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いま、多くの中国人の行動を”支配”している「攻略(ゴンリュエ)」と呼ばれるWebコンテンツをご存じだろうか。
「攻略」はTikTokやYouTubeのようなプラットフォームを指す言葉ではなく、特定のトピックに関する詳細な情報やアドバイスをまとめたガイドのようなものだ。
写真とテキストで解説しているケースが中心だが、動画のケースもあり、旅行や買い物、コスメ、投資、海外移住など、さまざまな分野の情報が「攻略」にまとめられている。
日本における不動産投資も、例外ではない。日本の不動産の魅力や注意点などが、さまざまな「攻略」にまとめられているのだ。
本稿では、筆者が複数の日本不動産に関する「攻略」を収集し、中国人が日本不動産のどの点に魅力を感じているのか、購入する際に何を気にしているのか、最新の投資トレンドと共に探ってみたい。
中国人を動かす「攻略」
「攻略」が掲載されている媒体としては、中国版インスタグラムと呼ばれる「RED(小紅書)」や、中国版TikTokの「抖音(ドウイン)」などが主なプラットフォームとなっている。
投稿の多くは事業者やインフルエンサーによるものだが、過度な宣伝は視聴者から不信感を抱かれてしまう。一般消費者からの情報提供が多いプラットフォームの「攻略」ほど、信頼されている印象だ。
試しにREDを検索してみると、驚くほど多くの「攻略」が見つかる。たとえば、「日本の運転免許証の取得」についてだ。
昨年、中国人旅行客が、日本で簡単な試験だけで免許証を取得できることを発信してニュースとなった。
観光ビザで入国してホテルの住所で申請すれば、免許の試験を受けられる。日本の免許証を取得できれば、それをもとに国際免許証を作れる。そうすれば、世界の大半の地域で運転できるようになる。

日本の運転免許取得について説明した「攻略」。「観光ビザや在留カードなしで、日本語力ゼロでも取得可能」などと書かれている
このように、知りたい情報があれば、まず「攻略」を探す。これはいま、中国人の一般的な行動となっている。
以前は対面での口コミが中心だったが、それが携帯電話のショートメールやSNSへと広がり、現在では直接面識のない相手にも伝えられる「攻略」が主流となった。
「攻略」で中国に広がる、日本不動産の魅力
では、日本不動産の「攻略」を見ていこう。いくつかの「攻略」の情報を確認したところ、日本の不動産の魅力は以下のような点に集約できるのだという。
■不動産投資利回りが安定している
日本は賃貸市場が発展しており、安定した利回りが期待できる。不動産価格が高く、利回りが低い東京でも5%前後とされる。地方都市ならばもっと高い。特に住民の年齢が若く、ITなど新興産業の成長が著しい福岡は注目されているようだ。
日本と比べると、中国の利回りは北京、上海、広州、深圳などの大都市でも2%弱(麟評居住大数拠研究院方向署、2024年9月)で、地方都市はさらに低い。資産価値が上昇すれば大きな利益を上げられる可能性がある一方で、賃貸で安定的な収入を得ることが難しい。
このように、中国人の日本不動産投資は従来、賃貸利回りを重視していた。ただ、近年ではタワマンブームにより、資産価値上昇を狙った投資も増えている。
しかし、割高感やメンテナンスコストの高さが問題視されてきており、「タワマンはドでかい地雷」といった警戒を呼びかける攻略も見られるようになった。
■トラブルの少なさ
日本は賃貸市場が成熟しているため、トラブルが起きにくいのもメリットだという。日本語ができない中国人でも管理会社に任せておけば、大きな問題は起こりづらい。
中国では個人所有物件の貸し出しは管理会社を仲介しないことが多く、もめ事に発展しやすいのだとか。また、半年単位、1年単位での契約が多いが、勝手に又貸しされていたといった借主側の問題もある。
■住宅の質が高い
新築物件でも数年もすると故障が多発し、老朽化してしまう。いわゆる「地雷物件」が中国では多いという。また高層建築でも、長期修繕計画と積み立て金制度が策定されていないことが多いため、今後、社会問題になる可能性が高い。
一方、日本は中古物件でも質が良く、さほどメンテナンスコストがかからない点が魅力だという。
■低金利の住宅ローン、頭金比率の低さ
日本で働いている長期滞在者の場合は住宅ローンが利用できるが、その金利は中国よりも低い。中国では今年1月から引き下げられたがそれでも3.3%と、日本に比べてかなりの高水準だ。
また、頭金比率も引き下げられたが、北京市では20%が下限とされている。複数の「攻略」で「日本では条件によっては頭金ゼロでもローンが組める」と取りあげられていた。
■土地の所有権
中国では土地はすべて国有だが、居住用地使用権は70年と長く、かつ期限切れになってもなんらかの継続措置が打ち出される可能性が高い。その意味では所有地に近い権利である。それでも「中国とは違い、購入すれば自分の土地になる」というのは強力な宣伝文句のようだ。

