最近よく聞くようになった「年収の壁」に関する議論。その火付け役と言っていいのが、国民民主党の玉木雄一郎氏だ。
年収の壁が引き上げられることで、国民の生活にどのような影響があるのか。玉木氏が「178万円までの引き上げ」を提案するのはなぜなのか。
今回、弁護士の北村晴男氏との対談が実現。年収の壁の基本的な構造から現状の課題まで、存分に語ってもらった。
※収録日:1月29日
【出演者プロフィール】
玉木雄一郎
国民民主党所属の衆議院議員(香川2区・6期)。香川県大川郡寒川町(現さぬき市)生まれ。「永田町のYouTuber」として「たまきチャンネル」も運営。さぬきうどんとギョーザ定食が好き。
北村晴男
長野県生まれ。早稲田大学法学部卒業。1986年司法試験に合格、弁護士に。公式YouTubeチャンネル「弁護士北村晴男ちゃんねる」の登録者は50万人以上。
松尾英里子
早稲田大学商学部卒業。元日本テレビアナウンサー(2006~2012年)。2012年4月~2013年11月ワシントンD.C.にて生活。2014年6月よりフリー。
インフレ下で「事実上ステルス増税」
松尾 年収の壁に関して、報道では「103万円から150万円に上限引き上げで調整」とありましたが、先日の衆議院本会議で石破首相から「検討しているとは認識していない」という言葉が出てきました。
玉木 これまで協議をしてきて、一応自民党公明党の中では103万円を123万に、20万円上げることは決まったんだけれども、インフレで出費が増えてる中で年間5000円とか1万円の減税効果しかない。
それで「もうちょっと国民生活を考えてできませんか」と再協議しようというところで「150万円は全く考えてない」とね。なんかやる気を感じないですね、せめて「今その3党で協議してるのでその推移を…」とかって役人答弁するんだったらいいのに。
北村 選挙で勝ちたくないんですかね、石破さんは。
玉木 みずほリサーチ&テクノロジーズさんの調査によると、2024年度は物価上昇に伴って家計の負担増が9万円となる見通しです。各家庭で月8000~9000円の負担が生じているなら、同じぐらいの手取り増を国が保証して、なんとかこのインフレを勝ち抜いてください、ということ言えばいいんですけどね。
松尾 ここで、年収の壁についてより詳しく解説してくださるゲストをお呼びしています。登録者数102万人のYouTubeチャンネルを運営している 「オタク会計士」の山田真哉さんです。山田さんは公認会計士・税理士で、現在は芸能人やYouTuber専門の会計事務所で会長を務めていらっしゃいます。
山田 まず今回大事なのが「基礎控除」という、憲法25条の生存権に関わることです。健康で文化的な最低限度の生活のためには、住民税なら年間43万円で、所得税なら48万以内で生きてくださいって金額ですね。
玉木 ここまでは税金取らないっていうか、その43万円や48万円は最低限お手元に残しますよっていう、憲法25条を税制面から支える制度とされています。
北村 この金額じゃ生活できませんけどね。
玉木 そうなんです、それも大事な視点なんです。
山田 よく言われている103万の壁というのは、この所得税の基礎控除48万円と、また別の給与所得控除の最低保障額55万円を合わせて、103万円以下のパート・アルバイトの方は税金かからない、かつ扶養のままでいられますよという話です。
この103万の壁を引き上げる根拠が、「物価高対策」と「働き控え対策」だと私は理解しました。この基礎控除を上げると、みんながもっと働けるようになりますし、税金かからないってことは手取りが増えますので物価高対策にもなりますね。国民民主党さんはここを大きく引き上げて178万円に、と案を出されていました。
玉木 今回103万円から123万円に20万円上げたと言うんですけど、住民税のほうの基礎控除は全く上げられていません。
北村 ケチりましたね。
山田 年収が200万円を超える方々にとって控除額のアップは10万円だけですので、扶養の数とかにもよりますが、仮に年収500万~800万円ぐらいの所得税率20%の方にとって減税額は、この10万円に20%かけた2万円となります。
そこそこ所得があって年間2万円税金安くなるということで、昨年の定額減税が年間4万円ですから、それに比べると半減していますね。
玉木 定額減税で3兆~4兆円減税となっているんですけど、それでも過去最高の税収なんです。なんか減税したら減るとか言うんですけど、実際は増えているんでね、ケチケチするな、と。
山田 減税額のシミュレーションをしてみました。分配は私の予想ですが、仮に壁が150万円になると減税額が年間4万8000円くらい増えます。178万円を自民党が飲んだとして、減税額が7万6000円くらい。
国民民主党さんの案をそのまま通していたら、控除額が75万円くらい増えて、所得税率・住民税も10%減税になりますので、減税額が22万5000円ぐらいになります。
北村 年間22万円ともなれば、しっかり実感できる額ですよね。
玉木 インフレで出費が増えてますから、それはちゃんと補ってあまりあるくらいにしていかなきゃいけない。
北村先生がおっしゃったように、そもそも憲法25条の趣旨からして48万円で食っていけるのかということを考えると、やはり基礎控除自体で123万円くらいにすべきだと思っているんですよね。
