PHOTO:maroke/PIXTA

不動産マーケットは2013年以降、大規模金融緩和の恩恵にあずかって、コロナ禍の一時期を除き、順調な成長を遂げてきました。

平成バブル期(1980年後半から90年代前半)は「土地ころがし」をはじめとした土地に対する投資が活発になり、首都圏で地価が対前年比60%から70%上昇するなどの異常な値上がりを見せました。

現在の不動産マーケットの好況は、新築ならびに中古マンションの急激な値上がりによるもので、地価自体は住宅地で対前年比3~5%程度の伸びを示しているにすぎません。価格上昇の性質が全く違うのです。

そうした意味では、マンションは一部で「完全なる金融商品」になってきたともいえます。都区部での新築マンション価格が年収の19倍になってしまっている状況では、マンションはもはや一般人が買う物として考えることができないのです。

また、森ビルが開発した麻布台ヒルズJP森タワー上層部で分譲された「アマンレジデンス東京」に至っては、最上階の住戸(専有面積1500平方メートル)が200億円で売れたとの話を聞くと、これは投資商品というよりも、もはや「アート」と表現されるべきものと考えます。

PHOTO:K@zuTa/PIXTA

こうした物件価格の急激な値上がりは、不動産投資家にとって、キャピタルゲインを享受するには最高の環境である反面、資産ポートフォリオを拡充するには、かなり利回りの低い状況をどこまで受忍できるかという悩ましい問題に直面しています。

投資には常に多角的な情報収集、分析と冷徹な状況判断が必要です。

これまでの方程式がこれからも続くとは限りません。2025年という年がどのような年になるかを展望していきましょう。

物件価格の上昇は「青天井」ではない?

今年の日本経済はインフレがますます進む年となります。そうした意味では、物件価格の上昇は止まらないと見る向きが多いです。

新築マンションは土地を仕入れてから建物を建設、販売、引き渡すまでにおおむね1年半から2年程度はかかります。

ここ数年で建設費はうなぎ上りの状況です。先述したように、地価も年数パーセントですが上昇傾向にありますので、新築マンションの原価は上がる一方です。今年販売されるマンションの価格が上がるのは自明といえましょう。

新築マンションが一般市民の手の届かない状況になったために、実需層は当然、中古マーケットに流れ、中古マンション価格も上昇基調にあります。

PHOTO:shimanto/PIXTA

それではマンション価格はさらに天井知らずに上昇を続けるのかと言えば、そうでもないと考えます。不動産マーケットにおいてはすでに、インフレを先取りしている状態にあるからです。

現に首都圏新築マンションの平均価格は、2022年から2023年にかけて急激に上昇しましたが、2024年は前年比ほぼ横ばいの状況になりました。物件を供給するデベロッパーも価格の高騰を警戒して、供給には慎重な姿勢を強めています。

また、すでに首都圏でも周辺3県の郊外住宅地などで新築戸建ての在庫が増える、中古マンション価格の下落が生じているなど調整局面になっています。

投資需要に支えらえてきたマンションマーケットですが、今年はこの先を見極める大事な年になりそうです。その一番のポイントが「金利」です。

金利の上昇で「期待利回り」も上がる

日本銀行は昨年、「金利のある世界」の復活を宣言しました。

今年は比較的早い段階で利上げが行われる可能性があります。政策金利の引き上げで最初に影響が及ぶのが、既存ローンを変動金利で調達している人たちです。

政策金利は短期プライムレートに連動します。したがって変動金利型住宅ローンを組んでいる人は、金利の上昇を見込んでおく必要があります。すでに昨年の1回目の引上げでローン金利が上がったばかりですが、今年も更なる引き上げを覚悟する必要がありそうです。

PHOTO:enterFrame/PIXTA

不動産投資を行う人にも注意が必要です。これまで例えば利回りが3%台でも物件購入を行ってきた人たちにとって、政策金利の引き上げは、リスクフリーレート(債務不履行のリスクが極めて低い国債などの利回りを指す、投資の最小限とされる金利 )となる国債などの利回りの上昇を想起させます。すでに30年物の国債レートは上昇していて、中国国債30年物の金利を上回り始めています。

リスクフリーレートが上昇するということは、投資にあたっての期待利回りをその分引き上げて考える必要が出てくる、ということです。

投資は、リスクフリーレートとなる国債など最も安定性が高い商品レートにリスクプレミアムを乗せて構成されているからです。

これまでは3%の利回りでも買っていたのが3.5%あるいは4%に引き上げることになります。

インフレ下で家賃は上げられる? カギは「立地」

期待利回りを上げる、つまり投資目線を厳しくした場合、この利回りを実現するには2つしか方法がありません。

ひとつは「家賃収入が上がること」です。収入増は利回り増につながります。ところが家賃上昇が期待できないということになると、取得する不動産価格が下がらなければ利回りを確保できないことになります。

