京成百貨店の1階にあるルイ・ヴィトン

京成百貨店の1階にあるルイ・ヴィトン(筆者撮影)

全国各地のショッピングモールを巡り、そこから見えてくる都市の「いま」をお届けする本企画。今回は、茨城県水戸市にやってきました。

実は少し前、水戸を驚かすニュースが飛び込んできたのです。

それが、県内唯一の「ルイ・ヴィトン」直営店の閉店。本日、12月25日に「京成百貨店」から撤退することが発表されており、茨城県からルイ・ヴィトンの直営店が消滅することになります。

同店は、京成百貨店が現在の位置に移転する2006年から、18年間の営業を続けてきましたが、テナント契約の終了に伴い、この度の閉店が決定したのです。

ちなみに、本連載ではショッピングモールを取り上げていますが、今回は「百貨店」です。ただ、その両者はだんだんと似てきています。

もともと百貨店もショッピングセンターも、複数のテナントによるさまざまな種類の商品が買える大規模な商業施設のことを示します。そこには、立地やターゲット層などの違いがありました。

ただ近年では、百貨店といわれる施設の中でも、「ダイソー」「ノジマ電機」「無印良品」「ロフト」といったチェーン店が複数入っている場合も多く、消費者にとって、その違いはあまり意識されないものになってきています。

いわば、「ちょっと高級なショッピングセンター」として百貨店がイメージされている現状があります。

そこで、今回は百貨店もショッピングセンターの1つとして捉えながら、「ルイ・ヴィトン閉店」から見た商業施設と街の関係を考えていきたいと思います。

いろいろ苦しい「地方百貨店」の現状

JR水戸駅から1キロほど駅前通りを進むと、「京成百貨店」が見えてきました。

まず目に飛び込んでくるのは「ルイ・ヴィトン」と書かれた壁面と、そこに飾られているブランド品。京成百貨店自体は目立つような建物ではないのですが、その一区画だけは非常に目立っています。

ホリデーシーズン仕様に飾られていた

ホリデーシーズン仕様に飾られていた(筆者撮影)

建物の中に入ると、ルイ・ヴィトンに続き、フェラガモやバーバリーなど高級ブランドがずらりと並んでいます。まさに私たちがイメージする「ザ・百貨店」の佇まいです。

ルイ・ヴィトンの店頭には「閉店のお知らせ」が掲げられており、その前に入店の待機列が続きます。私が訪れたときは閉店まで10日ほどとなっていたこともあり、多くの人が並んでいました。店内には店員さんと親しげに話す人もおり、地域の人に愛されてきたことがわかります。

このような状況にもかかわらず、同百貨店からルイ・ヴィトンがなくなる理由は何なのでしょうか。

その直接の理由は先述の通り「テナント契約の終了」だそうですが、そうであれば、そこにはテナント契約の継続をしない理由があるはずです。

1つ考えられるのは、この「水戸京成百貨店」の売上不振です。

ここ2年、京成百貨店は経営不振が続いています。官報によれば、2022年期は約35億円、2023年期は約3億円の赤字を計上しています。

実はこの背景には、2020~2022年に行われたとされる新型コロナの雇用調整助成金の不正受給問題も影響しています。これにより、同百貨店は2023年に約13億円を茨城県に返還。同社の財務に大きな打撃を与えました。

シンプルな外観の京成百貨店

シンプルな外観の京成百貨店(筆者撮影)

一方で、売上はそれ以前から安定しておらず、利益が出ているにしても数千万円にとどまる程度でした(例外的に2019年期は2億円の利益が出ていますが、その後のコロナで大幅に利益が下がりました)。

立地的にも駅から少し離れており、自家用車がなければバスに乗ることも検討する距離です。案外、利用するには不便な立地なのかもしれません(ちなみに、私が訪れたとき百貨店の駐車場は全て埋まっていました)。

また水戸駅前には、いくつかの商業施設もあるため、人がそちらに流れてしまうのも頷けます。車なら「イオンモール水戸内原」や「イオンタウン水戸南」といった周辺のショッピングセンターにもアクセスしやすいでしょう。

京成百貨店が、こうした他の商業施設に押されていることは間違いありません。

人の出入りはある程度あるようでした

ただ、人の出入りは結構あるようでした(筆者撮影)

そして今、地方百貨店という存在そのものが苦境に立たされています。これは近年、よく語られているところですが、改めてその苦境ぶりをデータから見てみましょう。

日本百貨店協会が発表している統計データによれば、2024年10月の全国の百貨店の売り上げのうち、77.6%が全国10都市(札幌・仙台・東京・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸・広島・福岡)にある百貨店で占められています。他の月でざっとみても、この数値は75%前後で推移しています。

日本の中でも中核的なこの10年都市以外が、いかに苦戦しているのかがよくわかるでしょう。その意味では、ルイ・ヴィトンの京成百貨店からの撤退は必然的な流れであったともいえるかもしれません。

