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「購入した日本の無人島へ、社員を連れて旅行に行くつもりだ」

約2年前、中国人女性が沖縄の屋那覇島を購入したとSNSに投稿して注目を浴びた。その女性が今夏、島へ来訪すると報じられている。

購入目的は明らかにはされていないが、島については「ありのままの自然を残したい」と強調しているという。

昨今、外国人による日本の土地や建物購入については「規制を設けるべき」という声もあり、国会などでもしばしば議題に上がる。

では、外国人による土地等の取得はいったい何が問題なのだろうか。また、なぜ現状の日本では、それに対する規制がないのだろうか?

外国人の土地取得規制をめぐっては、これまでにさまざまな動きがあり、国際協定や憲法の規定といった要因が複雑に絡み合って現状に至る。

今回は専門家の解説をもとに、外国人の土地取得の問題点や規制が難しい背景を整理していく。国土の買収という事態に日本はどのように向き合うべきかを、改めて考えてみたい。

外国人に買われることの「3つの問題点」

売られゆく日本に危機が迫っている―。

日本の土地が外国人に買われることに対し、SNSなどで「静かな侵略だ」として警鐘を鳴らす声は少なくない。

しかし外国人に土地を買われることの何が問題なのか、実はよく分かっていないという人も中にはいるのではないだろうか。まずは、そもそもの問題点を整理することから始めよう。

話を聞いたのは『サイレント国土買収』『領土消失 規制なき外国人の土地買収』(角川新書)などの著者で、森林セラピーソサエティ副理事長の平野秀樹氏。外国人による土地取得には「大きく3つ、以下のような問題点があると考えます」と語る。

(1)国家の財源としての税金が取れなくなる

平野氏が指摘する1つ目の問題は、もし固定資産税などを滞納された場合、所有者が外国人だと税を取るのに大きなコストがかかることだ。言語の問題、連絡手段の有無など、自治体の対応には限度がある。

関連して、所有者不明の土地が増えてしまうことも問題点だという。海外での外国人から外国人への転売は実態上、報告不要になっており、税務担当の職員(徴税吏員)の権限は国外に及ばない。

平野氏によると、たとえば大阪市では海外向けの税金の督促状が2018年から2020年にかけて、1900件から3272件へと1.7倍に増えたという。

その後の処理については公表されていないが、「大阪市としては徴税を諦めるしかなくなるだろう」と語る。

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「税金は取りやすいものから取ればいい、コストをかけないで取るべきという考え方があるが、日本国籍を持つ人々の税金逃れを許さない一方、外国人からは税金を取らないとなれば、国内外の逆差別になります」(平野氏)

(2)安全保障上の懸念

2つ目は、安全保障に関する問題だ。現在は、防衛関係など日本にとって重要な役割を担う施設の近くであっても、外国人は土地の所有を規制されない。この点について「常識的に考えて問題がある」と平野氏は言う。

横須賀基地での事例(2024年5月9日防衛省発表)のように、平時でも重要施設の近くからドローンを飛ばすことができ、有事の際には施設を即座に壊滅させてしまう、といったことも可能性として考えられるという。

2022年に施行された「重要土地等調査法」では、重要施設の1キロメートル圏内の土地利用状況を調査できるようになった(関連記事)。しかし直接の土地売買規制にまでは踏み込めていないのが現状だ。

(3)国家の発展の芽を摘んでしまう

最後に、国家の発展を妨げる点も問題だという。

「国家が何をやるにしても国土がなければ始められません。再エネ用地や港湾、物流拠点、水源林、農地など、現行の『重要土地等調査法』の対象外になっている土地も重要国土です。それらの土地を海外に押さえられることの是非は考える必要があります」(平野氏)

たとえば道路の新設や災害時の復旧事業、不法投棄された産業廃棄物の撤去など、すべての公共事業は地権者の了解がなければ行えない。

「将来、意図的にそういった事業を妨害することも可能になるのが問題です。外資を一括りにせず、『世界が認める法治国家』と『それ以外の国家』を分けて考えるべきです」と平野氏は懸念を示す。