さて、世の中はインフレです。家賃は当然上昇基調になることが期待できます。ただ、日本の人口は減少し、今後は働き手の人口が急激に減少します。家賃は期待通りに上昇するでしょうか。

ここで特に肝心なのは「立地」です。人の出入りが活発なエリアは不動産が常に動きます。入れ替わりが生じれば家賃は上げやすくなります。また給料が上がると思われる大企業社員などが好む立地では、家賃上昇に耐性があるものと思われます。

ただ、日本は借地借家法によってテナントがものすごく守られています。賃料引き上げを契約更新時に要求しても、テナントはこれに応じないことができます。大家側は値上げの理由を合理的に説明できないかぎり、裁判をしてもテナント側に有利な判決になるのが日本の法律です。

したがって、いくらインフレでも、家賃が上昇するにはかなりのタイムラグがでてしまいます。入れ替えであれば、即座にマーケット賃料に切り替えることができます。人の出入りが活発な立地を選択する理由がここにあります。

高利回り物件に目がくらんで、郊外や平凡な地方都市、駅から徒歩10分以上の物件などに目が行きがちですが、注意が必要です。

利回りが高いということはリスクが高いということ。

郊外や地方中小都市などで今後、人口が増える、経済が活性化するなどという事象は起こりえません。投資目線を今まで以上に厳しくする。都心部より安い、という理由だけで手を出したりしないことを肝に銘じるべきです。

金利上昇→円高で外国人投資家が「売り」姿勢に?

こうした状況を踏まえ、都心部ならまだまだ価格は上昇するといえるのでしょうか?

たとえば都心でも家賃が伸びないエリアでは、価格が上がるということは利回りが下がることを意味します。

金利が上がるのに期待利回りが下がってしまうと、リスクがより高くなってしまいます。これは論理として破綻しています。ですから都心部の不動産については、すでに不動産価格はかなりインフレを先取りしているのです。家賃が伸びる期待のあるエリアを見極めることが肝要です。

金利が上がると、諸外国との金利差が縮小し、円高になります。これまで日本の不動産マーケットをエンジョイしていた外国人投資家にとって良い話ではありません。

自国通貨が下がると、いったん物件を売却して自国通貨にしておこうという動機が発生します。つまりマーケットでは外国人投資家が「売り」に転じる場面が増えそうです。

こうした悪い循環にならないためには、金利を引き上げることを吸収していく日本経済の急成長を期待するしかありません。

具体的には、私たちの給与水準がどんどん上がる、ということです。この30年ほとんど上がってこなかった所得ですからなんだか上がってくれてもよさそうなものです。

とはいえ、そのためには原資となる企業業績が良くなる必要があります。日本企業は大企業を中心に業績は順調といわれます。ただ、円安の恩恵をかなり受けている輸出企業が多いのも事実です。

さらに言えばこれも、輸出がどんどん伸びているというわけではなく、海外資産が多いため、円ベースでの売上や利益が膨らんでいるだけ、との指摘もあります。

PHOTO:Yama/PIXTA

したがって、日本経済復活には「内需の拡大」がポイントになると言えます。

1985年のプラザ合意の頃、日本経済は世界の中心に躍り出ようとしていました。今はどうでしょうか。内需といっても日本人の平均的な顔はかなり皺が多くなってはいないでしょうか。

日産自動車とホンダが合併するなどという話がマーケットにでてきています。大企業とて決して安定ではありません。少なくともすべての日本人が明日の成長を信じていた映画『always 三丁目の夕日』のような時代ではありません。

もう1つの期待(というか願望)は、「利上げは結局行われない」ということです。政策面からも金利の引き上げは得策ではないとして、日本銀行にプレッシャーをかけるというものです。

しかしこの方法は日本人が得意とする「問題先送り」にすぎません。海外との金利差をこれ以上放置して更なる円安を招くことが、国として本当に正しいのか、これは日本経済がいざ不景気に陥った時に、金融政策が破綻する(手札がない)ことを意味しています。

日本だけで物事をうまく運ばせることは、金融が世界中でつながってしまっている現代においてはできないのです。

今年の不動産投資はこれまで以上に、金融マーケットをよくチェックする、そしてエリア選択を精緻に行うことが重要になります。

価格が下がってきそうな保有物件は「売り」。下がってきた優良案件があれば「買い」。時代の流れを見極める大切な年になるといえるでしょう。

(牧野知弘)