道路の隅に置かれた「石」を見たことはないだろうか? 関西地方を中心に広く見られるこの石は、俗に「いけず石」とも呼ばれる。
「いけず(=意地悪)」「行けず」などが由来とされているこの石。そんなネーミングのインパクトから、SNSなどで話題に上がることも多いが、そもそも、なぜこのような場所に石が置かれているのだろうか。
今回は、愛が高じ、いけず石の本を出版するほどの「いけず石マニア」である杉村啓さんに、いけず石の世界を案内してもらった。
いけず石の役割は?
「そもそもいけず石というのは、細い路地の角などに置かれることが多いです。車などが家や塀にぶつかってしまうことがあると思いますが、その時に石が置いてあれば、先に石にぶつかるので、家や塀を守ることができるんです」
杉村さんは、いけず石の役割をそう解説する。「その時、ぶつかった方は『なんて意地悪(いけず)をするんだ』と思うかもしれませんが、この石によって、結果的に車、家、人などをトラブルから守っているんです」という。
いけず石は敷地内に固定されていることも多く、その場合「防御力・攻撃力ともに高いのもポイント」だと杉村さんは話す。
実際、いくつかのいけず石を杉村さんとめぐってみると、石自体に衝突時のものと思われる傷や跡がついているほか、石の周りのコンクリートが割れていたり、近くの壁部分がへこんでいたりするのも見かける。やはり、いけず石には一定の衝撃から「家を守る」という効果はありそうだ。
「(石に)ぶつかるのが1000台に1台だったとしても、1日に何百台と車が通るので、2~3日に1度はぶつかる…ということになります。細い道の石は、ドライバーにはたまったものじゃないかもしれないけど、意味があると言えると思います」(杉村さん)
法律違反の可能性も…
基本的には、私有地の敷地内に置かれていることが多いいけず石。ただ、中には、法律違反となっている可能性のある石も…。
「完全に敷地をはみだして、道路に置かれている石もあります。いろいろないけず石を探して歩いていますが、これはかなりグレーなんじゃないかな…と思っています」
この石は、道路の隅に立てられたポールと、建物の間をふさぐような形で、道路に置かれていた。
「こうした隙間は、自転車が通りがちなんですよ。自転車も金属で、家にぶつかったりこすれたりすれば傷がつくので、『自転車は通らせない』という目的で置かれているんじゃないでしょうか」と杉村さんは推測する。
こうした「道路にはみ出したいけず石」は違法ではないのだろうか。
不動産に詳しい関口郷思弁護士は、「敷地の外に置いてあるものは、違法と考えて問題ない」と指摘する。
「道路交通法上でも、道路の交通に支障のあるものを置いてはならないと定められています」
では、敷地の中に置いてある「いけず石」に車やバイクがぶつかり、傷がついた場合、所有者は損害賠償責任を負うのだろうか。この点について関口弁護士は、「それだけでただちに土地の所有者に責任が生じるとは考えにくい」と話す。
一方で、「私有地であるから何を置いても自由というわけでもない」ともいう。道路の交通に支障がある大きさの物が置かれている、道路にはみ出している、という場合で、車をこすったなどの事情があれば、損害賠償責任を負うケースもあると述べた。
また、京都市の都市計画局建築指導部は、「我々で指導の対象とするのは建物。いけず石のように動かせるものは基本的には指導の対象にはならない」としつつ、「容易に動かせない、土地に定着しているといった場合には、個別の判断だが、指導の対象となる可能性もある」と話した。
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車や自転車を「通らせない」というイメージもあり、いけず石に対して批判的な意見を持つ人も決して少なくはない。ただ、杉村さんは「本来の目的」にも思いをはせてほしいと語る。
「『いけず』という言葉だけが先行しすぎて、いかにも車を傷つけるため、邪魔をするために置いていると思われがちです。ですが、本来は家などを守るためのものです。しかも、車などで家などを傷つけても、当て逃げしてしまう人もいる。それだと、家主は泣き寝入りになってしまいます。そういうトラブルの経験から、『いけず石』が生まれた。大きなトラブルを防ぐ、1つの文化、生活の知恵なんじゃないでしょうか」
(楽待新聞編集部)
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