不動産業界の慣習となっている「囲い込み」をけん制する動きが出ている。
囲い込みは、不動産会社が売り手と買い手の双方から仲介手数料を得る目的で物件情報を「独り占め」する行為だ。利益相反や売主の機会損失などを問題視する声がある。
そこで2025年からスタートしたのが、囲い込みを抑制するための新ルールだ。1月1日以降、「REINS(レインズ)」に虚偽の登録を行った宅建業者は、宅建業法の指示処分の対象となる。
このルール改正については昨年、楽待新聞でも一報を伝えた。読者からは、囲い込みや両手取引を「規制するべき」といったコメントが寄せられた一方、「特に問題を感じない」「両手がなくなったら不動産事業が成立しなくなるのでは」といった意見もあった。
楽待新聞編集部では、不動産会社や投資家を対象に「囲い込み」に関する意識調査を実施し、計130人から回答を得た。
囲い込みはそもそも何が問題なのか? 実際にどのような方法で囲い込みが行われているのか? 不動産取引の現場の声を聞いた。
※アンケート実施概要
調査時期:2024年12月13日~19日
有効回答数:130(不動産会社75、投資家55)
「囲い込み」はなぜ起きる?
囲い込みは、売り主から売却依頼を受けた不動産会社が、「両手仲介」などを目的として、自社で買い主を見つけるために物件情報をあえて公開しなかったり情報を偽ったり、もしくはほかの不動産会社からの問い合わせを拒んだりする行為のことだ。
そもそも「囲い込み」はなんのために行われるのか―。
不動産売買の取引では通常、売主と媒介契約を結んだ不動産会社が買主を探す。そして、無事に買主を見つけて売買契約が成立した場合、不動産会社は成功報酬として売主と買主の双方から、仲介手数料を受け取ることができる。
このように、ある不動産会社Aが売主と買主の両方とそれぞれ媒介契約を結んで売買を成立させるケースは、「両手取引」と呼ばれる。
しかし、場合によっては、別の不動産会社Bが買主を見つけることがあり、この場合は不動産会社AとBはそれぞれ売主と買主のどちらか一方からしか仲介手数料を受け取れない。このようなケースは「片手取引」と呼ばれる。
このような仕組みになっているため不動産会社としては、2倍の仲介手数料を受け取れる「両手仲介」を実現するために、あの手この手を使って「第三者(不動産会社)の介入」を阻止しようということになる。
ここで行われるのが物件情報の「囲い込み」だ。売主と媒介契約(専属専任または専任)を結んだ不動産会社は通常、5~7日以内にREINS(レインズ)に物件情報を登録することが宅建業法で義務付けられている。
しかし、ここに登録することで、ほかの不動産会社が物件が売りに出されたことを知り、買主を見つけてくるかもしれない。そうなれば、売主側の不動産会社にとっては「両手仲介」が遠のいてしまう。
レインズは、全国の不動産会社が物件情報を共有し、迅速に買い手を見つけるためのシステムだ。売主やほかの不動産会社にとっては取引のチャンスが広がるが、売主側の不動産会社にとって都合が悪い面もあるのが実情のようだ。
新ルールの中身は?
ここで、2025年からスタートする新ルールについてあらためて確認しておこう。
宅建業法施行規則(省令)の改正によって、今年1月1日以降、レインズに登録されている物件情報に虚偽の内容が見つかった場合、情報を登録した不動産会社は処分の対象となる。
具体的には、囲い込みのために虚偽の情報が登録されることが多いといわれる「取引状況」が問題になる。取引状況は「公開中」「書面による購入申込みあり」「売主都合で一時紹介停止中」の3段階から選べる。
実際には買主からの申し込みがないのに、あるように装って他社をブロックする手段として利用されることがある。これを防止するためにルールが厳格化され、虚偽の情報を登録した不動産会社は是正処分の対象となる。
囲い込みはこれ以外にもさまざまな方法で行われているとみられ、今回のルール改正によってどの程度の効果があるかは不透明だ。
囲い込みはなにが問題か?
