
PHOTO: まちゃー /PIXTA
楽待新聞をご覧の皆様、元ポスドク理系大家と申します。
普段は実践大家コラムを執筆しておりますが、この度、楽待新聞でも記事を書かせていただくことになりました。その目的は、不動産投資に役立つ「データ」の存在を読者の皆様にお届けすることです。
私は理系分野の元博士研究員ですが、普段から専門分野に限らずさまざまなデータを見てきました。今の仕事でも多くのデータを扱っています。
その中には不動産投資に役立つと思われるデータがあり、その多くは国が整備して公開しているデータでもあります。しかし、十分に活用されていないのが現状です。
自分の不動産投資においても同じで、これまではハザードマップのデータを活用するくらいでしたが、私自身もこの記事をきっかけにもっと深く活用して不動産投資に役立てたいと思います。
初回は、不動産投資でおなじみの「将来人口・世帯予測データ」を取り上げます。このデータはご覧になったことがある方も多いと思います。
たとえば、楽待が提供する「賃貸経営マップ」の「人口・世帯数」では、市区町村ごとの人口・世帯数の実績データと将来予測データ(人口のみ)を見ることができます。
しかし、実際にはもっと詳細なデータもあって、町丁・字を単位とした人口予測を行うことも可能なのです! 今回は例として、東京都世田谷区のデータを見てみます。
ツールとあわせて紹介しますので、是非、ご自身の不動産投資にお役立てください。
将来人口・世帯予測の仕組み
ツールを紹介する前に、まずは将来人口・世帯予測の仕組みについて説明しておきたいと思います。
国立社会保障・人口問題研究所(社人研)では将来人口・世帯予測に「コーホート要因法」という手法を用いています。コーホートとは集団のことを指しており、ここでは「出生コーホート」(同じ年に生まれた集団)のことです。
この集団の増減を考えると、推計人口は以下のような式で書くことができます(以降の説明では、科学的な正確性を少し犠牲にして簡単化しています)。
「推計人口」=「基準年の人口」+「自然増減」+「社会増減」
※「自然増減」=「出生数」-「死亡数」
※「社会増減」=「転入数」-「転出数」
社人研ではさらに国籍異動率(外国人人口に対して、どのくらいの割合が国籍異動して日本人になるかを国別に算出して求めたもの)も考慮しています。
次に、推計に用いる主なデータについて説明します。
・「基準年の人口」:国勢調査(5年ごと)
・「出生数」:合計特殊出生率、年齢別出生率
・「死亡数」:年齢別死亡率
・「社会増減」:市区町村単位の人口移動の情報
国勢調査と人口動態統計が使われています。死亡数については将来の平均寿命の延びも考慮されています。
また、「社会増減」は移動率(全人口に対する移動者数の比率)に換算します。移動率は国内だけでなく、外国人労働者や留学生といった国外からの移動も考慮されています。
このようにしてさまざまな要因を人口の増減に置き換えていくわけですが、推計というのは「シナリオ(前提条件)」をもとに行われます。仮定するシナリオがどのようなものかによって、結果は大きく変わってきます。
社人研では、「高位推計」「中位推計」「低位推計」と3つのシナリオに分けて、基準年からの出生率・死亡率・移動率の変化(年変化)を考えています。各シナリオは以下の通りとなっています。
・低位推計
出生率が低下した結果として、高齢化が進むことを想定したシナリオ
・中位推計
現状から緩やかに変化することを仮定したシナリオ
・高位推計
出生率が上昇して、死亡率が低下するシナリオ
これらのうち、中位推計が基本シナリオとなります。社人研のデータから何か1つの値を引用して語るときは、代表値として中位推計が用いられます。
市区町村が公開している資料(「人口ビジョン」などと呼ばれる)では、社人研とは異なるシナリオが用いられることも多いため、注意が必要です。
ツールとデータの入手方法
さて、ここからは実際に人口予測を行うためのツールを、具体的な利用手順とともに紹介していきましょう。
今回は「国土技術政策総合研究所」が提供する「将来人口・世帯予測ツール」を利用して、東京都の人口・世帯予測を見てみます。
最新のデータは令和2年の国勢調査の結果を元に推計したものですが、世帯数のデータがまだ公開されていないので、「将来人口・世帯予測ツールV2(H27 国調対応版)」を選択しました。
都道府県別のデータの中から東京都を選択します。ダウンロードするには「G空間情報センター」のアカウント(無償で作成できます)が必要です。
ダウンロードできたら「13tokyov2.zip」というファイルがあると思いますので、解凍します(図1)。作業は Excel が利用可能なパソコンで行ってください。

