初売りセールに多くの人が押し寄せる一方、この世には「いくらセールをやっても買い手がつかないモノ」もあります。

たとえば、不動産競売で売れ残っている物件。超ワケアリだと予想されますが、「競売で売れ残るレベル」とはどれほどなのでしょう。

今回は、自宅を競売で競り落とした漫画家・根本尚さんが「本当にあったヤバい競売物件」を3つ紹介します。

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【登場人物】

根本尚

『競売物語』作者の漫画家。北海道の自宅を競売で買った

架空のメイド

本作のあいづち役。北海道弁がチャームポイント

阿部弁護士のひとこと解説

丸の内ソレイユ法律事務所の弁護士、阿部栄一郎です。これまでに不動産トラブルを数多く担当してきました。『競売物語』に関連して、競売にまつわる豆知識や、私の元に寄せられたトラブル事例などをご紹介します。

解説その1:競売の売れ残りは「特売」へ

不動産競売を実施しても、必ず入札者が現れるわけではありません。漫画本編に出てくる猫屋敷、葬儀場、脱落地などは、まさに買受人が現れなさそうな物件です。その他、敷地利用権がない物件なども買受人が現れない物件の典型例です。

では、そんな「入札ゼロ物件」はどうなるかというと…。本編にもあった「値下げ」の仕組みを少し詳しくお伝えします。

入札ゼロ物件は、民事執行規則51条が定める「特別売却(特売)」に進みます。特売には、競売と違ってこんな特徴があります。

・入札金額は関係なく、早い者勝ち
・直前の入札と売却基準価額(※1)や買受可能価額(※2)が同じ
※1…不動産鑑定士による競売物件の査定金額、※2…競売における最低入札額

買受人がいなければ、売却基準価額や買受可能価額を下げてもう一度入札を募ります。売れなければ、また特売です。入札と特別売却を3セット行っても売れない場合、裁判所は競売手続を停止できます。

こうなれば、(ごく僅かな例外的なケースを除いて)競売は取り消しです。競売物件は債務者(=住宅ローン等を滞納した物件の前オーナー)所有のままとなります。

解説その2:競売は本当に「ハイリスク」?

ところで、いくら安くても売れない物件があるのはなぜでしょうか。漫画でも触れられているように、そもそも「競売物件を買うリスク」が大きいからです

少し長くなりますが、競売がハイリスクと言われる理由を解説します。たとえば、買った物件でトラブルが起こったらどうなるでしょうか? 通常の不動産取引と比べてみましょう。

1. 通常取引は契約書と民法で守られる

物件購入後にトラブルが発生したら、売買契約書に従って処理が進められます。売買契約書に定めのない事項については、民法の「契約不適合責任」の規定に従うこととなります。

これは、ざっくり言うと「種類・品質・数量について、商品やサービスが契約通りに提供されなかったら、売主に責任を問える」という規定です。中古物件などでは売主の負担が重いため、実務上は制限つきの契約となることが多いです。

たとえば、買うときには「雨漏りがある物件です」とは言われなかったのに、購入後に調べたら見えづらいところに雨漏りがあった…のような場合、買主は売主に修繕費用などを請求できます。

2. 競売は「誰も守ってくれない」

競売には、売買契約書などありません。では契約不適合責任の規定に守られるのか…と思いきや、それもないのです。「競売では基本的に契約不適合責任の規定を適用しない」と民法568条で決まっています。

競売物件を買った後にトラブルが発覚し、対応に莫大な費用がかかったとしても、誰も補償してくれません。買受人の自己責任です。

ただし例外的に、「権利」に関する部分で齟齬があった場合には、契約不適合責任の規定が適用されます。

具体的には、物件明細書に「物件に別の人が住んでいるが、適法な賃借人ではない」と記載されていたにもかかわらず、実際に住んでいる人はきちんと賃貸借契約を結んだ適法な賃借人だった…というような場合です。

この場合、買受人は、賃借権の負担なし(=法的には空き家状態)の物件を買い受けようとしたにもかかわらず、賃借権の負担付き(=法的には賃貸中)の物件を買い受けることになります。

このような場合に限り、債務者(=住宅ローンを滞納した物件の前オーナー)に責任を追及できます。方法は契約解除と代金減額請求の2つですが、債務者や債権者(=銀行など)が賃借権の存在を隠して競売を申し立てていた場合、追加で損害賠償請求をすることもできます。

仮に契約解除を選べば、契約自体をなかったことにして、支払い代金の返還を求めることができます。しかし実際には、債務者は返金に応じるだけのお金がないケースが多いです。なんせ、借金のカタに取られて家を売られているわけですから…。

のような場合、買受人は、代金の配当を受けた者―つまり、債権者に返金を求められます。民法568条2項で定められている特殊な請求権です。

通常の不動産取引と比べると、不動産競売は「物件購入者を守る仕組み」が手薄なことがわかると思います。これが「競売はハイリスク」と言われる所以なのです。

(漫画:根本尚、監修/解説:弁護士 阿部栄一郎)

根本 尚/漫画家(X

『プリンセス』(秋田書店)で連載中。 『怪奇探偵・写楽炎』(文藝春秋) 『現代怪奇絵巻』(秋田書店・週刊少年チャンピオン)、 『恐怖博士の研究室』(同・ミステリーボニータ)他。 同人サークル名、札幌の六畳一間。 北海道ミステリークロスマッチ会員。北海道の自宅を競売で取得した。

阿部 栄一郎/弁護士

2007年東京弁護士会登録。不動産オーナーや大家さんのサポートを中心に、不動産に関する問題の解決実績多数。賃貸借契約にまつわる建物明け渡しや賃料の回収、原状回復から不動産の売買契約等まで幅広い案件を担当しているほか、不動産関連のイベントや相談会などにも積極的に参加。不動産専門紙への寄稿も行っている。