囲い込みが行われることで、売主は物件を高値で売れる機会を逃すおそれもある。買主としても売り物件の情報にアクセスできる機会が減っている可能性がある。そうなれば、不動産投資家にとっては由々しき事態だ。
実際、投資家たちはこの「囲い込み」をどのくらい問題視しているのだろうか? ここからは、楽待編集部が行ったアンケート結果から囲い込みの実態などを読み解いていきたい。
まずは、投資家を対象に囲い込みへの問題意識を聞いた結果だ。
7割以上の投資家が囲い込みは「問題がある」と考えていることがわかった。一方で、「問題はない」と答えた人は0人で、残りの人は「どちらとも言えない」と回答した。
「問題である」と回答した人の理由
・自身が売主なら、一刻でも早く買主を見つけてもらいたい。
・他社の買い主が現れても紹介してもらえない可能性がある。
「どちらとも言えない」と回答した人の理由
・顧客側が納得していれば良い。情報が拡散しすぎると悪い面もある。
・商業慣習として定着していたので、何故という疑問を持たず、取引していた。
不動産会社の9割が他社の「囲い込み」を認識
では、囲い込みはどのように行われているのか。不動産会社へのアンケートから、その実態が浮かび上がる。
他社が囲い込みを行っていると感じたことがあるかとの問いに「ある」と回答した不動産会社は9割に上った。
実際にどのような場面でそのように感じたのか、「目撃情報」が多く寄せられた。
他社が「囲い込み」を行っていると感じたエピソード
・レインズに登録しても、住所末尾を載せない、図面を登録しない
登録日に申し込みありになっているなどの手口を、大手不動産会社がよく使っていた。
・「売主が骨折、売主がコロナ、引っ越しが進んだら」などと適当な断り文句で再三にわたり当社の内見希望を断られた。業を煮やした買客がついに直接問い合わせをしてしまい、そのまま案内・成約した。
・以前にレインズを利用していたときに備考欄に「商談あり」と掲載されていたが、顧客を装って大手仲介会社に問い合わせすると「物件はまだ大丈夫です」という対応をされたことがある。
・当社のお客様が出ている値段で買いたいと内覧希望を出しても見学させてもらえず、最終的に100万円下げて成約されているのを見た。売主に対してなんてひどいことする仲介業者だと驚いたことがある。
他社に対する「目撃情報」は多かったが、一方で、実際に自社での囲い込みを行っていると回答したのは少数派だった。
囲い込みの理由を尋ねると、両手で手数料を得る以外に、売主の事情などを挙げる声もあった。
囲い込みを「行ったことがある」と回答した人の理由
・両手取引にしたいから。自分はよくて相手はダメという矛盾をどの業者もはらんでいると思う。
・売買の場合は売却額が安すぎて、また、賃貸であれば賃料が安すぎて、仲介手数料が分かれては割に合わない。
・これまで他社付け等でもめたケースもあり、そういった会社には紹介しないようにしている。
・売主の希望で売り出ししていることを知られたくないというケースがあり、結果的に囲い込みになった。
投資家の3割が「不利益を受けた」
ところで、囲い込みによって実際に何らかの影響を受けた投資家はどのくらいいるのだろうか?