「日本の無人島購入ガイド」と題された「攻略」。具体例として三重県の丸島が挙げられており、価格は4300万円と記載されている
自分の土地を持つというロマン、その究極の形として、複数の「攻略」で取りあげられているのが「日本の島をまるごと買う」、だ。2023年に日本の無人島を購入したとの中国人女性によるSNS投稿がバズったことも影響していそうだ。
ただ、「攻略」を見ると以外に冷静で、「水や電気のインフラ整備にコストがかかる」「自然保護の関係もあり、好き勝手に建設できるわけではない」といったただし書きがついていた。
■共用部分の数え方
中国と日本では、不動産に関する表記ルールが異なる。具体的には、中国では共用部分も各部屋の面積として表記されることだという。その他、「日本の物件は表記上の面積よりも広く感じる」という意見があった。
「攻略」が指摘する、日本不動産投資の「欠点」
「攻略」では、日本不動産投資のリスクも認識されている。地震災害の多さ、為替レートの大きな変動、少子高齢化による人口減少といったあたりは日本人投資家とさほど認識は変わらない。その他、中国人投資家ならではの不安要素を見ていこう。
■空室リスク
賃貸利回りが良い物件と見込んで購入しても、実際には借主が見つからず利益を上げられないことも。日本に住んでいない投資家がよく確認せず購入した結果、地方都市の、しかも交通が不便な場所で失敗するというケースが多いという。すでに借主がいる物件を購入するのが安全だ、とのアドバイスがあった。
■法律、耐震基準
日本の法律を知らずに失敗するケースも警戒されている。特に「新耐震基準」を満たしていないとローン審査が通りづらい、保険が高くなるというリスクがあることから、1981年より前に建てられた物件には手を出すな、というアドバイスが多く見られた。
■税金、修繕積立金
中国では、まだ固定資産税が導入されていない。また、前述の通り修繕積立金も法制化されていない。この点を理解していないと、思わぬ出費が生まれる、と注意されている。
■思わぬ欠点
住んでみないと分からない問題も多々ある。1つは天井高だ。日本では240センチが一般的だが、中国では280センチが標準である。そのため、中国人が住むと天井の低さが気になるケースが多いという。

「タワーマンション vs 一戸建て」と題された「攻略」。タワーマンションについてはセキュリティや管理面の良さがメリット、価格の高さや面積の小ささ、エリアが限定される点などがデメリットとして挙げられている。一戸建ては部屋数の多さ、リフォームやペットの飼育が自由、といった点がメリットであり、防犯性の低さやメンテナンスの手間がデメリットとして挙げられている
また、中国ではかなりの富裕層でもないと購入できない一戸建てが日本では気軽に買えるのも魅力に映るが、実際に住んでみた人からは、「管理会社がないのでゴミ捨て場など自分で管理しないといけない」「庭の草取りがしんどい」「夏の2階は死ぬほど暑い」「駅から離れた一戸建ては近所にスーパーがないなど不便が多い」「台風のたびにどこか壊れるのではないかと不安」という失敗談も語られていた。
◇
見知らぬ国での投資、特に法制や税制も複雑で、思わぬアクシデントが待ち受ける不動産投資は難易度が高い。
これは中国人投資家にとっても同様だが、彼らの強みは情報共有だろう。失敗しやすい落とし穴や最新トレンドは、本稿で取りあげた「攻略」によってまたたく間に拡散される。
公開情報以外でも、口コミによる情報拡散の速さも日本の比ではない。いつまでも同じ失敗には陥らないわけだ。
ゆえに中国人相手のビジネスは、相手にも利益をもたらすWin-Winの仕組みでなければ、あっという間に「あそこは落とし穴」という情報が出回り、伸びなくなってしまう。
この情報共有のスピードがあって、なお日本への投資が有望と見られていることは、ポジティブな材料と言えそうだ。
日本投資のリスクが懸念されるようになれば、日本に投資する以上の素早さで撤退するのだろうから。
(高口康太)
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