ルイ・ヴィトンが見込んだ街、見放した街

ただ、今回の撤退の件は、百貨店側の事情だけでなく、どうもルイ・ヴィトン側の事情もあるようです。近年、特に地方都市の百貨店では、ルイ・ヴィトンの閉店が相次いでいるのです。

2019年には「トキハ大分店」が閉店。2021年には「神戸阪急店」も閉店しています。

さらに2023年には「うすい店」(福島県)、「浜松遠鉄店」(静岡県)も相次いで閉店。今年の7月にも「柏店」(千葉県)が閉店しています。

これらはすべて百貨店内にある店舗で、近年不調が続く百貨店をルイ・ヴィトン側が見放したものとも思われます。

ただ、興味深いのは、これと同時に新規出店も続けていることです。単に直営店の展開を縮小している、というわけではありません。

特に東京・大阪での出店には積極的です。今年11月には「ルイ・ヴィトン 伊勢丹新宿店 4F」がオープンし、これにより新宿周辺には4店舗ものルイ・ヴィトンが建ち並ぶことになりました。

伊勢丹新宿店

伊勢丹新宿店(PHOTO:khadoma / PIXTA)

同一地域に集中的な出店をする「ドミナント戦略」という印象さえ与えますが、「地方百貨店からの撤退、都市部への集中」といった傾向がまざまざと見えてきます。

また、この「都市部への集中」の中には、「富裕層への集中」という意味も含まれています。近年はインバウンド向けの店舗も増やしていて、2022年に羽田空港、2023年に成田空港、2024年には関西国際空港に店舗が誕生しています。

さらに今年は、観光客が多く訪れる北海道のスキーリゾート「ニセコ」への期間限定ポップアップストアも展開しており、「富裕層・インバウンド向け」への集中戦略を進めています。

その影響の1つが、この水戸京成百貨店に現れたのでしょう。

ちなみに、金融アナリストの高橋克英氏は「ルイ・ヴィトンの店舗がどこにあるのか、増えているのか減っているのかを観察することで、この先の勝ち組都市、負け組都市を見分けることができるのではないだろうか」と述べています。

同じように、ルイ・ヴィトンの存在が不動産市況を見通す上でも参考になる指標なのかもしれません。それほど顕著に「選択と集中」を進めているわけです。

「選択と集中」は全国的に進む?

経済学者のトマ・ピケティ氏が『21世紀の資本』の中で指摘したように、資本主義のシステムの中では基本的に格差は拡大していきます。日本でも、社会学者の橋本健二氏が指摘したように、1980年代から格差は広がっています。

日本では長らく「1億総中流」というイデオロギーが信じられていましたが、もはやそれは幻想に過ぎないわけです。

「地方百貨店でブランドが買える」のは、ある意味でこの「1億総中流」を顕著に表していたかもしれません。しかし、その百貨店が衰退していることは、まさにその言葉が過去のものとなってしまったことを表しています。

そして、そこで生まれる格差に呼応するように、ブランドショップでは、より効果的な集客やブランドイメージの構築ができる、都市部や富裕層向けの集中戦略を進めています。

銀座のある店舗(PHOTO:ゆうた1127 / PIXTA)

今後、ルイ・ヴィトンのような動きをするラグジュアリーブランドが増えていき、こうした「選択と集中」によって都市の姿が変わることも珍しくなくなるのかもしれません。

その意味では、不動産投資についても、こうした「選択と集中」の流れの方向を見極めておく必要があるでしょう。

京成百貨店からのルイ・ヴィトンの撤退は、こうした日本の都市をめぐる大きな流れを反映しているのです。

京成百貨店はどうなっていくのか

今回、京成百貨店を訪れて思ったのは、意外と人が多いこと。建物の中はそこそこの賑いを見せていました。

他の百貨店ならチェーンストアも多く入居する中、ここはブランドショップのテナントが多くあり、昔ながらの百貨店スタイルを守っているようにも感じられます。

さらに、店内のそこかしこに休憩スペースがあって、お年寄りなどが休み、憩いの場所にもなっていました。

郊外のショッピングモールではブランド品は買えませんし、差別化という意味では、まだブランドの力が生き残っているのかもしれません。

ちなみに、これは参考程度でしかないのですが、国土交通省 「企業等の東京一極集中に関する懇談会」の資料によれば、茨城県の可処分所得は、東京都に次ぐ全国4位となっています。

可処分所得から基礎支出を差し引いた、つまり「どれぐらい自由に、生活必需品ではないものにお金を使えるのか」のランキングでは全国3位に位置しています。

ここから考えると、茨城県民の嗜好品の購買力は高いともいえそうです。ブランド品が多く、他の商業施設と比較して消費金額が多くなりやすい百貨店には、希望ともいえるデータかもしれません。

とはいえ、百貨店が苦しい状況に置かれていることは確か。全国のルイ・ヴィトンや百貨店の動向を見つつ、日本の都市・商業施設の姿がどのように変化していくのか、ウォッチを続けていきたいところです。

(チェーンストア研究家・谷頭和希)