アンケートで、囲い込みによって「不利益を受けたことがある」と答えた投資家は3割に上った。
「不利益を受けたことがある」と回答した人の理由
・手数料を買い手売り手双方から得るため、情報展開せず、土地の売買が滞った経験あり。
・大手不動産会社に売却や賃貸募集を依頼した際、期待していた普通の広報・宣伝活動を数カ月にわたり手抜きされたことが何度かある。
「利益を受けたことがある」と回答した人の理由
・仲介手数料の割引
ルール改正「知らなかった」、不動産会社でも半数近く
これまで見てきたように、囲い込みを問題視している投資家が多く、他社による囲い込みを快く思っていない不動産会社もいることが明らかに。
一方で、今年からのルール改正については、認知度が高いとは言えないようだ。アンケートの結果、ルール改正について「知らない」と回答したのは、不動産会社で半数近く、投資家では8割に上った。
業務への影響は「なし」が6割
今回のルール改正による、業務への影響を不動産会社に尋ねたところ、影響があると答えたのは、2割に満たなかった。
そもそも自社で囲い込みを行っていないため「影響はない」と考えている会社が多いようだ。また、規制による効果があまりないためという意見もあった。
一方、「影響がある」とした理由としては、レインズの登録内容をこれまでより頻繁に更新する必要があるといった意見のほか、ほかの不動産会社の囲い込みが抑制されれば自社にとってチャンスが広がると期待する声もあった。
業務に「影響がある」と回答
・囲い込みはしていないが、「申込あり」に毎回切り替えていないため。
・特に大手不動産会社が囲い込みを行っている為、規制によって地場の不動産会社は客付がしやすくなると期待。
業務に「影響はない」と回答
・弊社は囲い込みはそもそもしていないので、影響はない。
・大手仲介業者の囲い込みはなくならないと思う。
「両手仲介」の是非は、立場でちがい鮮明に
今回のルール改正は、実際に囲い込みを抑止する効果があるのだろうか? アンケートで「効果がある」と答えたのは、不動産会社では2割にとどまった。
一方、投資家で「効果がある」と答えたのは約4割に上ったが、不動産会社と投資家のいずれも「どちらとも言えない」が4~5割となった。
では、囲い込みを是正して不動産取引の公正性を高めるために、どのような対策が有効なのだろうか? 前回の記事のコメント欄では、「囲い込みの原因となっている両手仲介自体を禁止するべき」といった意見もみられた。
アンケート結果をみると、不動産会社と投資家の立場のちがいが鮮明に表れた。両手仲介について「禁止されるべき」と答えた人は、不動産会社で1割にとどまった一方、投資家では3割以上だった。
また、「禁止されるべきではない」は不動産会社で6割に上ったが、投資家では2割にとどまった。
両手仲介を「禁止するべき」と回答した人の意見
・売主の売値や買主の指値が通りにくく、売主と買主の交渉というよりは最終的に囲い込みしている業者の望む利益金額で売買され、公正、公平な透明性のある不動産売買ができない。(投資家)
・囲い込みを無くし、スムーズに売買ができるようになった方が売主さんの為になる。(不動産会社)
両手仲介を「禁止するべきではない」と回答した人の意見
・仲介業をやっていて、両手がないようでは、やっている価値がない。(不動産会社)
・囲い込みは企業モラルや営業担当者のモラルであるので、禁止すべきではない。欧米先進諸国の様に両手仲介を禁止するのであれば、それに伴い成功報酬の手数料の内容を見直すべきである。(不動産会社)
・利害関係の調整は1社の方がやりやすい場合もある。(不動産会社)
・仲介業者としては、ビジネスなので当然「両手狙い」でいいと思う。不動産売買は、タイミング、縁、運の部分は多分にあるので、それらが合致すれば両手にもなり得ると思う。(不動産会社)
「どちらとも言えない」と回答した人の意見
・善意の結果として両手になる場合も一定数あると思われるため、単に禁止すればよいとは思えない。(投資家)
◇
「囲い込み」に関しては、投資家の多くが問題だと考えているが、不動産会社も大手を中心とした他社の囲い込みに対しては快く思っていないことがアンケートで鮮明になった。
一方で、囲い込み行為やその原因と言われる両手仲介を規制すべきかどうかなどについては、投資家サイドと不動産会社には意見の隔たりがあることも分かった。売り手と買い手、そして物件売買に欠かせない存在の仲介会社。「三方よし」となる落としどころの模索が続きそうだ。
(楽待新聞編集部)
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