中国人は「相続税ゼロ」…不公平な競争

さらに平野氏は、不動産購入における競争の条件が日本人にとって不利になっている、とも指摘。

「もっと日本人が不動産を買える仕組みを創設しなければいけないと考えます」と語る。

「たとえば、中国には相続税が存在しません。所有者の代替わりのたびに相続税を払わなければならない日本人と、相続税ゼロの中国人とでは、公正な競争ができませんよね。これも国内外の逆差別が起きていると言えます」(平野氏)

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相続税がなければ購入した土地をいくらため込んでも問題なく、中国人に買われた土地は二度と日本に返ってこない可能性も考えられるという。外国人の不動産保有に関して、追加税など新たな税制度を整えるなどの対応も必要だというのが平野氏の意見だ。

また、諸外国と比較して日本の土地は国家からの関与が弱く、個人の所有権が強いため、「モノ」的に売り買いされやすいことも懸念だと言う。

「土地は単なるモノではありません。公共財であるという側面を常に意識した制度が必要なのに、国際化する中でその対応が追いついていない。欠陥を外国に突かれているというのが実態です」(平野氏)

それでは今後、どのような方策が必要になるのだろうか。「ただ1つの有効な手立てというものはなく、総合的な策が必要」としつつ、平野氏は次のように語る。

「まず今ある登記情報だけでは不十分です。登記簿や住民基本台帳等に連動させた土地情報の基盤整備が必要でしょう。所有者を即座に把握できる近代的な名寄せシステムが不可欠です。また今は、外国人や外国法人がダミーの日本法人を立てたり、ペーパーカンパニーの合同会社と匿名組合を組み合わせて不動産を購入しているため、所有者を特定できないケースが多々あります。実質的な土地の支配者が秘匿されない仕組みづくりも求められます」

地域住民が買えなくなる事態も

一方、「外国人による不動産購入について、全面的な規制には賛成できない」と語る人物もいる。

外国人の土地取引をめぐる問題について法的な観点から研究を行っている、北星学園大学教授の足立清人氏だ。

日本では基本的人権として経済活動の自由が保障されていること、外国人にもその権利が平等に認められることから、外国人の不動産取引を「原則制限すべきではない」と考えているという。

しかしそのうえで、「全面的ではなく、部分的にはやはり規制を設けるべきだと考えます」と語る。土地だけではなく建物の取引も含め、現状の制度では問題があると考えているそうだ。

「居住用ではなく単なる投資として物件を購入し、売り抜けていく外国人も多いと聞きます。連絡が取りづらい海外で転々と譲渡が繰り返されれば、所有者不明や管理不全の不動産が増加する一因になることも考えられます」

北星学園大学教授の足立清人教授

また、「外国人による土地・建物の購入は、地域住民のウェルビーイング、ソーシャル・ジャスティスや衡平にも影響するのでは」とも指摘。

外国人富裕層の購入によって住宅やマンションの価格が高騰し、本当にそこで生活したい日本人が土地・建物を買えなくなることに懸念を示す。

「たとえばオーストラリアでも外資の影響で不動産価格が上がりすぎたことを受け、外国人による住宅への投資は国益にかなっているかをチェックする、という制限を設けています。こうした議論は日本でもするべきじゃないでしょうか」

単なる土地・建物取引の問題として見るだけでなく、外国人の投資による日本全体への影響を考慮し、行政による規制を設けるなどの仕組みが必要ではないかと語る足立氏。

不動産取引に関わる不動産業者に対しても、「利益ベースで業務展開するだけではなく、地域や住民の持続可能な発展という視点をもって業務を行っていただきたい」と言う。

「さらには地域住民自身も、自分たちの地域の土地・建物の現状を理解し、地域の持続可能な発展のために今後どのように利活用・取引されていくべきかを考えてほしい、と思っています」

なぜ規制が実現できないのか?