図1:13tokyov2.zipを解凍する
中にはデータベース、マニュアルの他、4つのプログラムがあります。ただし、今回使うのはその一部です。最初にプロパティからマクロの実行を許可する設定をしておきましょう(図2)。

図2:プロパティからマクロの実行を許可する設定をする
実際にツールを使ってみよう
「将来人口・世帯予測プログラム」を起動します(図3)。まずは、「対象市区町村の設定」からです。ここでは、賃貸物件の掲載件数が最も多い世田谷区(スーモ調べ)を選択してみます。

図3:将来人口・世帯予測プログラムを起動した後の画面
次に「人口予測手法の設定」を行います。先ほど説明した社人研の手法(コーホート要因法)とは別の手法を選択することも可能です。選択して先に進みます(図4)。

図4:人口予測手法の設定画面
予測を実行する前に「入力データの確認・修正」ができます。別に開くExcelのシートを見ると、町丁・字を単位とした入力データであることが分かります(図5)。
今回は、修正は行わずに先に進みます。たとえば、大規模な分譲計画があるなどで、その影響を見たい場合には修正するという使い方も可能です(修正時は「入力データ修正時の注意点」に気をつける)。

図5:入力データの確認・修正(町丁・宇を単位した入力データとなっている)

図6:入力データの作成の設定画面
「チェックボックス」にチェックを入れて「設定終了」を選択してください(図6)。これで「将来人口・世帯予測の実行」ができます。
実行できたら結果を出力フォルダに保存します。終わったら、「リスト化する小地域(町丁・字)の設定」を行います。ここでは、世田谷区の町名の中でも一番掲載数の多い「上馬」(スーモ調べ)にしてみます(図7)。

図7:リスト化する小地域(町丁・字)の設定画面
選択できたら「リスト出力」を選んで保存します。保存できたら「プログラムを終了」します。
Excelでの操作が得意な人は出力フォルダにあるデータから自分で図やグラフを作成するのも手ですが、今回は「予測結果簡易グラフ作成プログラム」(図8)を使ってみます。これもExcelマクロです。

図8:予測結果簡易グラフ作成プログラムの起動画面
グラフを作成するためのファイルを選択します。「01_将来人口・世帯予測プログラム」のフォルダにある「出力」フォルダの中、「出力.csv」または「人口・世帯予測結果.csv」という名前のファイルがあるはずなので、選択してください。
選択したらOKをクリックします。自動で処理が進み「出力」フォルダに「人口・世帯予測結果(図表).xlsx」が作成されます。
世田谷区の人口・世帯予測の結果は?
「人口・世帯予測結果(図表).xlsx」を開くと、シートが3つあります。
シート1:DATA
シート2:グラフ(1)
シート3:グラフ(2)
DATAシートは人口・世帯予測を表にしたものですので、グラフ(1)とグラフ(2)の方を見てください。
グラフ(1)は世田谷区全体で、グラフ(2)は町名選択した場所(今回は上馬1丁目~5丁目)で集計したものです。グラフと表の形式で以下の結果が示されています。
・人口
・5歳階級別人口推移
・H27年基準・5歳階級別人口推移
・人口ピラミッド(男性・女性)
・総世帯数と、世帯主が高齢者の単独・夫婦のみの世帯数
・空き家増加数・増加率
「5歳階級別人口推移」と「H27年基準・5歳階級別人口推移」がありますが、後者は平成27年を基準に固定したシナリオで人口推移を示したものとなっています(図9、図10)。

図9:世田谷区全体の5歳階級別人口推移

図10:世田谷区上馬の5歳階級別人口推移
左右のグラフ全体を比べてみると、人口の多い年齢層の山の移動の仕方に違いがあることが分かります。平成27年基準(右側のグラフ)は少子高齢化が進展しないと仮定したもので、比較用です。
点線が過去、破線が基準年(ともに実績値)、実線が予測値となりますので、注意してください。たとえば、実際は平成32年は実績値があるはずですが、今回利用しているツールは平成27年版なのでここで示している平成32年の結果は予測値となります。
グラフからさまざまなことが読み取れますが、分かりやすいよう「平成57年」に注目してみます。世田谷区全体と上馬を比べてみてください。
どちらも高齢化の進展が見られますが、世田谷区全体は上馬よりもフラットな人口構成になっています。上馬は世田谷区全体と比べると、より高齢化していることが分かります。
この傾向は実際に人口ピラミッドでも確認することができます。ここでは、平成32年(2020年)と平成57年(2040年)のみを載せておきます(図11、図12)。