北村 絶対そうですよね。
玉木 アメリカではスタンダードディダクション、標準控除っていう呼び方ですけど、これが大体220万円ぐらいです。220万円までは税金取らない、手元に残す。
もう1つ考えたらいいな、と私が思うのは生活保護の水準で、大体年間で生活保護に4兆円とかをかけていて、受給者で割ると1人当たりおよそ140万円を使っていることになります。
生活保護の方が年間140万くらいで生活しているのであれば、働いている人も140万まではお手元に残してあげるっていうように、税を取られない水準はある程度一致させたほうがいいんじゃないかなと。
北村 それが本来の姿ですよ。どう考えても。その話が結局、財源どうするんだって話じゃないんだ、というところを国民が分かって主張すべきですよね。
山田 そうですね。本来であれば、この物価高対策が最終的に経済の成長につながって、それから税収が増えるという循環ができるはずなんです。ここをさておいて財源って話になっているので、税理士的には「なんで」って思ったりもしますね。
玉木 この基礎控除の引き上げについて、103万円と決まったのが1995年で、30年間全く動いてないのはデフレだったからなんですね。1960年代は毎年1万円ずつ基礎控除って上げていたんですよ。
1970年代は2年ごとに数万円になりましたが、インフレに合わせて基礎控除額を上げていくのは日本でも当たり前だったんです。アメリカ1年間で 750ドルぐらい上げている。今やってないのは日本だけですよ。
玉木 財源の話をすると、2025年度の予算案ぜひ見ていただきたいんですけど、1年間で国と地方の税収って12兆円増えるんです。消費税換算で4~5%上昇することと同じくらいですから、税収が増えるのはいいんだけどペース早すぎなので。
壁の引き上げで「7兆円が吹っ飛ぶ」と言われていますけど、それでも5兆円増えますから。経済成長率と整合性のある税収の伸びにしないと。インフレ時代のある意味弊害、インフレーションタックスって言うんですけど、事実上ステルス増税になっているんですよ。
だから減税しろっていうんじゃなくて、増税度合を調整して経済成長率ぐらいの増加率に税収を抑えたらどうですか、って言ったんです。
178万円まで引き上げないと「インパクトない」
山田 実際、税理士的には基礎控除が毎年変わっても大した手間じゃないんですよね。延滞税の利率とかも毎年変わっていますし。定額減税のほうが100万倍手間でしたよ。
玉木 会計ソフト上の対応もね、簡単な変更だと思いますよ。
山田 今回基礎控除が10万円動くというだけでもすごい。130年ぶりですかね。また今後どうなるのか、というのは僕らは非常に気にしています。
そこで、基礎控除と給所得控除を半分ずつアップされた場合の、パートの方の手取り額を、103万円、123万円、150万円、178万円の壁でシミュレーションしました。
山田 現状は年収103万円までが所得税かからないので、配偶者控除があって手取り率が111%という状況です。これが年収106万円になると、社会保険料が発生して手取り率が94%、200万円になると40万円も税金取られる。それなら働き控えって話になってます。
これが123万円の壁ですと、表を見てお分かりの通り、あんまり変わらないです。各10万円上がったぐらいでは、ほぼ誤差です。150万円の壁でも、結局123万円の壁に比べてさらに1%手取りが増えるくらいですね。
これが178万円の壁まで上げますと、ようやく手取り率90%となる。現状の社会保険料を含めた感じだと、178万円の壁まで引き上げたら意味があるけど、150万円ぐらいだとそこまでインパクトはないのかな、というのがシミュレーションの結果です。
玉木 この178万円の壁の計算も、今の与党案になぞらえたもので、うち(国民民主党)の案だともっと手取り率は上がります。
とにかく今の案だとほとんど減税効果がない。むしろインフレの負担のほうが大きい。だからもう少し皆さんの手元に残るお金を増やして、生活を防衛するために、やっぱり178万円を目指して頑張りたいと思います。
松尾 北村さんは玉木さんにどんなことを期待しますか?
北村 いま国民の特に若い人、働いている世代が、玉木さんに期待していると思います。先ほどの解説でよく分かりましたけど、ごまかしのような自公案にのまれず、178万円までの引き上げは何としてでも実現してほしい。そこに全力を上げていただきたいと思います。
玉木 日本人はもっと豊かになれる、日本はもっと強くなれる。それを実現するために、政治の役割が今まで以上に重要になっている。だから頑張りたいと思いますし、国民の皆さんと一緒に変えていきたいというか、民主主義はちゃんと機能すると示していきたいなと思います。
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玉木氏の移民政策、外交問題への考え方は?
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(楽待新聞編集部)
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