を見ると、会員数が頭打ちとなりつつあったことがわかる。

月額制サービスであるチョコザップは、客単価を上げられないため、客数の増加と継続率の高さで売上を伸ばしたい。

そこで、1つの店舗にジム以外の機能をつけることで、ターゲット層を広げ、継続率を高く維持する狙いがあったのではないか、と谷頭さんは分析する。

またRIZAPグループは、地域住民の健康増進のため、自治体との包括連携協定の締結を積極的に行っている。

車社会で歩く機会が少ない地方都市の住民は、運動不足になりやすい。これを改善しようと、これまでに兵庫県養父市、三重県木曽岬町などと提携し、「官民連携コンビニジム」の運営を行っている。

官民連携コンビニジム1号店・chocoZAPやぶYタウン店(出典:チョコザップHP

谷頭さんは「チョコザップの競合はもうジムではない」と話す。単に身体を動かすための場所ではなく、多様なニーズに応えられる場所となってきている。

「今後、いわば健康を軸にしたコンビニエンスストアのような存在になっていくのではないでしょうか。地域にとって『ある種のインフラ』になりうるのかもしれません」(谷頭さん)

ただ、競合他社が現れるかどうか、サービス拡大の中で何を重視していくのか、によってはチョコザップの事業方針も変わってくるだろう。

ターゲット層を広げたのち、どこに重きをおいて顧客満足度を高めるのか。チョコザップが近い将来にぶつかる壁なのかもしれない。

ランドリーやカラオケ設備などがメインの店舗、「ジムなしチョコザップ」もあるなど、現在は多様な姿を見せているチョコザップ。

このまま店舗数が増えていけば、不動産オーナーが「テナントとしてのチョコザップ」を検討する機会も増えてくるだろう。今後の事業がどのように展開していくのか、注目していきたい。

(楽待新聞編集部)