全面的にしろ部分的にしろ、専門家も「規制が必要ではないか」と訴える外国人の不動産取得問題。

では、今すぐにでも規制してしまえば良いのではないだろうか。そう考える人もいるかもしれないが、今の日本で規制が実現できていない背景にはさまざまな要因が絡んでいる。

外国人の土地取引を規制するのが難しい理由として、法的な観点では大きく以下が関わってくる。

1.GATSにおける国際ルール

日本が1994年に加盟したWTOのGATS(サービス貿易に関する一般協定)では「内国民待遇の保障」という国際ルールがあり、土地取引で外国人にだけ特別な規制を設けることはできないとされている。

たとえ外国人の土地取得を規制する法律を作っても、GATSに違反しているということから他のWTO加盟国に提訴される可能性がある。

内国民待遇の保障とは、外国のサービスや事業者に対して、自国のものと同じ扱いをしなければならないという原則だ。

土地取引の例でいえば、外国人が日本の土地を購入する際は、日本人が土地を購入するときと同じ条件で取引できるようにしなければならない。

このルールは、GATSの締結時に各国があらかじめ約束した分野でのみ適用される。土地取引の分野についてはルールを「留保」し、適用されないようにした国も存在する。

しかし、GATS加盟当時の日本には外国人土地法(後述)を除いては外国人の不動産取得に規制法がなく、また外資を呼び込みたいという思惑もあったことから、この留保をつけなかった。

前出の平野氏はこの点に関して、「今のように、外資によって多くの国土が買われる事態は想定外だったのではないか」と語る。

当時は国家安全保障局も存在せず、安全保障の観点で総合的に判断を下すような部門がなかったことも一因と考えられるという。

ジュネーブ WTO本部(PHOTO:tikanete / PIXTA)

ただ、この国際法にも「安全保障例外」という考え方がある。重要な国益保護のためであれば、通常の国際法上の制約を免れるというものだ。

正当な根拠があれば、安全保障例外として後から土地取引についての規制を設けることは可能になる。

「たとえば、日本と同じようにGATS加盟時に留保をつけなかったシンガポールもインドも現在は外国人の土地売買を規制しています。イギリスやフランスもそうです。要は、安全保障例外をどう解釈するかという話です」(平野氏)

2.日本国憲法第29条の財産権

日本では、憲法によって日本人・外国人問わず財産権(自分の財産を自由に使ったり、処分したりできる権利)が保障されている。土地等の取引を制限することは、この財産権の侵害につながると考えられる。

明治憲法では所有権(=財産権)について第27条に規定があり、「日本臣民ハ其ノ所有権ヲ侵サルゝコトナシ」と、権利の主体が日本人に限定されていた。

しかし、戦後の日本国憲法第29条では「財産権は、これを侵してはならない」とされ、主体の記載がない。当事者が外国人でも差別なく財産権が保障されるということだ。

国籍によって土地取引を制限する差別的な取り扱いは、外国人の財産権の侵害に繋がる。また日本人の所有財産である土地を外国人に売却できないよう規制することは、日本人にとっての財産権侵害にもなってしまう。

こうした憲法上の規定が、外国人の土地取得を制限することが難しい要因となっている。

国会議事堂(Yuichi Mori Photography / PIXTA)

またこれらに加えて、「国際法の相互主義」も、外国人の土地取引の規制が難しい要因として挙げられることがある。国同士の関係は対等であり、お互いに対して同じ待遇を与えるという考え方だ。

日本が他国に対して自国の土地の所有を禁じた場合、相手国側もまた日本に対して自国の土地の所有を禁止することができる。

外国から土地購入を制限された場合、日本に経済的な損失が生じる可能性があるため、容易に外国人の土地購入を規制できないという見方もある。

ただこの点に関して、平野氏の場合は「外国人の土地購入を規制できない直接の要因にはならないと考えている」という。

「たとえば中国の場合、土地所有権はすべて国家と農民集団に属しており、外国人と外国法人は買うことはできません。そもそも禁止されているわけですから、相互主義が必ずしもマイナスに働くことはないという考え方です」(平野氏)