
やきとり大吉 住吉店(筆者撮影)
住宅街に、赤い看板が煌々とついている。「やきとり大吉」の店舗だ。
利用者の多い駅前よりも、どちらかというと閑静な住宅街でポツンと店を構えているのを見かけることが多い。
一般的な居酒屋であれば、客が入りやすい駅前の、席数を確保できる建物に出店し、より多くの客を呼び込もうとするのが通常ではないだろうか。
しかし、やきとり大吉は駅から徒歩10分以上かかる場所にも出店している。そして店舗面積は10坪20席が標準、全店が個人経営の加盟店という、比較的こぢんまりした印象だ。
目立つ立地にあることを重視していないやきとり大吉は、どのような戦略のもとで、どのようにして店舗物件を選んでいるのだろうか。
駅前ではなく住宅街に出店
やきとり大吉は、ダイキチシステムが運営するFC(フランチャイズ)チェーン。関東・近畿を中心に、北海道から沖縄まで約500店舗を構える。
2023年には「鳥貴族」を運営するエターナルホスピタリティグループの傘下に入ったことでも注目を集めた。
もしかしたら、やきとり大吉という名前こそ知っていても、実際の店舗は見たことがないという人もいるかもしれない。やきとり大吉は、あまり駅前や繁華街に出店していない。
駅前や駅近くにありがちな大手居酒屋チェーン、例えば鳥貴族、磯丸水産、塚田農場などとは、また違った雰囲気のところにやきとり大吉はある。都内の店舗をいくつか回ってみた。
最初に向かったのは住吉店。住吉駅から徒歩5分、錦糸町からは徒歩10分の場所に位置する。
片側2車線の四ツ目通り沿いにあるが、この辺りは繁華街ではなく、マンションが建ち並んでいる。会社帰りに同僚と行くような店舗ではなさそうに感じた。

住吉店の近くには大きなマンションがある(筆者撮影)
次に向かったのは神田川末広橋店。最寄りの東中野駅から徒歩で10分弱で到着する。東側の大久保駅から向かうと15分はかかりそうだ。
こちらも住吉店と同様、周辺はマンションやアパートが建ち並ぶ住宅街となっている。近くに大規模なオフィスビルや工場は見当たらない。

神田川末広橋店(筆者撮影)
私が訪れたのはほんの一部の店舗にすぎないが、他の店舗を地図で確認すると、同じような駅からやや離れた住宅街にある店舗が多かった。
都内で多くの人が集まる、新宿・渋谷・上野といったターミナル駅周辺には出店していない。池袋には西池袋店を構えているが、池袋駅から徒歩15分ほどかかる位置にある。
坪賃料「1万5000円」が基準
こうした場所に出店しているのは「あえて」なのだろうか?
ダイキチシステムの代表取締役社長・近藤隆氏に、どのような基準で店舗物件を選んでいるのか、聞くことができた。
「駅から徒歩何分といった制限はありません。ただ、広さはキッチンを含め10坪20席を標準としています。仮に20坪の店舗を借りたとしても、半分は倉庫にして店舗は10坪にします」(近藤氏)
10坪20席という小さい店舗は、店主と店員1人で回すことができ、人件費を抑えられるメリットもある。
また、出店を考える上では賃料も重要だ。近藤氏によると、基準は坪1万5000円以下としており、月額賃料15万円程度の店舗が多いという。
都内の店舗賃料(1階)は平均で坪3万円程度、ターミナル駅周辺では4万~5万円台のところもある。この水準を踏まえると、都市部で目線の合う物件は、駅から少し離れた場所でないと見つからないのかもしれない(地方では駅前に店を構えることもある)。
とりわけ、周辺に居酒屋が無い住宅街では、やきとり大吉の赤い看板が目立つというメリットもある。
もちろん、賃料が安ければどこでも良いというわけではない。必須の条件としているのは、道路沿いの1階であること。住宅街でも路地裏には出店せず、シャッター街もNGとしていると近藤氏は語る。
建物については、躯体がしっかりしていれば築年数は問わないという。まるで戸建てのような建物に入居している店舗も見かけた。

四ツ目通り店(写真左、筆者撮影)
直営店・法人経営店舗はなし
やきとり大吉は、全店が個人経営のFC店である。直営店は1店舗も無い。
当初は「お金は無いが店を出したい若者」と「資本家」をマッチングする事業としてスタートしたのだという。
開業方法は、本部所有の店舗を店主が借りる「リース方式」や、店主が自身で店舗を取得する「オーナー方式」などがある。
「店主のバックグラウンドは元会社員や銀行員などさまざまで、半数以上が飲食未経験者です。最初はリース方式で加盟し、お金が貯まった後、店舗を買い取ってオーナー方式に移行する方が多いですね」(近藤氏)
現在は約9割の店舗がオーナー方式となっているという。
なお、店主は個人のみで、法人の加盟は受け付けていない。過去には「1億円あるから8店舗出店させてくれ」との問い合わせもあったが断った、と近藤氏は話す。
こうした住宅街のこぢんまりとした店舗には、どういった客が来るのだろうか。
近藤氏によると、男女比は8:2と男性が多く、年齢層としては40代~高齢者、店舗周辺に住む常連客の利用が多い状況だという。客単価は2900円ほどとのことだ。
「コロナ禍ではテイクアウトのみ・酒類提供禁止といった制限がありましたが、常連客が収入が減ってしまう店主を心配して買いに来てくれた、という話もありました」(近藤氏)
10坪というコンパクトな店舗かつ個人経営であるということが、より人情味あふれる経営につながっているのかもしれない。
◇
やきとり大吉は、平成の大出店を経て2002年には1139店舗を展開していたが、店主の高齢化などにより、閉店を余儀なくされていた。
しかし、近藤氏は「やきとり大吉は再出店を進める方針です」と、今後の店舗数拡大に前向きな姿勢を示した。最近では、外装に白木やガラス張りを用いた新業態「白い大吉」を出店したほか、期間限定メニューの運用にも力を入れている。
現在展開する店舗のうち、約8割が10年以上存続しているというやきとり大吉。2030年までに700店舗達成することを目標としている。
もしあなたの所有物件に賃料15万円の店舗があるならば、いずれ「やきとり大吉」が出店してくるかもしれない。
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