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日本に住む中国人が増え続けている。
出入国在留管理庁によると、2000年の在日中国人の人数は約33万5000人。2010年には2倍以上の約68万7000人、2024年6月にはさらに増えて約84万4000人に上った。
従来、来日理由は「留学」「就職」「出稼ぎ」「結婚」が多かったが、近年は中国の政治リスクなどの影響を受け、「移住」自体が目的になっている。
「移住先」として英語が通じる欧米や温暖な東南アジアを選択する中国人もいるなか、日本を選んだ人たちは、日本にどんなイメージを抱いているのだろうか。
今回は、実際に日本へ移住した中国人から聞いた話を紹介していこう。
老後の隠居生活を送るのに最適
「日本といえば、安い、近い、安心、安全、平和、安定。そういうイメージを持つ中国人が多いと思います。実際に交通費以外、何でも安くて、食事が美味しく、とにかくコスパがいい」
「町が静かで整然としており、街中でのトラブルも少なく物事が何でも予定通りに進む、とも感じました。朝から晩までスマホの着信がひっきりなしに鳴る中国からくると、拍子抜けというか、落ち着きすぎていて少々寂しい感じがします」
「でも年を取ったら、こういうのんびりとした生活もいいかもしれません。医療が充実していて高齢者も多いため、老後の隠居生活を送るのに最適な国。日本に住んだら、きっと自分も長生きできると思います(笑)」
こう語るのは30代前半の中国人男性だ。2年前に、日本の「経営・管理ビザ」を取得して東京都内に引っ越してきた。現在は新宿区の高層マンションにひとりで住んでいる。
小さな会社を経営しているが、そこにはほとんど顔は出さず、もっぱら中国に住む友だちと電話で話したり、旅行をしたり、ブラブラして過ごしている。
すでに財産があり、移住を決めた目的はその財産を海外に持ち出すことだった。会社は赤字を出さない程度に維持してさえいれば、ビザを延長できるので、しばらくは日本滞在を楽しむつもりだという。
「多くの中国人はまだ一度も日本に行ったことがありません。いまだに日本は技術立国で物価が高く、日本人は働き過ぎで過労死寸前、という1980~1990年代のイメージをひきずっている人もいると思います」
自身も数年前に初めて日本に来たときは、物価が意外に高くない、日本人は思っていたよりも働かない、と実感したそうだ。

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一方で何度も日本に来ている人については、物価の安さが強く印象に残り、「日本=安い国、というイメージを持たれているのでは」と語る。
「それと、日本で生活したことがある人なら、商品の質の良さも実感していると思います。たとえば、ペットボトルとか、温かいカイロとか、コンビニで買えるホットコーヒーとか、ビニール袋とか。ちょっとしたものの品質が、ものすごくいいと感じます」
政府に翻弄されない「天国のような国」
別の40代の中国人男性は、「商品の質のよさは、ストレスのなさにも通じる」と言う。
「日本の生活はとにかくストレスがないのです。中国から来ると、それをすごく感じます。食品ラップの切れ味がいいとすっきりしますし、電車に乗るときにも皆きちんと並んでいるので、ただそれに従えばいい。それだけでもストレスが減ります」
また、ストレスのない生活という観点で、その男性は「政府の影響を受けづらい」ことも挙げる。
たとえば中国では、住んでいるマンションの管理人から常に監視されて出入りもチェックされ、どのような人物と付き合いがあるかすぐに分かってしまうという。
会社では政治学習会のようなものが行われ、参加を強制される。中国共産党員でなくても、「それなりに忠誠を誓わなければならない場面というのがある」と彼は語る。

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「政治の大きな行事がある際は、交通規制もひどいですし、ネット環境もぐっと悪くなります。日本では政治と関係なく、自分の思った通り好きなように生活できるので、このメリットは大きいと思います」
それは日本に限らず、欧米も同じではないだろうか。
そう尋ねてみると、彼は「確かに欧米での生活も政治体制の影響を受けないため、移住する中国人も多い。コロナ禍でカナダやイギリス、シンガポールに移住していく人もいた」としたうえで、次のように語った。
「でも、欧米はとにかく物価が高いでしょう? 財産がある人は別ですが、普通の人は自分の不動産を売り払って、それを元手にして移住資金を作るんです。だから、移住後もお金がかかる国にはあまり住みたくないということです」
また欧米は距離的にも中国から遠く、アジア人差別があることも懸念だという。
トランプ氏が再び大統領に就任するアメリカは中国との関係が悪化しており、ヨーロッパはロシアの戦争やパレスチナ情勢の影響で何が起こるか分からない、と指摘する。
その点、日本は中国から距離が近い上に物価や生活コストも安く、国際紛争の影響も比較的少ない。中国人に対する差別も彼はほとんど感じたことがないという。
「SNS上はともかく、リアルな日本人はとても親切で優しいですから。その上、もし子どもが小さかったら公立の学校に入学させることができます。日本で不動産を持ち、会社を立ち上げて、そこで利益をあげられたら、一家で十分に生活していけるという算段がつきます」
現実的なことを考えると、コスパがよく、生活しやすい日本は、中国人の移住先として欧米よりも断然すばらしいというのだ。
日本にずっと住んでいると、日本の良さをあまり感じないという人もいるかもしれない。
しかし政治に人が翻弄される歴史が長い中国からすると、何でも自分で決められ、好きなように生きられる日本は天国のようなところらしい。

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爆上がりする移住人気、SNSの影響も
むろん、そのような考え方に至る背景には、在日中国人の存在も大きく関係している。
日本に住む在日中国人は、冒頭に書いた通り、約82万人。アメリカにはその3倍の中国人が住んでいるといわれるが、米中対立の影響により、移住希望者は減少している。
その影響もあって、ますます日本移住の人気は爆上がりしているのだが、それをサポートしているのが在日中国人たちだ。
彼らの多くは「留学」や「就職」などで80年代以降に来日した人々で、長い人は在日歴が40年以上になる。
そうした人々が日本企業で働いたり、独立・起業したりして自分たちの地位を築き、日本で安定した暮らしを実践していることも、日本移住を選択する上での後押しになっているだろう。
2015年ごろから急速にウィーチャットなどのSNSが発達し、中国に住む人々はSNSを介して日本の状況を知ることができるようになった。
在日中国人が日本の生活環境のよさや食べ物の美味しさなどをSNSで中国に向けて発信してきたことが、彼らの日本のイメージをよりポジティブなものにしているという点もある。

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筆者は過去に、日本に投資して旅行会社を設立したいという経営者の中国人女性から相談され、その女性と同郷である在日中国人経営者と、同じく在日中国人の法律の専門家に引き合わせたことがある。
その女性によると、中国では利益が出にくくなっている事業が多いため、それを縮小して日本で新しいビジネスを模索したい、あるいは介護・福祉など日本のほうが発達している分野で事業を始めたい、という仲間が多いという。投資を兼ねての移住計画だ。
人口減少が進み、市場がますます縮小しているように感じる日本。しかし経済が深刻に悪化する中国に住む人からみると、日本は移住先として、またビジネスの投資先として、まだまだ魅力がある国だと映るようだ。
(中島恵)
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