図11:世田谷区全体の人口ピラミッド(平成32年と平成57年)

図12:世田谷区上馬の人口ピラミッド(平成32年と平成57年)
生成AIと連携させて分析にチャレンジ
もう少し高度な分析もしてみましょう。1人では多様な視点からの分析ができないので、生成AIと連携させてみます。
以下は、ChatGPTの有償プラン(GPT4oモデル)を利用して行いました。
ユーザーが入力したデータを利用されないように情報漏洩対策がなされたプランを、仕事で利用されている方もいると思います。生成AIの利用が可能な方は是非試してみてください。
具体的には、次のような流れで進めました。
(1)「人口・世帯予測結果(図表).xlsx」をアップロードします(自動で分析してくれますが、データが複雑なので期待通りの結果は出ない)
(2)読み取ってほしいデータを指定して、3つのシートでのデータの対応関係を教えます
(3)分析したいグラフ(今回は5歳階級別人口の平成32年と平成57年)を生成させます
(4)人口ピラミッドの結果(図11、図12の画像ファイルから生成AIに読み取らせる)も与えて、生成させたグラフが正しいかを確認させます
(5)世田谷区の特徴として賃貸物件が多いこと、一般的に賃貸物件が多い場合は1人世帯(単身世帯)の間取り(1Kや1R)が多いこと、高齢化が進むと高齢者の単身世帯が増えることを教えます
(6)平成32年から平成57年の状態に変化するとき、間取り別の需要がどう変化するか分析してもらいます
(7)おかしな分析結果が出てきたら、根拠を尋ねたり、別の視点での見方を伝えたりして分析結果をブラッシュアップしてもらいます(このやり取りが楽しいので、時間がいくらあっても足りなくなります)
0~17歳までは親と同居している
18歳以上の若者層は単身世帯としての需要がある
若者層はやがて結婚して夫婦のみの世帯になる
子供が生まれると広い間取りに需要が出てくる
子供は成長して18歳以上になると単身世帯の需要がある などなど
(8)さらに追加のデータを与えて分析結果を点検させます
総世帯数
世帯主が高齢者の単独・夫婦のみ世帯数
高齢者世帯割合(%)
上記は「人口・世帯予測結果(図表).xlsx」に含まれているものです。生成AI自身にどんなデータが欲しいか、そのデータがあればどんな分析が可能かを聞いてみても良いです(これも楽しい)。
私は、さらに間取り別の賃貸募集件数と持ち家率(国勢調査を利用)を与えて分析を進めました。
(9)最終的に得られた分析結果をまとめてもらいます(図13)

図13:生成AIが出力した間取り別の需要の変化(世田谷区全体vs世田谷区上馬)
間取り別の需要は、区全体とその一部では異なるということが分かると思います。
◇
「不動産投資に役立つデータの存在を読者の皆様にお届けする」ということで、今回は「町丁・字を単位とした人口予測データの活用」について紹介しました。
ここで、データを扱う上での注意点を述べておきます。
まず初めに、常に最新のデータを参照すべきであるということです。今回の記事は古いデータに基づく予測なので、信頼性は高くありません。また長期予測になるほどデータの信頼性は低下します。
さらに、社会的に大きな影響を及ぼす事態が発生すれば、予測結果は変わってきます。さまざまな仮定をした上で推計していますので、前提条件が変われば、結果は大きく変わるでしょう。
しかし、投資判断を自分で行うための力をつけるには非常に役立つと思いますので、是非活用してみてください。
最後に最も重要な注意点として、予測データも生成AIの分析結果も鵜吞みにせずに、まずは自分で論理的に考えましょう。ファーストロジックということです!
(元ポスドク理系大家/楽待新聞編集部)
元ポスドク理系大家
理系のポスドク経験を活かしてサラリーマンを勤め、2016年10月から不動産投資を始めた兼業大家。仕事柄、さまざまなデータを扱っており、不動産投資に役立つデータにも詳しい。
プロフィール画像を登録