格安物件を求めて「不動産競売」に挑み、見事345万円で自宅を買った漫画家・根本尚さんが描く『競売物語』。本人が買ったのは戸建てでしたが、「マンション」を買うとどうなるでしょう?

多くの場合は管理人がいるので、戸建てより建物の状態がいいかもしれません。しかし、「管理費・修繕積立金」や「管理組合」など、戸建てにはない恐ろしい問題もあるようです…。

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【登場人物】

根本尚

『競売物語』作者の漫画家。北海道の自宅を競売で買った。

架空のメイド

本作のあいづち役。北海道弁がチャームポイント

阿部弁護士のひとこと解説

丸の内ソレイユ法律事務所の弁護士、阿部栄一郎です。これまでに不動産トラブルを数多く担当してきました。『競売物語』に関連して、競売にまつわる豆知識や、私の元に寄せられたトラブル事例などをご紹介します。

解説その1:「治外法権部屋」は本当にあり得る

本編では、マンションの1部屋が「治外法権」になるという話がありました。外交官を相手に立ち退きを求めるようなことが仮にあるならば、漫画の描写は実質的に正しいです。

外交関係に関するウィーン条約の第31条に、次のような定めがあります。

第三十一条 
1 外交官は、接受国の刑事裁判権からの免除を享有する。外交官は、また、次の訴訟の場合を除くほか、民事裁判権及び行政裁判権からの免除を享有する。
 (a)接受国の領域内にある個人の不動産に関する訴訟(その外交官が使節団の目的のため派遣国に代わつて保有する不動産に関する訴訟を含まない。)
 (b)外交官が、派遣国の代表者としてではなく個人として、遺言執行者、遺産管理人、相続人又は受遺者として関係している相続に関する訴訟
 (c)外交官が接受国において自己の公の任務の範囲外で行なう職業活動又は商業活動に関する訴訟
2 外交官は、証人として証言を行なう義務を負わない。
3 外交官に対する強制執行の措置は、外交官の身体又は住居の不可侵を害さないことを条件として、1(a)、(b)又は(c)に規定する訴訟の場合にのみ執ることができる。
4 外交官が享有する接受国の裁判権からの免除は、その外交官を派遣国の裁判権から免れさせるものではない。

簡単に言うと、「(一部例外はありますが)外交官は日本の裁判に服さない」という内容です。

そうなると、例えば、建物を占有(使用)している外交官相手に、日本法に基づいて建物から退去を求めることはできない、ということになります。実際に訴訟をする人がいるかはわかりませんが…。

外交官を相手にして訴訟等をした経験は当職にもありません。ただ、他国の大使館が賃料等を滞納しているといった噂は聞いたことがあります。

あくまで聞いた話ですので、実際に滞納しているのか、またそれを回収できているのかどうかはわかりません。

解説その2:前所有者の滞納管理費を払わないといけないワケ

漫画ではさらに、前所有者が滞納したマンション管理費についてのシーンもありました。マンション管理組合が、マンションを買い受けた人に対して、これまでの滞納分を請求するのです。

マンション管理費は、区分所有法7条1項に定められている債権(=法律で認められた、相手に特定の行為を求める権利のこと)です。

同法8条によって、権利や義務を個別に引き継ぐ「特定承継人」もその支払義務を負うことになります。通常の不動産売買における買主や、競売手続における買受人も特定承継人にあたります。

ですから、通常の不動産売買においても、買主は売主の滞納したマンション管理費を負担することになります。では、通常の売買と競売とで違うところはどこでしょうか?

大きな違いは「滞納金額の確認方法」です。通常の売買においては、仲介会社がマンション管理組合にマンション管理費の滞納額を確認します。そのうえで、売買代金の決済時にやり取りすることが多いです。

競売手続には仲介会社は入りませんので、買受人が自分で確認する必要があります。

現況調査報告書(第3話で出てきた「競売3点セット」の1つです)に管理費等の状況の欄があり、管理費や修繕積立金の額が記載されています。また、滞納の有無及び滞納金額も記載されています。

ただし、ここで見られる滞納金額は、現況調査報告書作成時点の金額です。その後、さらに滞納額が膨らんでいる可能性もありますので、予想して購入する必要があります。 

(漫画:根本尚、監修/解説:弁護士 阿部栄一郎)

根本 尚/漫画家(X

『プリンセス』(秋田書店)で連載中。 『怪奇探偵・写楽炎』(文藝春秋) 『現代怪奇絵巻』(秋田書店・週刊少年チャンピオン)、 『恐怖博士の研究室』(同・ミステリーボニータ)他。 同人サークル名、札幌の六畳一間。 北海道ミステリークロスマッチ会員。北海道の自宅を競売で取得した。

阿部 栄一郎/弁護士

2007年東京弁護士会登録。不動産オーナーや大家さんのサポートを中心に、不動産に関する問題の解決実績多数。賃貸借契約にまつわる建物明け渡しや賃料の回収、原状回復から不動産の売買契約等まで幅広い案件を担当しているほか、不動産関連のイベントや相談会などにも積極的に参加。不動産専門紙への寄稿も行っている。