2024年ももうすぐ終わりです。みなさんの、今年一番の「オトクな買い物」はなんでしたか?

「不動産競売」なら、「家」が9割引きで手に入るかもしれません。

どうしても自宅がほしい漫画家の根本尚さんは、競売でめぼしい一軒家を見つけ、「345万円」で入札しました。貯金が380万円でも、落札会場が怖い人だらけでも、この家は絶対に譲れないのでやるしかないのです。

競売ルポ漫画『競売物語』第6話、落札の瞬間は果たして―。

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【登場人物】

根本尚

『競売物語』作者の漫画家。北海道の自宅を競売で買った

架空のメイド

本作のあいづち役。北海道弁がチャームポイント

阿部弁護士のひとこと解説

丸の内ソレイユ法律事務所の弁護士、阿部栄一郎です。これまでに不動産トラブルを数多く担当してきました。『競売物語』に関連して、競売にまつわる豆知識や、私の元に寄せられたトラブル事例などをご紹介します。

解説:主人公と賃借人、どっちの権利が強い?

漫画本編では、前所有者が競売物件を第三者に賃貸していたようです。ただ、主人公は自らのこの家に住むために落札したわけですから、現在の入居者には退去してもらわなければなりません。このような場合、どういった扱いになるのでしょうか?

ここで重要になるのは、第三者(現在の入居者)の賃借権と、抵当権者(抵当権を持っている人=住宅ローンを貸した金融機関など)の権利はどちらが強いのか? ということです。

法律用語で少し難しく言うと「第三者(現在の入居者)の賃借権が(競売開始の原因となった)抵当権に対抗できるか否か」ということになります。

もう少し具体的にご説明しましょう。ポイントは、「現在の入居者が家を借りたタイミングと、抵当権がついたタイミングのどちらが早かったのか?」です。パターンとしては以下の2つがあり、これによって結果が異なります。

1.この家に抵当権が設定される前から第三者が賃借している場合・抵当権者(お金を貸した銀行など)の同意の登記がある場合

入居者の賃借権が優先される

2. この家に抵当権が設定された後に第三者が賃借しており、抵当権者の同意の登記がない場合

抵当権者(買受人)の権利が優先される

■1の場合

そもそもその家が他人に貸し出されていることが前提(賃借権の負担付き)で競売物件を買い受けた、ということになります。買受人は、「賃貸人たる地位を引き継ぐ」、いわゆるオーナーチェンジと同じ、ということになります。

入居者としても、自分が借りたあとで、いわばオーナーの都合で勝手に抵当権が付いたわけですから、競売にかけられて他人が落札したら出て行け、と言われても困ってしまいます。

■2の場合

こちらは1の場合とは話が変わってきます。抵当権者がこの家に抵当権を設定した当時、まだ賃貸に出されていなかったわけですから、抵当権者の権利が優先されることになります。

抵当権者は「賃貸に出されていない物件」を担保に取っているので、競売にかけられるのも賃貸に出されていない物件のはずです。ですから、競売の落札後は買受人の権利が優先されることとなり、現在の入居者に退去してもらうことができます。

入居者としても、抵当権がついていることを知ってこの家を借りているわけですから、上記の1の場合とは状況が異なるわけです。

とはいえ、話し合いなどでスムーズに退去してもらえるのであればいいのですが、なかなか出て行ってくれない場合もあるでしょう。

そうしたケースでは、「不動産引き渡し命令」を申立てて、強制執行の手続きで退去してもらうということになります。

ちなみにその場合でも、賃借人には6か月間の明渡猶予が認められます。いきなり出て行け、と言われても酷なので、入居者保護の観点からこのような決まりがあるわけです。

 

(漫画:根本尚、監修/解説:弁護士 阿部栄一郎)

根本 尚/漫画家(X

『プリンセス』(秋田書店)で連載中。 『怪奇探偵・写楽炎』(文藝春秋) 『現代怪奇絵巻』(秋田書店・週刊少年チャンピオン)、 『恐怖博士の研究室』(同・ミステリーボニータ)他。 同人サークル名、札幌の六畳一間。 北海道ミステリークロスマッチ会員。北海道の自宅を競売で取得した。

阿部 栄一郎/弁護士

2007年東京弁護士会登録。不動産オーナーや大家さんのサポートを中心に、不動産に関する問題の解決実績多数。賃貸借契約にまつわる建物明け渡しや賃料の回収、原状回復から不動産の売買契約等まで幅広い案件を担当しているほか、不動産関連のイベントや相談会などにも積極的に参加。不動産専門紙への寄稿も行っている。